他力本願チート無双
空を龍が飛び、森に強力なモンスターが住む…剣と魔法が日常的に使われ、最強の名を求めしのぎを削るここ異世界において、常識を語るなんて非常識な事なんだと
俺は最近理解した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
少女は俺を背に乗せて走る…
森に生える大木を次々と薙ぎ倒し、川の水を川辺ごと吹き飛ばし、標高千メートルの氷山を突進で破壊して、尚も止まることなく走り続ける。
時速300km…そのスピードは新幹線にも見劣りしないだろう。
「ちょ…速いから速すぎるから!! このままじゃ俺死ぬから!!」
「そうですか…これでもかなりセーブしているつもりなのですが」
これでですか!? と、少女にツッコミを入れる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
火山の火口付近、煮えたつ溶岩がコンコンと湧き出る生き地獄のような光景。
半日を費やしてわざわざこんな場所に来た理由。
それは今目の前にいる“S級モンスター最強巨龍ファフニール”を討伐するためだ。
「おーおー…馬鹿みたいにデカいなあいつ」
全長80メートルってところか…まじでリアルゴジラだなこりゃ。
「ただデカいだけじゃないですか。下に潜り込めば終わりです」
「今日も余裕だな“タマ”は。それで…あいつには所要何分かかりそう?」
俺が尋ねる。
「何分もいりません…“一撃”で即終了ですから…」
少女は走り出す。
彼女が一撃と言うならば本当にそうなのだろう。
俺はその場に座り込んで彼女の様子をそっと見守る事にした。
彼女が俺にとってどんな存在なのか…簡単に言い表すとモンハンのアイルーみたいな存在だ。
戦闘においていろいろ助けてくれる。
というか戦闘をするにあたって俺はいつもこのように側から見守るだけで何もしないので、彼女が一人ですべてやってくれる。
俺がしゃしゃり出ても迷惑をかけるだけだし、何より彼女が負けることなんて天地がひっくり返ってもないからだ。
何故なら、彼女はアイルーのようにか弱い子猫ではなく…
彼女は世界最強の………
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『クククッよく来たな無謀な少女よ。このファフニールの元までやって来て目の前に立ってしまったことを後悔させてくれるわ!!』
「はあああああ!! 必殺ボディブロー!!!!」
『ギァアアアアアアーやられたーーー!!!!』
本当に一撃で終わった。
時間にして20秒ちょっとか…
彼女のボディブローが巨龍にクリティカルヒットしたところで、断末魔と共に腹部から爆散して大量の血と肉塊があたりに飛び散った。
やれやれ…決着のようだな。
どうやら彼女のチカラの前では討伐難易度Sの巨龍もスライム程度と同等らしい。
その場を立ち上がってお尻についたホコリを払って目線を前に戻すと、返り血で真っ赤に染まった彼女と目があった。
鮮血で真っ赤に染まった彼女は、俺と目が会うとにっこり笑って駆け寄って来た。
「有言実行…討伐完了です。さあ街に帰って報酬を貰いましょう“マスター”」
「そうだな…報酬を貰ってキンキンに冷えたビールでも飲みに行こうか」
「はいっそうしましょう」
来た時と同じように、彼女の背におんぶして貰い俺たちは火山を後にした。
異世界に来て早いものでもうすぐ一年が経過する。
違う言い方をすれば “まだこの世界に来て一年しかいない” とも言えるかもしれない。
まだまだ分からないことだらけなのは間違いない。
ただこの一年を異世界で過ごして確実に言える事が一つある
この異世界において…“最強”は、今俺をおんぶしているこの子だ。
そして…そのマスターであるこの俺が…実質世界最強なんだ!!
魔剣もチート能力も俺には必要ない。
この子がいれば…この異世界で天下を取れる!!
だってこの子は…魔王なのだから。