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この世界で生き残るために  作者: スタ
一章 前世との決別
7/61

仲良し大作戦

 



「何でも無い・・・・・・・だから、大丈夫、だよ?」


 下校時間、クラスの違う彼女の迎えに来た私は咄嗟に背後に隠したものに眉が寄る。

 クラスが別々になったことで彼女を助けることが出来ず、尚且つ臆病な私は場を荒立ててまで正義感を振り翳すことも出来ず曖昧な立ち位置にいた。

 そんなだから、大丈夫なのかと聞いても心配ないと彼女にははぐらかされてしまったのかもしれない。


 その事が余計に悲しくて、自分にイラついてしまう。

 何時だって貴女に助けられてばかりの自分は、今度こそ貴女の役に立ちたかった。

 しかし、そんな私の想いなどよそに彼女は私に助けを呼ぶことはやってこなかった。



 そして、私はこのイジメから彼女を助けてくれる誰かに祈ることしか出来なかった。




 ***



 皆様おはようございます。

 見て下さい!窓の外は雲一つない晴れ晴れとした晴天!!

 今日はなんて良い朝なんでしょう!!


 まさに仲良し大作戦決行日和ですよ!



 え?

 何でそんなにテンション高いんだって?


 ふっふっふ・・・・・・。


 聞いてください!!

 昨日は長いお小言に加えて苦手なマナーレッスン漬けで屍状態でしたが、今日は何と先生お休みなんです!

 やったぁ!!


 授業終わりの燃え尽きた私に何てこと無いことの様に明日は用事で来れませんからと仰るので吃驚しましたよ。もうホント、吃驚して思わず驚きの声が出てしまって訝しがられてしまいましたよ。危ない危ない。

 あ!べ、別に先生の事が嫌いとか勉強が嫌いとかじゃないですよ!?

 ただ、あのねちっこい先生の嫌味を明日も聞くとなると正直疲れるなって思ってたんですよね。

 何の用事かは知らないですけど非常にラッキーです!

 これで今日一日エリオットの事に集中できますね!!


 ゲームでは兄弟、否、家庭内は崩壊してましたが私、頑張りますよ!!







「お嬢様、朝食のお時間ですよ。」


 着替えを済ませた丁度いいタイミングで部屋に入って来たのは、母が実家にいた時からずっと仕えていたという侍女兼私の乳母であるヘイザだった。彼女はこういったタイミングよく声を掛けるのが絶妙に上手かった。そりゃあもう千里眼でも持っているのかと思うくらい。着替えしかり、起床しかり、こっそり部屋から抜け出して帰って来た時でさえも彼女は見ていたのかと思うくらいのタイミングで声を掛けて来るので正直ビビりましたよ。マジで。

 彼女はピシッとした侍女の制服に身を包み、能面みたいな微笑みを張り付けている。これぞまさに侍女!!といった完璧な侍女何だとは思うよ。それに仕える主人の娘の悪口も言わないしそういう人達を諫めてもくれるけど、ただちょっと彼女に人間味が感じられないことに、え、彼女ちゃんと人間だよね?とか思ったことは数え切れないほどだったり。


 ま、まぁヘイザの事は置いとくとして、今はエリオットの事だよね。

 丁度朝食の時間だし、家族団欒(あの両親は既にそんな雰囲気など無いだろうけど)の時間に彼との仲を少しでも縮めよう!

 ゲームでも現実でも無口っぽいけれど、何とかなるよね!




 結果何とかなりませんでした。


 まず言って、母がエリオットの同席を許すはずも無く、それでも当主である伯爵はそんなこと関係ないとばかりに同じ席に着かせようとし、結果あの貴族定番の長いテーブルの端と端で私達は食事しました。

 この距離は心の距離ってやつなんですかね?

 ちょっと遠いな(泣)。


 しかしこんなことで挫ける私ではないですよ!!

 次に行きましょう!次に!











 朝食の時間は一言も喋ることも出来なかった(あの二人の言い合いに一言も喋る機会が無かった)ので、彼に挨拶もまだなんですよね。

 だから、挨拶をしましょう!!

 挨拶と言うのは円滑な人間関係を作る為の第一歩ですからね!



 廊下を隈なく歩いて探します。

 最初は使用人に聞いて部屋まで行こうかと思ったんですが、ただ挨拶の為だけに赴くのも何だか不自然ですしね。

 偶然を装って廊下でばったり!!という作戦です!




