私の家族
「今日は私、沙耶ちゃん家に泊まる!!」
そう言って屈託なく笑う貴女に何度救われただろう。
共働きの両親に、寂しいと我儘を言うことなんてできなかった。
休みの日は命一杯可愛がってくれる両親。一日会えないことなんてザラにあることで、それでも毎日メールのやりとりは欠かさなかった。二人とも私のことを気にかけている事は分かっていたから。
そんな二人だからこそ、我儘を言って困らせることなんて出来やしなくてガランとした家の中で一人で過ごすことが多かった。
それでも矢っ張り一人で居る家は寂しかった。
貴女と貴女の家族は、一人ぼっちの私の寂しさを取り除いてくれた。
もう一つの家族の様だったの。
***
皆さんこんにちは。
私エルゼリーゼ・ファウマンも十歳になりました。
月日が経つのは早いものですね。
あれから父親には会うことは出来たんですよ。まあ、でも手の平で数えれる程しか会ってませんけどね。遠い親戚のおじさんくらいの頻度ですよ。
え?勿論、七年間の間にですよ。
もういっそ父親はいないんだって思った方がマシなくらい。
そんな冷たい父から何とまぁ帰宅の先触れが来たんですよ。
珍しく。
何時もは顔も見たくないからと先触れなど出さない人なのに。
ホント珍しいですね。
今日は槍でも降るんじゃないでしょうかね?
そして午後、父親は帰ってきた。
槍は降らなかったが、台風の目を連れて。
いやぁ、夏って台風の季節ですもんね!日本は。
此処も只今夏真っ盛りですよ。日本と同じで四季があるみたいですよ。
時季ですもんね、台風。この国の夏に台風が来たことは無かったですけどね。
夏といえば、燦々と輝く太陽。蒸しかえる様なこんな季節には、キンッと冷え切ったかき氷がとても美味しいですよね。この世界には無いみたいですけどね、かき氷。
でも今、私そんなの食べたら風邪ひきそうです。
寧ろ凍え死ぬ。
今は夏なのに。夏なのに!!(重要なことなので二度言いました。)
台風じゃなく、吹雪が降ってるんですけど!?
あぁ、壁一枚隔てた窓の向こうが恋しいです。
向こうは暖かそうだね。
「・・・・・・・・。」
誰も何も動かない。
私達只今玄関で微動だにしてません。
この状態がいつまで続くんですかね。
玄関の前に佇むサラサラの銀髪に無表情に見下ろす紺色の瞳の美しい男性。私の正面に立つ父親イシュメル・ファウマン伯爵は私達を無表情の下でとても冷たく睨んでいた。
私の隣に立つ女性。サラサラの茶髪に澄んだ青い瞳の美女アンジェリーナ・ファウマン伯爵夫人は、今は濁ったような眼差しで伯爵の隣を睨んでいる。
そして、母に睨まれながら伯爵の隣に立つ子供。ふわふわの金髪に父親譲りの深い紺色の彼はエリオット・ハリス。あ、今はエリオット・ファウマンですね。
ええ、そうです。
お察しの通り異母兄弟です。
私とは半分血は繋がってますが、母とは全く血は繋がってません。
母があの時悲しそうな表情をしていたのも、ヒステリックが増したのもこれが原因だったんですね。
そしてこの吹雪を作り出しているのは父と母。
ええ、分かります。
何となく、察しはつきますけどね。
「今日からこの伯爵家の子になる。そして家督を継ぐのはこの子だ。そのように扱え。」
事務的に冷たく言い放った父は、そのまま私達の横を通り過ぎようとしていた。
「そんな!そんな事認めません!!何処の馬の骨とも知らない子に家督を譲るなんて!!それにエルゼリーゼはどうするのです!?」
「エルゼリーゼは女だ。家督を譲ることは毛頭ない。」
まあ、察しはついてましたけども。
異母兄弟が出て来るとは思わなかったかな。
親戚の子を養子に貰って継がせるのかと思った。
「エルゼリーゼが成人したら貴族の嫁に出す。それと、エリオットは私の息子だ。家督を継ぐのはエリオットだ。」
ヒステリックに叫ぶ母に冷たい視線を投げかけながらきっぱりと言い切る。
母がその後何を喚いても父は母に一瞥もくれることなく執事の元へと向かう。後ろに控えていた侍女に指示を出していた執事は、傍まで来た父の後ろに控えながら後に続いていく。二人は何事か話しながら廊下の奥へと向かって行った。この後書斎で仕事をするのだろう。
こちらを振り向きもしなかった父に隣から気温が急降下していく。
寒っ!!
