どうして
何ヶ月か経ったとき、いきなり恵に言われた。
「唯!あ、あああのねっ」
恵が顔をリンゴのように赤くしてどもりながら。
「私の、好きな人のことなんだけど」
おお。ずっと秘密にされてきた好きな人を教えてもらえるんだ。
恵が言ってくれるならあたしも教えようかな……。
そのときまで何も考えてなかった、全然気づいてなかったんだ。
まさか――。
「驚かないでね、実は――……
……海斗くんのことが好きなの」
――え……?
今何て言った?恵の好きな人が、柿沢くん?
それを時間をかけて、理解した。
「あ、そう……なんだ」
ようやく絞り出せた言葉がそれ。
「うん///どう思う?」
「……いいと思うよ」
あたしの体の中が、すうっと冷えていく感覚。
恵はあたしの様子に気づかない。
ちゃんと笑えてるか自信がない。でも恵は気づいてないから笑えてるのかも。
どうして。
「告白、してみよっかなあ」
「え」
「フられちゃうかもしれないけどね」
そういって可愛らしく笑う。
……ずるい。あたしはそんな風に笑えない。
親友だけど、そんなことを考えた自分にあきれた。
「そっか」
「上手くいくかな?」
「いくよ、恵なら」
「ありがと。応援してくれる?」
恥ずかしそうに言う。
「……うん」
そう言ったけどがんばってね、とはどうしても言えなかった。
どうして気づかなかったんだろ。恵の近くにいたのに。
恵が柿沢くんを見てたことに、気づかなかった。
……それはきっと、あたしが自分のことしか考えてなかったから。
自分のことしか見てなかったから。
早く気づいていれば柿沢くんと話す機会を減らしていたかもしれない。
……でももう遅い。知ってしまった。柿沢くんの優しさ、不器用さ、……柿沢くんといるときの楽しさ。
恵はきっと柿沢くんに告白するだろう。
恵のことだし、きっと上手くいく。親友の恋だっていうのにあたしは応援できない。
あたしの体は冷えたまま。上手くいかなければいい、なんて最低なことを思っている。
……最悪。
その言葉しか出てこなくて、恵が自分の教室に帰った後もあたしはその場に立ち尽くしたままだった。