状況整理
「ううぅ・・・・・ごめんね、本当は泣きたいのは沙耶ちゃんの方なのに・・・・ぐすっ・・・・」
涙をぽろぽろと零しながら私をぎゅっと抱きしめてくれる。
そんな彼女にそっと頭を撫でた。そしたら彼女はますます私を抱きしめる腕を強めて泣く。
それが嬉しくて、そして同時に申し訳なくも思った。
ごめんなさい、お父さん、お母さん。
私があんなことを言わなければ・・・・・・。
それはとても些細な我儘だった。
我儘とも言えない小さなお強請りだった。
他人から見れば誰が悪い訳でも無い、タイミングの悪い不幸な事故だと言うだろう。
それでも私は私が許せなかった。
私は涙の枯れた目をきつく閉じて、そっと彼女を抱きしめた。
この日私は天涯孤独の身となった。
そして、私の枯れた涙の代わりに涙を流してくれる親友が出来た。
***
さてと、逃げ切れたことだし、まずは状況を整理しましょうか。
長い廊下を自室へと向かいながら考える。
この世界、前世私が嵌まっていたRPGゲームの世界だった。
ストーリーは大まかに言えば聖剣に選ばれた勇者が魔王を倒す王道系ストーリーだ。勇者一行の仲間になるのは王子や騎士、親友に傭兵、旅の神官と謎の少女、とまあ定番揃いですね。
そして勇者の親友の名前がエリオット・ファウマン。ええそうです、先程の彼です。しかも彼には腹違いの姉がいます。彼女は旅の道中邪魔してくる悪役キャラで、銀髪碧眼の女性がエルゼリーゼ・ファウマン。
あはは・・・・はぁ、私ですね。
しかも、設定では学園で勇者や弟を虐めていたらしい。彼女は人を同じ人とも思わない言動に加えて、ヒロインを誘拐したり町を滅ぼすなど勇者一行の怒りを買うほどの悪役っぷり。そんな彼女の最期は仲間に裏切られて殺されると言う末路だったりするんですよね。
裏切られて殺されるとか前世とかぶってるんですけど!?
え、私神様に何かしましたっけ!?
ううっ、若い身空で死ぬとかもう嫌ですよ。
私長生きして縁側でお茶啜りながら寿命で死ぬ(世界観がヨーロッパ風なので縁側はありませんけどね)のが夢なんですから!!
こうなったらゲームのシナリオなんて関係ない!!
死亡フラグなんてぶっ壊してやるんだから!!!
さて、取り敢えずまずは何をしようか?
悪役といえば悪逆非道な限りを尽くすことだけど、その反対をすればいいのかな?
取り敢えずゲームのエルゼリーゼは弟のエリオットを虐めていたらしいし、その反対に仲良くなればいいのかな。
うん、そうしよう。
よし!
まずはエリオットと仲良くなろう大作戦だね!!
一先ず部屋に帰って作戦を練らなくちゃ――――
ガチャッ
「遅い!!!」
ビクッ!!??
自室の扉を開くと誰かに一喝された。
その声に吃驚(表情は動いてないけど吃驚はしてるんですよ?)して動きが止まる。
声のした先には髪をきつく縛ったお母様よりも一回りほど中年の女性が私の部屋で仁王立ちして睨んでいた。
「さ、サブリエラ先生・・・・・。」
仁王立ちして立っている中年の女性は、サブリエラ・リンツ先生と言って三歳の時に私の家庭教師として雇われた女性で、どこぞの由緒あるお貴族様の出で格好も性格も少々キツめな人だ。否、大分性格はキツめかも知れない。そんな彼女が今私の部屋に仁王立ちしている。
そ、そう言えば授業の途中だったんだ。
急とは言え今まで先触れを送る事など無かった父が珍しく送って来たということで、私も授業を中断してお出迎えに向かったのだ。
その時にお出迎えが終わったらすぐに授業を開始すると先生から言われていたのを忘れていた。
逃げる口実に言ったことは嘘では無かったのだけれど、今後の事を考えすぎていて自室に帰るのが遅くなってしまった。
「まったく貴女と言う人はなんて鈍間なのかしら。マナーの上達は遅いし、それに―――――」
う、うわぁ、またお小言が始まったよ。
何時ものことながら文句を垂れる彼女に辟易した。
因みに私は貴族のマナーが苦手だ。
前世庶民だったし、仕方ないと思う。
私は未だ小言を言い続ける彼女から視線を若干逸らして小さくため息を吐く。
エリオットとのことも考えたいのに・・・・。
先生といると体力精神力共に削られていくよ。
今はただ、あと小一時間は続くこのネチネチとしたお小言をどうやり過ごそうかと考えるばかりだった。
この後エルはきっちり小一時間の小言を聞き終えた後、最も苦手なマナーの勉強をみっちりとやらされました。
エル、御愁傷様です。
一部修正しました。