と、鳥肌が!!
だ、誰か暖房を!!!
前世のストーブやヒーターが恋しい!!
此処、今は夏ですよ!夏!!
何度だって言います!
今は、夏ですから!!
あぁ、隣が見れない。
今見たら母の顔が凄いことになってそうで、怖い。
私の事で怒ってくれるのは嬉しいんですがね。
父の後姿を怒りのこもった眼で見つめていた母は、父の姿が廊下の角に消えた後エリオットに振り返る。その眼は恨みのこもった憎々しげな視線だった。
「私は貴方を認める気はありませんから。」
そう言い放つと、自室へと続く廊下を自身の侍女を連れて戻って行った。
そして私と彼の二人だけが玄関に取り残されてしまう。
「・・・・・・・・。」
あぁ~っと、え?この状況如何するの?
この場を氷点下にまで下げたお二方は早々に退場してしまったんですけど。この雰囲気ほっといて。
えぇ~?私にこの状況をどうにかしろって?
いや~無理無理。
第一あの状況、母の向けた増悪のこもった眼にさえ無反応だったんだよ?
私が何か言ったところで反応するかどうか・・・・・
チラリと彼へと視線を向けてみる。しかしこちらと目が合ったかどうかさえ分からない。先程の父と母のやり取りでさえ微動だにしなかった。表情の乏しさに彼も父の子なのだなぁと思いはしたが、この状況に何も反応を示さないことに少々不安になる。
ちょっと、大丈夫かな?
自分の置かれてる状況を理解してるのかな?
て言うか、彼起きてる?
目を開けたまま寝てないよね?
立ったまま気絶とか変人ですよ。
それとも彼は変人なの?
などと彼を見つめながら思っていると、ふとある事に気付く。
ん?
そう言えば見た瞬間から思ってたことなんだけど、彼を初めて見たって気がしなかったのよね。
ん~?
何処で・・・・・・・・・・・・
「あ。」
思わず声が漏れてしまった。
私は慌てて口を塞ぐ。
私の声に反応したのか、表情の見えない視線で彼は此方見遣る。
暫く二人で見つめ合っていた。
温度の下がった玄関に加えて、非常に気まずい空気が流れる。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「えっと・・・・・・・・・わ、私、家庭教師を待たせているのデシタワ(棒読み)。・・・・それでは失礼します。」
ぺこりと一礼をしてそそくさとこの場を離れることにした。
うん、さっきのが棒読みだったなんて気のせい。
敵に恐れをなして逃げ帰ったとかじゃ・・・・・!!
敵前逃亡でもッ・・・・・・!!
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
すみません。
敵前逃亡です。
無理です!!あの気まずさに耐えられません!!
あの何を考えてるのか分からない無言の視線になんてッ・・・・・・!!
だって気付いちゃったんです。
思い出してしまったんです。
此処が前世プレイしていた勇者や魔王の出てくるRPGゲームの世界だってことに。
そして彼がそのゲームの主要キャラクターとして出ていたことに。
私が、敵キャラクターとして出ていたことにも。
今の状況でさえ大変だっていうのに。
あぁ、マジで、不貞寝してもいいですかね?
ストレスで若白髪になったらどうしよう。
あ、今の私銀髪だから目立たないや、よかった。
ん?よかったのかな?
一部修正しました。
エリオットは金髪です。