変わった船旅と様々な思惑の中で(アルコ視点)
一話投稿です。
前回の続きとなっております。
「うぐッ・・・・・・!!!」
真っ青な顔をしたジルが口に手を当てて席を立った。
急ぎ足で食堂を出て行く彼の後姿をその場にいる皆が無言で見ていた。
向かう先は甲板だろう。
その後をのんびりとした足取りで後を追っていくパトリシアの姿がある。
彼女の手には手拭いが一つ握られている。
普段は何だかんだと彼を弄っているがこういう時にはちゃんと彼を気遣う彼女に微笑ましさが滲む。
だが、それも視線を目の前へと向けて無くなった。
まぁ、元々船酔いの彼がコレで限界が来るのも分かりますけどね。
そんなことを考えながら目の前のソレをアルコは苦笑気味に見やった。
「お前は碌な料理も出せんのか!!いったい何を修業してきたんだ!!」
そんな大声が聞こえたと思ったら、盛大な音と共に呻き声が聞こえてきた。
「いったぁあ!!」
リッカは頭を押さえて涙目だ。
「まったく。すんませんね、お客さん。こんなものをお出ししてしまって。」
「い、いえ。」
熊みたいに大柄なコック姿の男性がリッカの頭を押さえつけながら謝ってくるので、私は苦笑いすることしかできなかった。
リッカは必死に頭を押さえている手をどけながら叫んでいる。
「ちょっ!!父ちゃん!こんなものとは何よ!!会心の出来なのに!!」
「何が会心の出来だ!!それと料理長と呼べ!!」
彼女の言葉には皆吃驚しました。
まず、こんな大男な料理長と外見子供みたいな大人(失礼)リッカが親子だという事実。
そして、この目の前にあるモノが会心の出来だということに二重の驚きです。
改めてまじまじと目の前に置いてあるモノを見やる。
赤紫と言う毒々しい色合いを持ったそれは海草類に彩られることでより生き生きとして見える。自身の刺々しい鱗に隠された新鮮な赤身は添え物に葉物を添えることで色彩に強弱が付きより赤々として異彩を放っている。一つ一つを見れば技巧を凝らしているのは解るのだが、何故か全体で見ると禍々しくグロテスクに見えるのが不思議だ。
その料理の主になっている食材の頭部にはギョロリした二対の目が此方をジッと見ている。大きく開いた口には鋭い牙がずらりと並び、時々シャキンシャキンと鉄をこすり合わせたかのような音を響かせている。頭部の置かれている反対側には鋭利な尾ひれが偶にビチリと水滴を飛ばす。
私を見つめる二対の目は、今にも襲い掛からんばかりの鋭い視線だった。その視線に思わず体が後ろに下がりそうになる。
あれ?おかしいですね。
目の前の皿の上にいるこの魚は調理されているはずなんですけれど・・・・。
こちらが食べる側なのに、何故か捕食者の目でこちらを見られている様に見えるのは気のせいでしょうか?
此方を見てシャキンシャキンと音をたてないでほしいんですけど。
ちょっ!尾ひれに着いた水滴を顔に散らさないでください!!
胴体調理されているんですから生き生きと動かないでくださいませんかね。
何故この魚で作ったのでしょうか・・・・・
「活き造り・・・・。」
近くからぼそりとした声が聞こえてきた。
前を向くとエルが微動だにせずに目の前の料理を見つめている。
他の人も似たようなものだった。
私は今一番思っていることをリッカに聞くことにしました。
「あの、この毒々しい魚は何ですか?」
その質問に答えてくれたのは料理長でした。
「ああ、それはタイですよ。」
は?
