優しさ
そんなこんなでテスト勉強は終了。
今日はあたしが日直の日だから、みんなと別れてから日誌とプリントを持って職員室に向かった。
「……っと、ひゃあ!」
バサバサーッ――……
思った以上にプリントの量が多いのと重いので、階段を上っている最中にばらまいてしまった。
そして、それを拾おうと屈むとさらにばらまいた。
自分の情けなさに思わずため息をつくと、ふいに後ろから声をかけられた。
「北村さん大丈夫?」
「あ、あれ……柿沢くん」
ふりかえると柿沢くんが心配そうにあたしのことを見ていた。
……って今の見られてた!
恥ずかしすぎて柿沢くんから目をそらす。
「柿沢くん、恵たちと帰らなかったの?」
「ちょっと忘れ物したんだ」
それで用は済んだから帰ろうかと思ってたんだけど、北村さんを見かけて……と柿沢くんは眼鏡の位置をなおしながら言った。
「僕も手伝うよ、職員室までだよね」
言いながら、あたしがばらばいたプリントを拾う。
「ありがとう」
1人じゃ到底持っていけそうもなかったから素直にそう言った。
柿沢くんに手伝ってもらってから、2人で帰り道を歩く。
「柿沢くんって優しいね」
「なんで?」
彼は不思議そうに首をかしげた。
「さっきだって手伝ってくれたし」
柿沢くんはすこし考え込みながらあたしの隣を歩く。
「……それって当たり前のことじゃないの」
「え?そう」
そうかな……と言おうとして、この人にとって困ってる人を助けるのは当たり前ことなんだと気付き、隣にいる同級生はすごく優しい人なんだなと感心した。
「ううん、やっぱり優しい」
「優しくなんてないと思うけどなあ」
「いやいや優しい」
そうやって優しい、優しくないと言いあっている時間はとても楽しかった。
そしてすこし時間が遅いし、あたしが1人で帰るのは危ないからと家まで送ってくれた。
一度は断ったけど、送ると言ってきかないので結局送ってもらった。
やっぱり彼は優しいんだろう。
しかも自分のことを優しいと思っていない(まあ自分は優しい、とか思ってたらそれはそれでどうかとは思うけど)。
そういうところも柿沢くんの良さだと思う。
あたしの話を聞いて楽しそうに笑ってくれていた彼のことをちょっと、かっこいいな……なんて思った。