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迷宮からの脱出4

 ヴァイスはもう一度最初の画面に戻った。

 腕を組み、首をかしげる。コテンと、頭の帽子が変に傾いた。

 少し唸り声を上げると、もう一度防衛機構の部分に画面を戻す。

 画面をそのままにし、一度台座の上に上がった手順を逆にたどって、のそのそと台座の上からヴァイスは降りる。そうしてなんとか下まで降りたあと、またぺたぺたと移動を始める。目指すは部屋の隅だった。

 この部屋は広い。おそらく、舞踏会くらいは普通に開けるだろう。壁際まで立つと、中央の台座が赤ん坊のように小さく見えるくらいだ。

 そしてそこに立ったまま、ヴァイスは身体強化のために体に魔力を流していく。体を水槽に見立て、その中を水が流れていくようなイメージだ。本当は水流をイメージすると良いらしいのだが、ヴァイスとしてはこちらの方がやり安い。

 さて、いま強化するのは目だ。もともと目は良いのだが、それをさらに強化する。そうして強化することで、ヴァイスは八十という歳でも老眼鏡要らずだった。たまに遺跡の天井などにある細かい装飾を見るときなどにも重宝した。そんな目で今回見るのは、例の画面だ。

 あの防衛機構の画面が、小さなメモのように見えている。それでも細かい一字一字まで見えるのだから便利なものだ。おかげであの設計図など、間近で地図を見ているように大きく見える。

 そこには相変わらず小さな赤い点が表示されている。そこは変わらない。しかし、それはいま、壁際まで移動していた。中央と、出入口の位置関係からして、ちょうど今ヴァイスがいるあたりにそれはある。

 

「うむ……」


 ヴァイスはまた唸った。今度は壁際に沿うように歩いていく。画面が半透明なおかげで、反対側まで言っても何が表示されているか見ることができる。そこは便利だと思う。だが例の赤い点が、きっちりヴァイスに寄り添うように移動する事実はいただけない。

 そのままヴァイスは視線を画面に固定したまま、ぐるりと壁際を一周した。そしてそれが済むと、また中央まで戻っていく。赤い点が、ヴァイスと全く同じタイミングで中央まで戻ってきた。それが中央にある、緑色の点とほとんど重なるくらいまで接近する。

 近くで画面を見れば、相変わらず配置されている魔物の項目に、ヒト族、数“1”の文字が書かれていた。ヴァイスはまた首をかしげ、こんどは傾いた帽子を直す。

 この画面の表示はどういうことなのだろう? その問題が、ヴァイスの頭の中を占めていた。考えられることは二通りある。

 一つは、この表示がおかしくなっている場合だ。先ほどまで“修復”が必要なほどこの施設の機構は壊れていた。正常稼働率も“83”と書かれている。多分『率』なのだから百分率だろう。つまり残りの“17”に当たる部分にこの画面が含まれている可能性も十分あるわけだ。ならばこれは表示がおかしくなっているのであり、この赤い点はなんの問題もないと考えられる。

 ただ、これは希望的な観測だとヴァイスも思った。長年歴史と取っ組みあってきたせいか、残された少ない資料から正しい推論をする技能には自信が有る。その使い慣れた勘が、明らかにこれは間違いだと囁いている。そしてもう一つの推論の方が正しいぞ、と言っている。

 なにせ、それには通常稼働()問題は有りませんと言っていた『声」を無視しなければならない。明らかにこの画面に問題が有った場合、通常稼働にも支障をきたすのは目に見えている。防衛機構が上手く使えないし、そちらに問題が有るということは、機構が噛みあっている構造配置の方にも問題が出てくるはずだ。