「えっと、タイですか?でも、よく見かけるタイと姿が違いますよ?何と言うか禍々しいというか。」
「この近海に住むタイだからですよ。」
リッカもさも当然のことのように告げてきた。
「荒く厳しい海の所為か此処の魚は他と違って厳つくて狂暴になっているんですよね。偶に人を襲うこともあるので気を付けて下さいね?」
ついでとばかりに軽い口調でサラッと恐ろしいことを言ってくる。
そういうことは軽いノリで言わないでください。
「それでなんで活き造りなんかにしたんだ。よけい恐ろしい料理になってるじゃねえか。」
「えっと、修行の成果を見せようと。ほら、魚なら活け造りかと思って。」
いやぁ失敗失敗なんて言ってますけど、この魚にその発想は止めてほしいです。
「お前は感性も修行して来い。」
ガックリと項垂れる料理長に同情します。
呆れたように彼女を見やっていると突如鐘の鳴り響く音が聞こえてきた。
それと同時に船が揺れているようだ。
「な、何ですか!?」
慌てる私達を余所に、リッカと料理長は平然と行動に移していく。
「お。さっそく来やがったか。リッカ!修行の成果を見せてみな!!」
「任せて!父ちゃん!!」
そう言って二人はさっさと食堂から出て行った。
突然のことに唖然と彼らの出て行った扉を見つめていたが、暫くしてハッとすると何が起こっているのか彼らの後を追うことにした。
「えーっと、これは何ですか?」
彼らの後を追って甲板へと辿り着くと、そこには不思議な光景が広がっていた。
体長2~3m程のギラギラとした目をした巨大な魚の群れが甲板で暴れている。その魚を船の乗務員の他にもコック姿の者が嬉々として退治しているではないか。
「あ、違いますね。捕獲ですか。」
遠くから「宴だぁ!!」などと叫んでいる者さえいる。
何が何だかかさっぱり解らない。
網、縄、銛。他にも剣や槍、弓矢などの武器を手にしている。どの乗務員、コックも戦闘の腕は確かなようで次々と魚を捕獲していっている。
リッカもどんどんと魚を捕獲していく。
彼女の言っていた修業とは料理だけではなかったんですね。
この分だと私達が手伝わなくてもよさそうだ。
とりあえず、甲板の端で船酔いと先程のグロテスクな料理で吐きそうになっているジルを避難しようかと動くことにした。ちなみに、ジルの後をついて行ったパトリシアは周りの状況にも彼の状態にも気にする様子も無く傍に控えるだけだった。
「アルコさん達運が良いですね。マグロの群れとぶつかることは滅多に無いんですよ?今日はマグロづくしですよ!!」
「そうですか・・・。」
あのギラギラとした目をした魚がマグロですか。
口に生えた牙なんて肉を食い千切りそうに鋭そうだたし。ヒレなんかは甲板に刺さっていたりしてたんですけど。
やっぱりマグロですか。
乗務員達が捕獲した魚を船内へと運び入れている時、突然叫び声が聞こえた。
振り返ってみて見ると、そこには怪我をして倒れているコック。その傍には鳥の鉤爪を血に染めた魔族の姿があった。彼らも割と強い筈だが、それでも魔族は別格だったようで倒れているコックは重傷を負っていた。
上空にはデビルの群れが此方に近づいているのが見える。
「ま、魔族!?」
「魔族だ!!逃げろ!!」
「わああぁあぁぁああ!!」
甲板の上は騒然と逃げ惑う人々。
腕に覚えのある者は応戦しているが、所詮はコック。魔族に渡り合えるほどでは無い。
乗船している護衛は、客等の非戦闘員の避難誘導優先の為防戦一方だ。
そんな状況を嘲笑うかのように魔族達は次々と船に攻撃を仕掛けてくる。
「皆さん、船内へ避難してください!!リッカさんも早く!!」
「あ、アルコさん達は!?」
「私達は大丈夫です。」
「で、でも・・・・」
「私も勇者一行の仲間です。大丈夫ですから、避難してください。」
ポンと頭を撫でる。彼女は一瞬驚いた顔をするが、一つ頷いた後他の人達と一緒に船内へと非難していった。
チラリとジルの方を見やると今だ青い顔のままだが杖を構えている。どうやら戦闘する気らしい。
「大丈夫ですか?」
「うぷっ・・・・これくらい、平気だ・・・・。」
大丈夫そうには見えないんですけど・・・・。
意地っ張りな彼に少々苦笑するも、敵が襲いかかって来たので私は敵に集中することにした。
敵は空を飛ぶので少々手こずったが、そこはレナルドの魔法で魔族を一掃してしまった。
正直言って今回は船酔いで役に立たなかったジルだけでなく、接近戦の私達も遠距離攻撃を仕掛ける敵への攻撃は難しかった。レナルドの他にまともに攻撃できたのはエルとフィーアくらいなものだ。
あ、私は回復役に徹しましたけどね。
そして、敵を一掃して後始末をした後船の中はどんちゃん騒ぎだった。
魔族を倒した後、宴と称して食堂には沢山の料理が並べられていく。
その料理を食べながら乗客乗務員関係無く船に乗る人達は喜びを分かち合っていた。
もちろんその中心に居るのは魔族を倒した勇者一行だ。
特に勇者であるレナルドは沢山の人に揉みくちゃにされながらお礼を言われている。
あ、ジルは船酔いの為割り当てられた部屋で横になっているらしいですよ。
さっきパトリシアが料理を持って彼の部屋に行くときに言ってました。ちなみにその料理、自分が食べるための物だとか。
え、嫌がらせですか?
