タマゴ視点
『ある一人の男を召喚するわ。あなたにはその男の転生特典としてこれから先の異世界ライフを支えていってもらいますよ…元魔王』
「はぁ…了解しました。了解しましたが…ここはどこですか? なぜ私と貴方しかいないのですか? というか貴方は誰ですか?」
『転生特典として“蘇り”をする代償として…貴方は前世での記憶の9割ほどを失う事になります…よろしいですか?』
「まったくよろしくないです。というか私の質問の一切は無視ですか?」
『貴方と…そして貴方のマスターとなるあの男には期待していますよ。それでは…良い出会いのある来世を!!』
「ちょっと待ってください!! 貴方には耳が無いのですか…ああああああああ!!」
こうして…とある女魔王はタマゴの中に入り、異世界に半ば強制的に送られた。
『さ・て・と…今度はマスターの番かな…』
『時空を超え次元を超え、我異世界人を召喚しせり。龍を殺し魔王を倒し全ての最悪を断つ。世界に平穏をもたらす者よ…我が世界に顕現せよ!!』
《召喚!!》
男の方も半ば強制的に召喚された
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頭が痛い…体も痛い………
真っ暗…何も見えない。
それに…すごく息苦しい。
何かの入れ物にでも無理矢理詰め込まれているのか、まともに身動きも取れない。
ここは何処なのだろう…
わたしはなんでこんな真っ暗な暗闇の中にいるんだろう?
…………………………………
ダメだ…思い出せない。
記憶の至る所が欠落していてストーリが繋がらない。
わかっているのは私が“元魔王”だという事と、ある男を手助けするために召喚されたという事。
それ以外の記憶は断片的にしか思い出せない。
『蘇りの代償として…あなたは前世の記憶の9割を失う事になります』
断片的な記憶の一片に、誰かからそんなことを言われ事を思い出す。
その言葉通り、私の記憶は見事なまでに虫食い状態で喪失してしまっている。
でも不思議とそれに関して不安などは感じない。
多分前世の記憶にでろくな記憶が無いからなのかな?
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しばらくジッとしていると外部から衝撃が伝わってきた。
なんだろうこの揺れは!?
まるで巨大な何かのチカラで転がされてるみたいだ。
怖い…身動き一つ取れないこの状況でこんなの………
不安に押しつぶされてしまいそうな中…壁越しに声が聞こえてきた。
『うーん………は? 何この硬くてすべすべなの…ええちょっと何怖いんですけど』
その声を聞いた瞬間、心の不安は吹き飛ばされて気持ちが高ぶるのを感じた。
理由はわからない…ただ声を聞いただけでこんなにも心の変化があるなんておかしいとも思った。
でも…そんな違和感よりも圧倒的な幸福感が私を包み込んで…ここで私は確信した。
きっとこの人が…この壁を隔てた向こう側にいる人が…右も左も分からないこの世界で一緒に生きていく私の“マスター”なのだ…と。
自分の中でマスターの概念も確立していないのに…ほぼ直感的に確信した。
何故? と聞かれたら私は迷わずこう答えるだろう。
理由なんて無い…そんなものはいらない…
だって…私の細胞の全てが声の主をマスターなのだとそう認めてしまっているのだから!!………と。