 頭痛をこらえるように、ヴァイスは額に手を当てた。

 もうひとつの推論が正しい場合、色々とマズい。

 思わず出たため息をこらえることができなかった。しばらくヴァイスは俯き、やがてのろのろと顔を上げる。

 ヴァイスにこの施設がちゃんと作動しているかどうか、確かめる術はない。だが、この表示が正しいかどうかを確かめる方法はあるのだ。まだ先は長いが。

 再び台座によじ登る。そのまま構造配置の画面を表示させ、そこに目を凝らす。

 この迷宮は、見た目だけをいえば串焼きのような構造をしている。地面から地中にそれを突き刺したような感じだろうか? 一番上にこの大きな丸い部屋、そして通路、部屋、また通路といった具合にそれを四回繰り返し、最終的に串の末端が地上へと続いている。

 おおむね設計図に書いてあるのは、ヴァイスたちが調べたときに把握したものと変わらない。翡翠色の画面に黄色の枠で、だいたいそれと同じ形が横向きに描き出されている。ただ、一つ違いがあるとすれば、いまこの部屋が閉じていることだ。ちょうどこの部屋の付け根、その通路との境目に、赤色の線が走っている。おそらくこれが新しく出来た壁だ。

 まずこの部屋から出ないことには始まらない。つまりこの壁をなんとかしないといけないのだが、そのためにはこの画面を理解しないといけないだろう。ヴァイスはただひたすら文字が羅列してある画面を見続ける。とにかく操作のヒントが欲しかった。

 それにしても、不親切な画面だ。ちかちかしてきた目をこすり、それでも見続けながらヴァイスは思う。

 この画面から操作してくださいと書いてあるのに、操作するべきものが無い。例のボタンのような模様もないのだ。この構造配置の画面にあるのは設計図だけ。単純過ぎて何がなんなのか、全く分からない。防衛配置の時より設計図自体が大きいのが救いだろうか? しかし、それ以外は何も書いていない。

 いや敢えて言うなら、将棋盤のような格子模様がうっすらと描いてある。その上に設計図が描かれているのだ。

 

「うん……?」


 将棋はその上に置かれた駒を戦争を模し、戦術的に動かしていく遊戯だ。本格的なものは竜車や、騎士、魔術士や戦略家など、双方二十一の駒を持ち、皇帝をとられたら負け。どうしても一局打つのに一週間は平気でかかるため、精々やるのは妖精族や竜人族など、長命種の連中ばかりだ。あとは大きな街でモノ好きがやっているかどうかだろう。

 ヴァイスも昔、竜人族の友人とやったことがあるが、一手指すのに朝食から昼食までかかると言われ、早々に逃げ出した。

 しかしこの冗長な遊び、なかなかの歴史が有り、生まれはおおよそ二七〇〇年近く遡るのだとか。歴史的な舞台でも使われたことがあって、六七一年前の三月、西大陸のガルガゼルとコロヌスの講和会議などは首脳たちがこれを指しながら会議をしたことが有名だ。もちろんこの頃、エルバラダはまだ存在していた。そして、今いじっているのは、防衛に関わる機能の一部だ。

 まさか、な?

 ヴァイスは試しに、地図の上に指を乗せてみた。今触っているのはこの部屋から一番遠く、出口にもっとも出口に近い部屋だ。やはり円形のその部屋、通路から離れた場所に指を当てる

 もし間違っていたら、ずっとここから出られなくなるという事実に、口が渇いて仕方ない。だが、今はやってみるしかないだろう。どちらにしても今のままでは出られないのだ。

 ヴァイスは指先にガラスの感触を感じながら、指を少しだけ動かした。

 するとその黄色の線が指を動かした分、少しだけ動いた。ずずんと、その途端鈍い振動が足元から伝わってくる。

 思わず指を離してみても、その少しだけ変わった部分は変わらない。その最初の部屋はいびつな三角形のようになったままだ。

 それを見てヴァイスはまた小さく唸った。

 どうやら、設計図はこれでいじれるということでいいらしい。だが、これだと成功したのかどうかわからない。とりあえず当たり障りのない部分をいじってみたが、どうなのだろうか? 先ほどの振動からして、何か大きなものが動いたらしいことは分かったが。というか、どうやって構造を配置するんだ?