 そして数時間。



 くっ!!一向に出会わない!


 もしかしたら部屋に籠っているのかと通りがかった使用人に聞いてみたのだけれど、彼は父の執務室に言った後邸内を散策しているらしいとのこと。

 それなら廊下を歩き回っている私とも出会うはず。

 其れなのに何故出会わないのか!?


 もう!ホント何処に居るのよ!!


 心の中で罵っていると、丁度通りかかった庭園の一角に太陽の光に反射してふわふわと輝く金色の頭部を見つける。


 あ!居た!!


 私ははやる気持ちを押さえつけながら、さり気無く気付かないフリをして近づく。


「あら?エリオット、おはよう。」


 今気付きましたよといった風を装いながら挨拶をする。

 この時ニコリと笑うのがポイントですよ!

 表情筋が仕事してくれませんがね。


「・・・・・・・。」


 対する彼の反応は至ってシンプル。

 無表情無反応。

 おはようのおの字も喋りやしない!


 そして彼はそのままスタスタと邸へと入って行った。


 せめて何か喋ってから行こうよ!!



 そこにはガクリと項垂れる少女だけがいた。








 しょ、少々心のHPに多大なダメージが来ましたがまだ大丈夫!!

 まだまだいけるよ!!

 午後はそうね、一緒に街にでも誘おうかな?

 うん!よし!決めた!!

 街へ出かけよう!!



「エリオット。」

「・・・・・・・。」


 昼食後、書庫に籠って本を読んでいるエリオットの前に立つ。

 窓辺に置かれたソファに凭れ掛かりながら本を読んでいる彼は私に一瞬目をやるがすぐに視線を本へと移してしまう。

 何?の質問さえもしてこない彼に笑顔(表情筋動いてませんが)を引き攣らせながらも私は構わず本題に入ることにした。


「一緒に街へ出かけましょう。」

「・・・・・。」


 またもや視線をチラリと此方にやった後、そのまま何も言うことなく本へと視線が戻ってしまった。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


 へぇ、そう。

 無視ですか。

 そっちがその気なら私だって勝手にやってやろうじゃないの!!


「エリオット。」


 ガシッ


「!?」


「一緒に、街へ、出かけようね?」

「・・・・・・。」


 突然腕をつかまれたエリオットは少し鬱陶しそうに私の方を向いた。

 私は彼の腕をガシッと捕まえながら、短く噛み砕くように言葉を述べる。

 ゆっくりと同じ言葉を言った私に彼は小さく、本当に小さく見開いて私をジッと見て固まっていた。

 そんな彼の変化に内心ニヤリとほくそ笑むが表に出すことは無く(表情筋が動かないので出せないのだが)グイッと彼を立たせる。その拍子に彼の持っていた本が床へと落ちるがそんなことはお構いなしに私はグイグイと彼を書庫から(無理矢理)連れ出すことに成功した。




 街へと出かけた私達にちょっとしたハプニングに巻き込まれながらもエリオットと二人で(護衛はちゃんといますよ)午後一杯街中を見て回った。

 そんな楽しいひと時を過ごしたのだが、帰宅後の彼に楽しかったねと言ったら一瞬苦虫を噛み潰した顔になって視線を逸らされてしまった。

 そんなエリオットの反応が不思議でならなかったが、彼のあまり変化のない表情にも疲れがにじみ出ていたので少し連れまわし過ぎたかと反省した。


 今度は程々にするよ!!






 帰宅後早々母に抱きつかれた。


「エリーゼ!あの愛人の子に連れ回されていると聞いて心配したわ。何もされてない?大丈夫?」

「え!?お、落ち着いてください、それは誤解です。連れ回したのは私なんです。それに何もされてないですよ。」

「そんなこと言ってアレを庇っているだけなのでしょ?アレは伯爵の地位を狙って貴女を陥れようとしているのだわ!!貴方が優しいからってつけ上がってふてぶてしいにも程があるわ!!アレとは関わっては駄目よ!!」


 抱きつかれたと思ったら鬼気迫る顔でそんなことを言う母に吃驚してしまった。

 取り敢えず宥めてみるも母の心配は一向になくならないみたいだ。


 というか、本人が傍にいるのに何てこというの!?


