召喚されちまた
人混みを避けるように路地裏に入った。
こんな状況にもかかわらず引きこもりニート特有の人間嫌いは変わらないらしく、人気の無いこんな路地裏に来てしまった。
少し開けたところに出て、俺は乱れる息を整える。
「ハァハァ…どうなってんだよ。なんで俺は転生しちまったんだ!?」
転生のテンプレとして死んで異世界で蘇りパターンが王道のはずだが…
俺別に死んでないんですけど!?
ポケモンGOしてただけですけど!?
なんでどうして?
引きこもりニートで“社会的に死んでる”からか?
「だとしたらふざけんな…てか舐めんな!!」
もう最悪だよ…なんでこんな目にあわないといけないんだ。
俺なんか悪い事したか?
引きこもりニートがそんなに悪い事か?
「ハァハァ…急に走ったから苦しいなお茶お茶ッ」
背負ったリュックを下ろして中からお茶を取り出してがぶ飲みした。
「ングッゴキュ…ング…プハァ~生き返った」
お茶の残りはもう半分を切っている…残り200ccってところか。
これから先は大事に飲まないとな。
キャップをしっかりと閉めてリュックの中に大事にしまった。
「そういえばさっきは焦って物を詰め込んだけどちゃんと全部しまったっけかな」
心配になった俺はリュックの中に手を入れてチェックする。
「えーと…お茶はさっき飲んだからあるし袋菓子もある…それから…てっウワッ!!!!」
心臓が破裂して目玉が飛び出るのではと心配になるぐらいびっくりした。
何かがリュックの中で俺の手を“握り返してきた”からだ。
何かが…と言ってもだいたいの目星はついてはいるのだが…
俺は恐る恐るリュックの中を覗き込むと予想どおりの自体が起こっていた。
「謎の生物がタマゴからちょっとだけ孵化していらっしゃる!!」
卵の一部がひび割れて中から手が飛び出ている。
何これ軽いホラーなんだけど…これ放っておいたらもうすぐ孵るじゃん!!
てかちょっと待って…この手…なんか人っぽくない?
もしかしてこの中に人入ってんの!?
いやでも人が入ってるなんて…そこまでこの黄金タマゴもデカくはないよ?
え…マジでこれなんなんですか!?
タマゴの状態で既にもう俺の手にはあまりまくってるんですけど…
「…マジでそこらへんに投棄しようかな………」
ゆっくりとタマゴを持ち上げて地面に置こうとした…その時である。
「イデッ…痛い痛い痛い痛い痛い!! ごめんなさいつねんないでください!!」
投棄しようとしたら全力で腕の肉をつねられた。
「アハハもう冗談じゃないですかタマゴ様~ジョークですよジョーク!!」
どうやら投棄するのも無理なようだ。
てかこれに関わるのが怖すぎるからもう好きにしてくれ…と言った具合だ。
きっとこれは運命なんだ。
転生した俺のリュックにこの黄金タマゴちゃんが入っていたのにはきっと理由がある。
そう腹をくくった俺は、鬼が出るか蛇が出るかは知らないけれど何が出ても全て受け入れることにした。
「あったかいから今夜は湯たんぽがわりにもなりそうだしな…あっ痛いです痛いですごめんなさい」
またつねられた。
どうやらこのタマゴには俺の言葉が通じてるらしい。
てかそれより俺いつのまにかタマゴに対して敬語使ってるんだな。
タマゴが言語を理解していると気づいたことより、タマゴに敬語を使っている自分に気づいた時の方が個人的にショックだった。