 ならば、見える範囲で試してみるしかない。再びヴァイスは指を動かし、今度は自身のいる大部屋に指をつける。また隅の方、出来るだけ出口とは離れた場所に指をつけ、ずらす。そしてその場所に目を向けた。

 また鈍い振動が起こる。その時に起こったことは、ある意味衝撃的だった。

 迷宮の壁が、あの城壁並みの強度を持つ壁が、うにょんと、粘土のように動いたのだ。

 まさに粘土を引っ張った時のように、いびつな形に壁が動き、止まる。設計図と見比べてみると、確かに似たような形に壁の配置は変わったらしい。思わずヴァイスの顔が引きつっていた。

 どうやらこれが構造配置という物らしい。確かに配置(、、)には違いないが、これは一体何なのだろうか? こんなことは観察されたことが無い。土をいじる魔法でも似たようなことはできるが、どうもそれとは違うような気がする。

 上を見上げてみると、天井の位置などには変化はない。高さはそのまま、平らな天井が続いている。床も同じらしい。

 土をいじる型と同じものだとすると、他の部分にも影響が出なければおかしい。あれは土を粘菌のように動かせるというだけで、じつは動かす物の体積は変わらないのだ。だからあれと同じものだと、そう言った場所に影響が出る。

 だが、これで動かした場合、どうやら壁だけが動くらしい。天井がどうにかなって、崩落してくるような様子はない。まあ、一回だけだと良く分からない。とりあえず、もう一度やってみようか?

 部屋を六妨星の形にしたあたりで、ヴァイスは我に返った。結構これが楽しくて、当初の目的を忘れてしまっていたのだ。だが、お陰でずいぶんこの作業のやり方が分かった。

 どうやらこの構造配置、一筆描きの範囲で迷宮の構造を好きに改変できるらしい。糸遊びの要領だろうか? 離れたり、全く違うような場所に線を持っていこうとしても無理だった。おそらく魔方陣の要領で魔力を流していることと関係が有るのだろうと思う。

 そこに関しては良い。後で存分に調べられる。まずいま重要なのは、ここから出ることなのだ。

 部屋の入口のところにある赤い線に手を伸ばす。さっきの要領と同じなら、これで変更できるはずだ。

 そう思い、くいーっと、線を引っ張る。入口を閉ざしている壁が変更できるか分からないので、とりあえずその横の壁を引っ張る。閉じている部分が動かないなら、入口を広げてみれば良い。若干出口を警戒しながらそうすると、ずずんと鈍い音がした。


「ん?」


 設計図の上で、たしかに壁は広がっていた。さっきいじくりまわしたときに調べた縮尺からすると、横に一間はひろがっているはずだ。ただ、広がっているのは壁だけではない。なぜか赤い線が引っ張られるようにして伸びていた。

 振り返ってみると、確かに入口は広がっていた。壁と入口の境目が分かり辛くなっているが、うっすらと境目が有るのだ。そこが確かに広がっている。

 ただ、それと同時に壁も広がってしまっている。たしかにこの設計図と同じものが、そこに出来ていた。しかし、欲しいのはこの結果じゃない。

 赤い線がどうにかならないものか。ヴァイスは少しだけ伸びたその上に指を這わせる。

 だが、これだけがどうやっても動かない。横の黄色い線は動くのだが、そこだけはそれに追従するだけだ。ほとんど部屋の横幅と同じくらいまで広がった出口を見ながら唸っていると、また例のピーという耳障りな音がする

 急に画面に小さな枠が現れた。

 

 ―――エマージェンシー発動中。

 

 ―――解除はメインメニューより行ってください。

 

「“緊急(エマージェンシー)”?」


 一瞬身構えてしまったヴァイスは怪訝な顔をした。どういう物かは分からない。なにが緊急を要する事態なんだ? 