 母の迫力ある眼光から若干視線を逸らしながら、私の斜め後ろに居たエリオットをチラリと見遣る。

 彼と仲良くなろうとしているのにそんな事を言われると傷つくのじゃないかと彼を窺って見るも彼の無表情な顔には何の変化も無かった。


 き、傷ついているのかさえ分からない。


 私は取り敢えず母の誤解を解くことにした。


「お母様、エリオットはそんな子じゃないですよ。それにもう私の弟ですよ。そんなことおっしゃらないでください。彼も突然伯爵家に引き取られて不安なんですよ。それに、私はお母様ともエリオットとも仲良くしたいです。」

「エリーゼ。」


 私の言葉に私を凝視する母に、私は努めてニッコリと笑うように口角を上げ・・・・・れなかったので、真摯に訴えかけるように目を見つめ返す。


「エリーゼはなんて優しいのかしら。アレは気に食わないけれど、貴女がそう言うのなら仕方ないわね。」

「お母様・・・・ありがとうございます。」


 母の雰囲気が少し軟化したことにホッとし、私はお礼を言う。

 お礼を言われたことに嬉しくなったのか私にニコニコと笑顔を向けていた。


「そうそう、もうすぐ夕食の時間だから着替えていらっしゃいな。・・・・エリーゼがああ言っているから私としては不本意ですが、貴方も同席することを許可しますわ。光栄に思いなさい。」


 私にニコニコと優しく言った後、後ろに居たエリオットを見た母は傲慢に見下すかのように言い放つ。

 それでも先程よりは若干敵意も軟化しているみたいだった。


 先はまだまだ長いけれどこの二人の関係は改善できるかもしれないわね。





「どうして。」

「え?」


 母と別れて自室へと向かう途中、方向が同じだった彼と廊下を歩いていたら後ろからポツリと聞こえてきた彼の言葉に振り返る。

 直ぐ傍にいた彼は無表情の中に困惑の色を滲ませていた。


「何故俺を庇うようなこと・・・・・」


 戸惑うように吐かれた言葉は、ゲームの時との彼でさえ見たことの無い戸惑いを見せていた。普段の大人びた彼とは違い年相応の雰囲気を滲ませているのに、ゲームとは違う彼を垣間見た気がして少し嬉しくなる。


 しかし、最初に聞く言葉がどうしてって・・・・どうせなら違う言葉が聞きたかったわ。


「私は別に庇うようなことをした覚えはないわ。街へ強引に誘ったのも私なのだし、それに貴方が爵位欲しさに私を害そうなんて思ったことも無いわ。」


 だってゲームのエリオットは爵位にあまり興味が無かったみたいだし。

 同じエリオット何だしそんな事しないでしょ。

 それに勇者の親友(予定)の人物ですからね!!


「そんなの・・・・」

「それに、半分しか血がつながって無くても貴方は私の弟なのだから。私は貴方とも仲良くなりたいわ。私達は家族なのだから。」


 私の死亡フラグをへし折る為にも家族内での不和は余り作りたくないですしね。

 両親の仲が修復不可能なので特にね。


「・・・・・・・・・」

「エリオット?」

「何でも無い。」


 俯き黙る彼に少し不安になり顔を覗き込もうとすると、そんな私を避けるように顔を逸らされてしまった。その時ぼそりと何か呟いていたが、余りにも小さな言葉だったために聞き取ることが出来なかった。

 そんな彼の態度に少々ショックを受けるが、直ぐに何でも無いと無表情な顔を向けてきた。


「それより早く仕度をしないと夫人が待ってる。」


 何故だかはぐらかされてしまった気がして釈然としないものの、母が待っているのも確かなので私は慌てて仕度をしに自室へと急ぐことにした。



 その日の夕食はとても静かな食卓となった。

 まあ、元々母とエリオットは穏やかに食事を楽しむ関係では無かったから仕方ないのだけれども。

 それでも二人の関係に少しでも改善していることが見て取れたことが嬉しかった。









 翌朝。


「おはよう、エリオット。」

「・・・・・おはよう。」


 廊下を歩いていると、前方から見えた少年の姿に私は笑顔で(表情筋動きませんがね)挨拶をする。

 私の目の前まで歩み寄ってきた彼は、一旦足を止めるとぼそりと挨拶をし返してくる。そして、そう言った後さっさと私の前を通り過ぎて行った。


 あまりにも淡々とした物言いだったが、初めて返ってきた挨拶に私は唖然としていた。




 これはもしかして、もしかしなくても、一歩前進というやつですか?











 その日一日浮かれて先生に叱責&お小言の嵐が降ったのは蛇足と言うやつですね。





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