他の人達も沢山の人達に揉みくちゃにされてます。
私がその中を早々に抜けて壁の花となっていたところへリッカが料理片手に此方へと寄ってきました。
「アルコさん達、勇者一行だったんですね。」
「私はリッカさんが気が付かなかったことに少々驚きです。新聞の大半は勇者についての記事を占めていたし、レナルド君の絵もよく載っていたんですけどね。」
「い、いやぁ、新聞見ない派ですから。それに勇者があんなに若いとは思わなくって。」
焦ったように視線を彷徨わせる彼女を見てクスリと微笑みがこぼれる。
暫く目の前の光景を二人して眺めていると彼女が静かに口を開いた。
「アルコさん。助けていただいてありがとうございます。」
「いえ、お礼ならレナルド君に言ってください。一番の功労者ですから。」
「でも、皆の怪我を治してくれたのはアルコさんです。だから、ありがとうございます。」
「いえ・・・・どういたしまして。」
素直な感謝の言葉に少しの恥ずかしさと負い目を覚え、私は彼女の顔を見れずに言葉を返した。
私がレナルド達と出会ったのは偶然のことだった。
私はとある理由から地方に留まることをせず、布教という名目で旅をする神官だった。
聖女ナターシャの教えに沿って、各地を旅しながら人々を治療してまわっていた。
そんな折に教会の無い寂れた小さな町で突如原因不明の奇病が流行った。
早々に教会の総本山へ話がいったが、貴族や金持ちなどの媚びる相手のいない小さな町など気にもしないのか神官を派遣することはなかった。
偶々近くまで来ていた私はその町に留まったが、流石に私一人ではこの原因不明の奇病を解決することは出来なかった。そこに偶然訪れたのが勇者一行だ。
彼らは回復役は居なくとも奇病の原因となった魔物を退治してくれたのだ。勇者の噂を聞き教会も漸く神官を派遣しこの事件は収まった。
しかし、教会は勇者との縁をこのままで終わらせたくはないようで、神官の同行を願い出た。勇者一行には回復役は居なかったようで、彼らも同行をお願いしたかったようだ。ただ、教会の推薦する神官と勇者達の求めた神官は違ったようだ。初めは教会の推薦する神官は私ではなかったが、勇者たちの要望もあって私が同行することになった。
当然教会は私を利用しようとする。上との関係が微妙となっていた私を取り込み利用しようとしているのは分かり切っていた。
腐りきった上の良いように利用されるのは嫌で、勇者からの申し出に当初は渋っていた。しかし、魔物に苦しめられる人達を見捨てることもできない。上の思惑も気になりはしたが、この状況を逆に利用しようと思い立ち魔王討伐の旅に同行することにした。
最初、この旅に複雑な思いだった。
教会内部の改革の為に利用していることが、彼らを騙しているのではないかと思ってしまうのだ。
苦しんでいる人々を救いたいという思いも確かで、勇者達の手助けが出来るのなら助けたいという思いもある。
それでも、純粋に彼らの力になる事だけを理由に旅に同行することは出来なかった。
彼らとの旅は楽しい。
それ故に後ろ黒いところがあるのは後ろめたくもあった。
ただ魔王討伐の事だけを考えていればこんなに後ろめたくなることは無かったのかもしれない。
でも、それは無理な話だろう。何処かの組織に所属していれば上の思惑に巻き込まれるのは解りきったこと。勇者一行ともなれば尚更纏わりつく話だろう。
「どうしたんですか?」
今までのこと、今後のことを思い、自然とため息が出ていたのだろう。隣にいたリッカが不思議そうに聞いてきた。
「いえ、何でもありませんよ。」
「そうですか?」
「ええ、私達も今夜は楽しみましょう。」
「そうですね!アルコさんも行きましょう!」
そう言って彼女は私の手を取って、目の前で踊っている人達の方へと促した。
苦笑を漏らした後、彼女の手に促されて私も踊りの輪の中へと加わった。
切っ掛けは小さな偶然と大きな思惑の中。
いろんな思惑の中同行することとなった魔王討伐と言う旅。
旅の目的が目的なので、こんなことを思うのは不謹慎かもしれないが、それでも彼らとの旅は楽しい。
魔王についても、その後についてもいろいろと大変なことはあるけれど。
今はただ、目の前の喜びをかみしめることにしよう。
昨日の内に投稿出来なかったですOrz
ちょっとした補足
*教会
聖女ナターシャを祖とした宗教団体。聖女ナターシャは、初代勇者のパーティメンバーの一人。
「すべての人々に救済を」を理念としている。
現在教会内は二つの派閥に分かれている。
アルコは少数派に位置しているため立場的には弱い。
取り敢えずこんな感じです。
誤字脱字・感想等ありましたらコメント下さると嬉しいです。




