ゴロツキ再来
日もすっかり落ちきった異世界の夜景が俺の瞳いっぱいに映り込む。
街というものは昼の顔と夜の顔、二つの顔を合わせ持つというが…どうやらそれは本当らしい。
昼間には気づかなかったが道沿いには多くの和風灯篭が立ち並んでおり、それが中世ヨーロッパ風の赤煉瓦造りの建物と相まってなんとも不思議で幻想的な夜景を演出している。
こんな不思議な絶景…日本ではまずお目にかかれないだろうな。
いや…こんなに見事な“和洋折衷”…和と洋の調和した完璧なコントラストは異世界でしか味わえないだろう。
東京は“100万ドルの夜景”などと言われているが、異世界の夜景はとてもお金程度で推し量れる代物ではないな。
俺は今までの人生で一番の絶景とも言えるであろう異世界の夜景をそう手放しに褒める。
こんな素晴らしい街並みならいつまでも眺めていたい…が、
しかしながら、目の前の夜景を堪能することなど二の次にして、俺は息も絶え絶えに走る。
「はぁはぁ…なんでだ。あんな目立つ奴すぐに見つかると思ったのに」
タマゴの目撃情報を探し始めてもうすぐ1時間が経過する頃だろうか…
それなのに、タマゴに関しての目撃情報は今のところ一つも無い。
タマゴに四肢が生えているインパクトたっぷりのあいつを見ているならば覚えていないとは考えにくい。
だとすれば別のどこかに行ってしまったのか?
「たくよお…どこほっつき歩いてんだあのやろう!!」
何処にいるのかというあてもなく…俺はまた右も左もわからない夜の街を走り始める。
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それからまた30分ほどが経過した。
未だ不審なタマゴに関しての目撃情報はない。
そして、タマゴ捜索に夢中になるあまりまた新たな問題が俺の身に起こっている。
今俺は…何処にいるのだろう?
ここが何処なのか皆目見当もつかない。
当然だ…
今日来たばかりの異世界でしかも夜道をあてもなく走り回るなんて冷静に考えれば迷って当たり前だろう。
「ああもう…何やってんだよ俺っ!!」
騒ぎが起こる前にどうにかしようと一丁前に外に飛び出した俺が迷子とか………顔向けできねえ。
俺はトボトボと歩近くにあったベンチの前まで歩き腰掛ける。
そして何を考えるでもなくただボーッと正面に見える石灯籠を見つめる。
そうしてしばらくの間石灯籠にともる光を見ていると、最初はボーッとしているだけだった自然と色々な事を考えてしまう。
「ああ~クソッ…なんで俺がこんな目に…………」
沢山の感情が入り乱れる中で、俺の口から出たのはそんな言葉。
そうしてまた身動い一つしないで石灯籠の紅色とも黄色とも言えない曖昧な色を見つめるのだった。
「あんれ~もしかして昼間のお兄さん~!?」
思考力が低下した俺の脳でもこの以上自体には全力の反応を見せた。
体がビクンッと反応し暗闇から聞こえる声に熱視線を向ける。
「何その顔~俺のこともう忘れちゃったの~? ああ…俺の事じゃなくて俺たちの事…か」
一度聞いた覚えのあるとても嫌な声だ。
それに、俺を見下したように喋るこの下品で下劣な喋り方にも聞き覚えがある。
声の背後から聞こえるゲラゲラと汚い笑い声にも…
「また会ったねお兄さん~!! 最高に嬉しいよ!! だってお兄さんには~…いつかお礼しなきゃと思ってたからさッ!!」
灯篭の明かりに照らされて姿を現したのは…昼間路地裏で俺を襲いタマゴに返り討ちにあったゴロツキたちだった。
男の手元で刃物のようなものが灯篭の光に反射して光っている。
おいおい…どんだけ俺を追い込んでくれるんだよ“マイディスティニー”…運命のいたずらとはよく言うがいたずらにも限度があるぜまったく!!
「こんなところで何してんの? まあ….偶然ここを通りかかってよかったよマジでグッドタイミング」
「そうかい…こっちはマジでバッドタイミングだよチクショウ!!」
昼間同様…俺は男たちに背を向け全力で走った。
ただ…昼間と違ってここにタマゴはいない。
それがどんな意味なのか…考えれば考えるほど怖くなるのでこれ以上はやめておこう。