 ひとまず主要項目画面に戻った。何か変化が有るのかと思ってみると、その他の枠が赤く光っている。

 何かと思って、ひとまずそこを押す。この画面から移動するだけならあまり変化が無いのがわかったため、これはスムーズにできた。

 移動した先にあるのは、やはりその他と表題の付けられた画面だった。その中にある危機管理機構と、原典言語で書かれた部分が赤く光っている。どうやらここは主要項目画面と同じく、この枠を押すことで操作できるらしい。

 その赤く光る部分を押してみる。すると、またいくつもの細かい項目が出て来た。しかもどうやら、こちらはしっかりと操作できるらしい。だが、もう目がちかちかする。そして相変わらず読解が難しい。頭痛をこらえながら辛抱強く読み解いていく。

 そのなかでとりあえず読める範囲だと、隔壁、避難、結界と、何やら、やたら防御に関わる言葉が並んでいる。そのなかで、隔壁と書かれた部分が赤く光っていた。

 疲れた目を労わるように抑える。どうにもあの構造配置画面を見過ぎたせいか、暗闇で本を読んでいたときのように目が痛い。いや、あれよりももっと疲れた感じだ。

 目と目の間の鼻筋をもみ込みながら、この画面に付いて考える。

 この言葉の羅列は明らかに、先ほどの防衛機構のところには無かったものだ。何故これがここにあるのかは分からないが、どうやらこれは『その他』の分類らしい。まあ、とりあえずそれは良いだろう。ようやく光明は見えたのだ。

 もみほぐし、少しだけ疲れの取れた目でヴァイスは再び画面と向き直る。

 ここにあるのは、どちらかといえば要塞や、城、船の設計の時に考えられる単語が並んでいる。あれは敵軍に侵入されたときや、火事などが起きた場合に、どう対応するかを設計の時に考慮しないといけないのだ。古城やの設計図などを見ると、避難経路などの部分に大抵これと同じ単語が書かれている。ならば、そういうことなのだろう。ヴァイスは隔壁の部分に触れた。

 画面が瞬時に切り替わり、そこに現れたのはやはり設計図だ。どうやら構造配置画面の物を反映しているらしく、あれと同じものが表示されている。しかし、あれと違うのは黄色の線が少しだけ暗い色で表示されている点だ。代わりに赤い線が鮮やかな色を出している。その赤い線とは、やはり例の出口をふさいでいる壁の部分だ。

 そして横にまた枠があり、そこに『設置』と『除去』の文字が浮かんでいた。なんとなく、つかめた気がする。

 ヴァイスは横にある除去の文字を押した。すると、赤い線が点滅を始める。

 

 ―――取り除く隔壁を選んでください。

 

 どうやら、こちらの方が幾分か親切らしい。設計図の上にそう文字が浮かぶのを見ながら、その点滅する『隔壁』を指で押す。壁が消えた。


「―――うん?」


 画面上での壁は消えた。しかし、さっきまであれほど即座に画面上の変更が反映されたのに、今回はそれが無い。設計図上の壁は消えているのに、未だに出口のところの壁は変わらないままに存在している。

 まさかここで不具合かと慌てて画面を見直すと、こんどは『実行』の文字が点滅していた。流れから見て、ここで起きたことを実行させると読める。

 小さく舌を鳴らす。

 ここは危機管理機構の画面だ。名前の通りなら、これは火事や侵入者、そういった危機への対処法について操作する画面だ。どうやらその分、何かしら手間をかける物らしい。確かにそれが簡単に操作できてしまい、いざというときに役に立たなかったら本末転倒だろう。どうやら気付かないうちに焦っていたらしい。

 少し慌てたせいでまた傾いた帽子を直し、ヴァイスは『実行』を押した。

 今度こそ、そんな思いで『隔壁』を見る。ピーっと、またあの音がした。そして、壁が、消える。

 先ほど、構造配置の時にやったことが粘土細工なら、今度は氷細工だった。壁が一瞬で光に包まれる。いや、壁自体が光の塊になっているらしい。その良く分からない物になった壁が、溶けるように崩れていく。

