タマゴちゃん
大通りに出た俺は、何処へ行くあてもなく歩いた。
最初のうちは無くしたiPhone6を探したが見つける事が出来なかったのでもう諦めた。
きっと誰かに拾われて珍しいものだからと質屋にでも売り飛ばされたに違いない。
はぁ~っと、寂しさのあまりため息を吐いた。
「今日はどうしよう。どうせ日本円じゃどこにも泊まれないだろうし…かといってタダで泊めてもらえるあてもない」
果てのない不安に俺はまた大きくため息を吐いて、とぼとぼと歩いた。
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すれ違う人たちが奇妙なものでも見るような目で俺を見て行く。
何だろうか…俺の顔に鼻くそでもついているのだろうか?
ああ…また横目でチラ見していった。
「何アレ~ “タマゴ”かしら」
「足と手が生えてるわ…何か血もついてて不気味ね」
ああなるほどそっちか…
通りすがりの二人の会話を耳にして、一瞬で納得がいった。
この人たちが見てるのは俺じゃなくて俺の後ろにいる“タマゴ”の方か…
俺はその存在を確かめるように振り返る。
タマゴさんは上機嫌にスキップしながらしっかりとついてきていた。
「…本当………不思議な奴だねキミは。今は何でそんなに上機嫌なんだい?」
俺に話しかけられてびっくりしたのか、タマゴはビクンと大きく反応した後スキップをやめた。
「いや…別にやめる必要はなかったんだけど………」
俺がそう言うと、タマゴさんはまたスキップし始めた。
何これ…ペット飼ってるみたいでちょっとかわいいな。
意図せぬ形ではあるが、タマゴさんのおかげで少しだけ俺の不安は解消されたのだった。
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「なあ…キミは一体何者なんだ?」
俺はそう問いかける。
「…………………………」
タマゴさんから返事は返ってこない。
おかしいな…さっきは喋ってた筈なのに。
よし…質問を変えよう。
「何で…俺のリュックに入ってたの?」
「…………………………」
返事がない…何でだろう。
そんなに答えにくい質問でもない気がするが…
仕方ない…また質問を変えよう。
「どうして俺についてくるの? そして…あの時はどうして俺を助けてくれたの?」
「…………………………」
おーい…また無視ですかタマゴさーん。
あの時は喋ってたじゃん。
何なの…不思議キャラでこの先いきたいの?
無理なんだけど怖いんだけど…一刻も早くこの謎生物が何なのか解明しちゃいたいんですけど…
よーし…こうなったら意地でも声を聞いてやる。
「おりゃッ!!」
いきなりタマゴさんに抱きついてやった。
「ヒャッ!? いきなり何するんで………あッ!!」
可愛い反応とともに存外可愛らしい少女の声が聞こえた。
あの時はよく聞こえなかったが…このタマゴの中身はもしかして“女の子”なのか!?
「ハハッやっぱりちゃんと喋れるじゃん。もうタマゴちゃんは意地悪だなー」
タマゴちゃんが思わず出してしまった可愛い声。
それを聞いた瞬間が、俺の中でのこの謎生物の印象が大きく変わった瞬間だった。
「んん~? おおっとにいちゃん探したぜー!!」
聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「探したぜー!!」
男の言葉を反復する子供の声にも聞き覚えがある。
そうだ…この声は、この世界にきて一番最初に聞いた声だ。
あの時同様、俺は振り返って二つの声の主を見る。
「やっと見つけた…にいちゃんの事探してたんだぜ」
「探してたんだぜよ!!」
頭から生やすのは人のそれではない獣の耳。
あの時同様、その耳はパタパタと小気味好く動いていた。
「ほれよ…忘れもんだ」
男はそう言って俺に何かを渡してきた。
それは、とっくに売り飛ばされたと思っていたiPhone6だった。
「おお~マイiPhone~!!」
俺の手元に戻ってきたこの愛すべきiPhone6を、俺は力強く抱きしめた。
その様子を見てケモミミの男はガハハっと豪快に笑った。
「何だそんなに大事なものだったのか? ならわざわざにいちゃんの事を探してた甲斐があるってもんだ」
「ありがとうございますありがとうございます!!」
「いいって事よ…それよりにいちゃん大丈夫か? 随分と疲れてるみたいだが」
「大丈夫か~?」
男は俺の顔を見てそう言った。
後ろの子供も心配そうに俺を見つめている。
俺…そんなに顔色悪いのかな?
まぁ…それも仕方ないか。
今日は1日で色々起こりすぎて心身ともに限界だからなぁ~。
「にいちゃん…何なら俺ん家に来るかい? その疲れを一挙に吹っ飛ばしてやるよ」
「いやそんな…見ず知らずの俺の事なんかお気になさらず」
「ハハッいいんだよ別に。あんたみたいな変な奴に今日出会ったのもきっと何かの縁だ。遠慮すんなよ」
「遠慮すんなよ」
この時俺は、前に何かの番組で言っていたことを思い出した。
日本人の“遠慮するという気持ち”…海外ではそれを不快に思われる事もあるらしい。
海外では相手からの好意はしっかりと受け取るというのが普通なのだそうだ。
海外と日本との考え方の差という奴だなきっと。
そんな事を思いながら…俺は海外式にのっとってこの人の好意を受けることにしよう。
「すいません…それじゃあお言葉に甘えさせていただきます」




