天下人
織田信長…その武将を知らない人は居ないだろう。
尾張に生まれ“うつけ”と呼ばれたその男は、桶狭間の戦いで大大名今川を破り、その後当時最強と言われた武田騎馬隊をも破った。
その才覚で信長は瞬く間に天下人へと上り詰めた………が、
天下人信長は天下統一を目前にして、部下である明智光秀による“本能寺焼き討ち”で命を落としたとされている。
最も有名な武将の一人と言っても過言ではないだろう。
その信長が実は生きていて、しかも目の前に立っているこの状況に驚かない奴なんて居ないだろう。
もしいるのだとしたらそれは感情を持たないロボットぐらいなものだ。
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「我は第六天魔王“織田信長”。戦うというならば我が愛刀で断ち切ってくれるわ!!」
ノブナガはそう言って長刀に手をかけ腰を低く落とした。
それは俗に言う居合の構えというやつだろう。
ふうっと息を吐いて脱力した状態からの一閃が俺の頭の中でイメージ出来た。
そして、その一撃で真っ二つにされるタマゴと俺…という嫌なビジョンまで鮮明にイメージ出来てしまった。
「まッ待ってください!! 俺たちは曲者では無いですし戦いに来たわけでもありませんから!! お願いですから刀は抜かないでください!!」
「では何をするために我の家に入った!? そのわけを説明してもらおうか!?」
「勝手に入ってしまった事は謝ります。俺たちはあなたと話がしたくて来たんです」
「話? 我に何を聞くためにか」
「俺は昨日、“日本”から召喚されました。俺と同じように異世界から召喚されこの世界に来たあなたの話が聞きたい。お願いします…あなたの知恵を貸して欲しいんです」
俺は自分たちに戦う意思がないことを告げ、協力してくれるように頼んだ。
俺の話を聞いた後、ノブナガはしばらく黙っていた。
そして俺の顔をジッと見つめた後に、ニヤリと笑い腰の長刀から手を離した。
「“日本”とは懐かしい名の響きだな。よしわかった話を聞こう。なにせ我も日本については聞きたいことが山積みゆえな」
一触即発の事態だったがなんとか衝突は免れた。
緊張で強張った俺の顔がほぐれていくのがわかる。
ほっと胸をなでおろしてその場に座り込んだ。
「はぁよかった、マジで死ぬかと思った」
「最初から話し合いに来たと言えばこんな事にはならなかったのだ」
「いやいや、有無を言わせず首を絞めにかかって来たあなたがそれを言いますか!?」
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ノブナガ宅:宴の間】
ノブナガさんの提案で場所を移した俺は、そこで自身の素性を懇切丁寧にノブナガさんに伝えた。
ノブナガさんは疑うことなくあっさり信じてくれて、そこからのノブナガさんは手のひらを返して超がつくほどに親切だった。
「なるほどのう…それは大変だったな」
「大変なんてもんじゃないですよ。もう何度心が折れたことか」
「よし…お主のことは大体わかった。では…次はワシが名乗る番だな」
オホンっと咳払いをして、ノブナガさんは自己紹介を始める。
正直、織田信長の功績は義務教育時代に散々学んだから今更聞かなくてもわかるのだが…本人が名乗りたがっているので止めるのはよそう。
「えーワシの名は織田信長。天文3年5月12日(1534年6月23日)、尾張に生まれたワレは稀代の大うつけと言われ……………」
~5分経過~
「であるからして、ワシは名実ともに天下に名を馳せ、“天下人”と呼ばれるまでになったのだ!!」
話始めの数秒以外右から左へ聞き流していたが、どうやら終わったようなのでとりあえず拍手しておこう。
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「おおっ!? そんなに我の話が心に響いたのか!? いやはや流石ワシ…うむ天晴れ!!」
「はい凄かったです。特に今川氏撃破からの武田騎馬隊への挑戦へのくだりには感服しました!!」
さっきも言ったようにこの人の話は途中から聞いてないが、とりあえず王道でテンプレな功績を褒めておけば問題ないだろう。
でも相手はかの織田信長だし適当に話を合わせた事がバレたらヤバイかもな………
「じゃろじゃろワシ凄いじゃろ!? いやー正直武田の爺さんと戦うってなった時は怖すぎてちびりそうだったけど勝っちゃったからビックリじゃよな!!」
なんだろう…この人と話せば話すほど俺の中での偉人織田信長のイメージが崩れていくな。
もう小一時間このおっさんと話してしまえば、このおっさんの事を織田信長として認識出来なくなるんじゃないか?
だって今のところ、髪型が奇抜なだけのただのおっさんなんだもん。
「いやー実は桶狭間の戦いには裏話があって…」
いやもうあんたの話は十分だよ!!
「ああえーと!! そう聞きたい事!! ノブナガさんに聞きたい事がたくさんあるんです。武勇伝はまた後にして質問をしてもいいですか?」
「んん? そうか、いいだろう何なりと聞くが良い」
ノブナガさ…“ノブナガ”は腕組みをして俺の質問を待つ。
いちいち偉そうなのがなんかムカつくな…まあ武将で天下人なんだからしょうがないか………
「よかった、じゃあ早速質問しますね」
「どんな質問だ? 召喚のことかそれともこの世界のことか?」
この人に聞きたい事は山ほどあるが…やはり最初は俺の今一番気になっていることについて聞いてみるか。
「じゃあ一つ目の質問です。【なんで死んでないんですか】?」
「フハハなるほどいい質も…………んん!?」




