思わぬ再会
随分空いてしまいましたが一話投稿です。
今回は短いです。
霧が立ち込める町の中、太陽が顔を出し始めたのだろう。ほんのりと辺りを照らし出している。
明るくなり始めた町は、少しだけ視界を明るくするがそれでも霧は何かを覆い隠すかのように濃く立ち込めている。
私は視界の悪い町中を慎重に、それでも気持ち足早に走っていた。
「ハア・・・ハア・・・こっちに行ったような気がしたんだけど・・・・。」
キョロキョロと辺りを見回しながら私はつい先ほど宿屋で見た人影を探していた。
霧で誰かも分からない、気のせいかも知れないと思えるのに、何故か気になってしょうがなかった。
だから、思わず宿から飛び出して来ていた。
日もまだ登り切っていない早朝のことだった。
今日は珍しくシアよりも早く起きたことに驚きつつも身を起こす。
何時もならばシアが先に起きて早朝の鍛錬をしているのだが、どうやらその時間帯よりも早くに起きてしまったようだ。
立て付けの悪い窓を開けて見ると、霧に覆われた町は未だ仄暗い闇に包まれたいた。
早朝、とは言い難い時間帯ではあったが、窓から入る風を感じていると後ろから物音がする。
振り返ってみれば、シアがいつもよりも早くに起き出していた。
「おはよう。ごめん、起こしちゃった?」
「おはようございます。いえ、私は大丈夫ですよ。エルはいつもより早かったですね。眠れなかったんですか?」
「ううん、そんな事ないわ。ただ、今日は何時もより早くに目が覚めちゃっただけ。」
「そうですか。」
「うん。」
あれ・・・・・・・?
ふと窓の方に視線をやった時、何かの動く影が見えた。
霧で視界が悪いが、よく目を凝らして見ると人の形をしている。
輪郭も見えないほどの視界の悪さなのに、その人影はこちらをジッと見つめている気がした。
気のせい・・・・かな?
「どうしたんですか?」
「ん・・・・何でもないわ。」
「そうですか?」
「ええ。」
私は窓から視線を外して、訝しむシアに気にしないでと手を振った。
暫くは怪訝そうに私のことを見ていたが、あれから一度も窓の方へ視線を向ける事はなかったので、大したことではなかったのだろうとシアも気にしなくなった。
「・・・・私、少し外を散歩してくるわね。朝食に少し遅れるかもしれないから皆に伝えといて。」
私は手早く身支度を済ませると扉の方へと向かう。
「分かりました。気を付けて行ってらっしゃい。」
「うん。行ってきます。」
パトリシアに見送られて宿屋から出た後、部屋から見える通りの角、先程人影が見えた場所まで足早に向かった。
ほんの少し、心の片隅に引っかかるただそれだけ。
少し確認するだけだから。
宿屋のすぐ傍なんだから大丈夫・・・・よね?
「確かここに居た気がするんだけれど・・・。まぁ、もう居ないわよね。皆のところに戻ろ・・・・。」
人影が立って居た場所まで行くも、誰も居なかったので戻ろうと振り返った時視界に何かが映った。
それが人影であることに気が付いて、慌てて声をかけていた。
「あ・・・・あのっ!!」
しかし、人影は私の声に気が付いていないかのように通りの奥へと消えてしまう。
「ま、待って!!」
私は慌てて人影が消えた方向へと駆け出していた。
直ぐに追いつける。
そう思っていた。
しかし、走っても走っても一向に追いつくことが出来ない。
急いで向かっても何故かその人影は、既に霧で見えなくなってしまうギリギリの距離にいた。
どんなに追いつこうともその距離から縮むことはなかった。
縮まらない距離を私は夢中で追いかけていた。
何処まで追いかければ捕まえられるのか、私はどうして追いかけているのか。
暫く追いかけている途中、ふと我にかえる。
あれ?
私は何故追いかけているのだろう。
疑問に思えば自然と足が止まってしまった。
霧で視界が悪いせいもあって、気付くと知らない場所まで来ていた。
ここが何処なのか、どっちに宿屋が在るのか分からない。
気づけば、完全に迷子になってしまった。
そして、我に返ったことで気づいたことがある。
誘い込まれたということに。
まんまと罠に嵌ったことに焦りを感じた。
「ヤバっ・・・。」
しかし気づいた時には既に遅く、視界の端に映っていた人影もといフードを目深に被った人物はじっとこちらを見ていた。
そして、背後からフードの人物より少し背の高い男が姿を現した。
その顔を見て目が見開く。
それは。
そこに居たのは。
「フンッ、久しぶりだな。エルゼリーゼ・ファウマン。」
学園でのあの事件。あの時に一緒だったチームの副リーダーの少年。
そう、あの時私に全ての責任を押し付けたメンバーの主犯格だった男。
ルーカス・ボルトンだった。
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