好きな人
次の日の昼休み、あたしは恵の好きな人の話を聞いていた。
「恵の好きな人ってどんな人?」
「優しいの、すごく」
優しいと聞いて、あたしは柿沢くんを思い出す。
「へぇ~例えば?」
「1回だけ唯に先に帰ってもらった時があったでしょ?」
そういえば、そんな日もあった気がする。
「恵が委員会で遅くなった時?」
「そう、その時」
恵は大きくうなづく。
「そのあと彼と一緒に帰ったんだけど……」
「えっと……ちょっと待った!」
あたしがそう言うと恵はコテッと首をかしげた。
「どうしたの?」
「どうしてその人と帰ることになったの?」
聞くとあぁ、それ?と納得したように何度かうなづいた。
「彼、その日は日直だったの。だからついでにって」
「へえ、家近いんだ」
「まあまあね」
「ふうん」
「唯は?」
突然、そんなことを聞かれた。
「へ?」
「だからその、好きな人とか」
「いないよー」
「1人も?かっこいいな、とかは?」
「あー……、かっこいいはいるかも」
恵はパッと顔を輝かせる。
「誰?」
柿沢くんのことを話そうかと思って、やめた。
もうちょっと後でもいいかな。
「いや、ちょっと思っただけだよ」
「それでもいい」
「……秘密?」
予想どおり彼女はむくれた。
「何それ―」
「恵だって好きな人教えてくれてないでしょー」
「うぅ……」
「そのうち言うって」
「……ホント?」
「ホントだよ」
「わかった」
どうやら納得してくれたようだ。
「絶対だよ?」
「わかってるって」
恵は中学のときからよくモテた。女のあたしから見てもかわいいと思う。
うらやましいなあ……。
恵の好きな人、誰だろ。