 そして、その先にあるのはあの通路だ。ヴァイスも見慣れた暗い一本道が、ずっと続いている。どうやら崩落などは見た限りないようだ。そして、待ち伏せしているような気配もない。

 ヴァイスは台座から下りた。危うく手にかいた汗のせいで滑りそうになった。杖にしがみつくようにして台座から下りると、床にへたり込む。どうやら、ここで飢え死にという運命だけは、一まず避けられたらしい。ぐったりと台座に寄りかかり、ため息をついた。

 まだ確認しなければならないことが有るというのに、今からこれで大丈夫なんだろうか?

 その疑問に答えられる人間は誰も生き残っていないだろうなと、ヴァイスの勘が告げている。全く困ったものだ。

 だがこれで出口への道筋はたったと思っていいだろう。途中で何か待ち構えているかもしれないが、とりあえずのところは大丈夫そうだ。

 そう安堵できたのは、ほんの一瞬のことだった。

 ヴァイスは顔を険しくする。小さい音がするのだ。

 チッ、チッっと、それは小鳥の鳴き声にも似ている。本当にわずかな音なのだが、若返った聴覚はそれを逃さない。おそらく最初に音だけを聞いたら、何の音か分からないだろう。不思議な、どこまでも澄んだ音だ。いつまでも聞いていたいと思わせる、不思議な魅力が有る音だ。正体は知っている。

 これは時計の音だ。

 ジュラ・クー作の懐中時計。彼女は有名な時計屋なのだ。

 彼女の作品、その中でも、懐中時計は芸術作品としても価値が高い。文字盤や針は言うに及ばず、歯車や、ばね、部品の一つ一つまで、徹底的にこだわりぬいて作られた逸品。こうして秒針が奏でる音も、彼女が気に入るまで、徹底的に調整されている。人が言うには、その時計は全てそれぞれが異なる音を奏でるのだとか。

 しかしこれはヴァイスが聞きなれた音だ。なにせヴァイスの時計なのだ。ヴィオラが初めて大仕事を達成した時、今までの恩返しにと、送ってくれた時計だった。

 最初、この音は元はもう少し高い音だった。しかし裏蓋に写真を仕込んだせいで音が変わってしまい、整備に持って行ったらジュラ本人にこっぴどく怒られたことが有る。写真の件についてこちらが折れなかったので、仕方なく、こうして小鳥の鳴き声になるまで調整されたのだ。

 それ以来、この音に変化はない。この音から変わったらぶん殴ってやるとか何とか、ジュラ本人に金づちを頭に付きつけられながら聞いたことがあるのだ。おかげで聞き間違うはずもない。そんな時計が、出口のところに置かれている。

 しかし、こんなところに、あるはずはない。

 芸術なんて呼ばれるだけあって、なかなか繊細な扱いをしてやらないとすぐにへそを曲げる時計だ。ヴァイスはいつも街中を歩く時しかこれを持ち歩かなかった。五十代くらいの頃までは、これ自身に結界を張って外まで持ち歩いていたのだが、寄る歳波には逆らえず、結局そうなってしまったのだ。

 今回も、そうだった。

 何が起こるか分からない危険な実験の現場に、わざわざ持ってきたりはしない。自宅に大切に飾っておいたはずだ。それが、なぜかここにある。

 小鳥の鳴き声を奏でる時計、その表蓋に描かれているのは、『羽ばたく雛鳥』の絵。

 そんな時計がなぜか、自宅で使っていた飾り台と共に、すっかり広がってしまった通路、その元は入口と通路の境目だっただろう部分に脇に置かれている。その横には花瓶が有り、花が活けられていた。

 そう、それはまるで、ここに眠る誰かのための、墓標のように見えた。

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