傭兵になろう!
5年前、俺は傭兵になった。
2038年、夏の事だった。
国立G大学を卒業しても、まともな就職先はなかった。
大学院に進むという手もあったが、問題の先送りだ。
なぜならもっと状況が悪化することは明らかだからだ。
政治家、学者は先を見誤っていたのだ。
AI、人工知能の発達を。
当初、2040年問題と呼ばれ、この頃になると、
AIは人間の知能を超えると予想されていた。
しかし、2030年にはすで追い越されていたのだ。
これは後から分かったことだが。
アメリカ某企業が倫理問題を問われず、税金が安いK国で極秘に開発を進めていた。
そしてあらゆる投機システムに投入したのだった。
株式、先物、為替、不動産・・・
莫大の利益を上げ、その利益がさらならAI開発の血となった。
そして、AIによる自動運転システムが実現するのだった。
世の中は激変した。
あらゆる仕事をAIが奪っていった。
AIがというより、本当は企業経営者による人間の切り捨てだが。
これにより失業率は急増したのだった。
2043年、現在の日本の失業率は37%である。
こうした状況では、傭兵になるしかなかった。
特殊ゴーグルを装着し、銃を手に取った。
ゴーグル越し、左右に目配せする。
俺は少尉待遇で、部下が6人いる。
少尉になれたのはこの銃のおかげだった。
工学出身の俺は兵器メーカーに銃の改良を提案した。
それが採用され、戦場で威力は発揮したのだ。
それで、俺は勲章を受賞した。
今はどの戦場でも少尉で遇されている。
そのおかげ、日当1万5千円くらい、でも兵卒なら5000円だ。
それでも多くの人は集まるのだ。
ゴーグルのモニターに敵の拠点を表示した。
敵は強敵の中国軍、その拠点は半要塞化されていた。
兵数は3000、こっちは倍の6000で攻める計画だ。
今俺はアメリカ、台湾連合軍に所属している。
日本は、やはりダメで、最弱の部類だ。
強国と言えば、アメリカ、中国、ロシア、中東。
だが、日本人は重宝された。
日本人は命令に従うという評価は、世界共通だった。
外国人部隊は手柄を求めるため、敗戦が見えると、
勝手に戦線を離脱してしまうのだ。
でも、日本人は名誉と責任感で死ぬまで戦った。
ある戦線での日本人の戦士率は43%を超えていた。
全体の戦死率が12%にかかわらず。
今日の夜は後続部隊を待ち、
明日の未明から全軍で総攻撃を行う、計画である。
少尉ながら俺は作戦会議に加わり、攻撃の立案をしていた。
「展開」
俺は部下に命令を下す。
6人の部下が四方に散った。
俺たちは今夜の警戒にあたることになっている。
俺は天を見上げる。
月はなかった。
顔をしかめる。
こんな夜は・・・
「左側面から敵、数は約2000」
斥候からの連絡が入る。
俺は奥歯を噛みしめ、本部に伝令した。
バ、バ、バ、バー銃声が始まる。
まだ遠い。
しかし、こっちの兵力は1000、
急いで、左に展開し、攻撃に応じた。
俺はゴーグルで敵の拠点を焦点を合わす。
「勝ったな」
俺は呟いた。
敵部隊の背後を味方が強襲したのだ。
敵は崩れた。
拠点に逃げ帰る敵に乗じて、拠点に侵入した。
他の門を開け、一挙に拠点を奪取したのだ。
これは俺が提案した作戦だった。
敵のスパイは俺と通じていたのだ。
ウソの情報を流し、敵をおびき出した。
でも痛い出費だ。
論功行賞で功績1位の俺には約1000万円入るが、
スパイにはその報酬の7割を払う契約だった。
スパイの素性が知れれば、当分戦場に出れない。
当然の報酬なのだ。
俺は部下たちと残りの報酬を平等に分けた。
これは当たり前の人心掌握法だった。
俺は大きく息を吐いた。
そして、ゴーグルを取る。
銃を置く。
一つ背伸びをして、そのままソファに倒れ込んだ。
「今日は見事に作戦が的中したな」
ソファに丸まっていた猫を撫でた。
「3日後は中東か」
タブレット端末で確認した。
「予定通り3日間、温泉で骨休みだ」
中国との戦争は5日間に及んでいた。
実際に行くわけではないが、
24時間拘束されるのは辛いのだ。
だから、しっかり休息を取り、次の戦いに備えなければならない。
でも、中東のオーナーは気前が良い。
勝てば凄い報奨金が貰える。
俺はゴーグルを手に取った。
これを付ければ、あっという間に中東だ。
そう、戦場は仮想空間だった。
超大掛かりなシミュレーションゲームだ。
すべての兵は実際の人間が担当するのだ。
このため、中国での戦いは後衛部隊を合わせると、1万人規模に及んでいる。
20億円が動いたという。
賞金は10億円、勝った方が山分けするのだ。
中国側は分け前を多くするため、少数の守備を選んだ。
資産家たちは盛んに戦いを催した。
それは自分たちのためだった。
失業対策だった。
失業者の怒りは、AIを用い、人間を切り捨てた資産家に向かった。
それは国家体制を脅かすほどだった。
共産化を唱える議員が日本でも30%を超えたのだ。
このままなら資本主義の崩壊する可能性が高かった。
それで、資産家らはこの仕組みを考えたのだ。
貧乏人に金をばら撒くことで、資本主義を維持するという。
でも、それだけではなかった。
自分が司令官になれるのだ。
贅沢な遊びで資産家たちも満足していた。
「まあ、実際の軍隊に入るよりいいか~」
俺はため息交じりに呟いた。
今では自衛隊は軍隊となっている。
日本は失業対策で、兵員を大幅に増員していた。