その未来を変える為に
前話の続きになります。
王都に住む殆どの人々が寝静まった真夜中。
とある小高い塔の入り口の前で一人の男が立っていた。
周りには警備の男らしき騎士が二人倒れこんでいる。
男はその二人を一瞥することも無く扉へと向かって行く。
扉に手をかけゆっくりと開く。
目の前には真っ暗な闇。
その中に一つだけ淡い光を放っているものがあった。
床一面に描かれた模様。
(これを壊せばこの国も終わる。案外脆いものだな。)
男は跪きその模様に手をかけて・・・・・
「何をしているの?」
不意に背後から声が掛けられる。
その声に思わず手を引っ込め男は振り返る。
其処に佇んでいたのは、銀色の髪の少女だった。
「お前は・・・・・。」
「皆、あの。ちょっといいかしら。」
隣国イスールの王都を出発して半日ほど経った頃のこと。
突然歩みを止めたエルが皆に声を掛けてきた。
「如何した?エル。」
最後尾を歩いていたグレンがエルの隣まで来て声を掛ける。
「あの・・・。」
エルは少し言いよどんだ後、少し遠慮がちに言った。
「私、王都に忘れ物をしてしまったみたい。一度戻ってもいいかしら?」
「忘れ物?どうしても戻らないといけない物なのか?」
ジルが不信そうに聞いてくる。
「ええ。とても大切なものなの。・・・・駄目かしら?」
じっとジルを見ていたら、隣から助け舟を寄こしてくれる人が居た。
「大切な物ならしょうがないんじゃない?一度王都に戻ろう。」
レナルドがニコリとそう諭す。
「まあ、大切な物ならしょうがないか。さっさと取りに行くぞ。」
ジルもそれ以上の反論は無かったのか、一つため息を吐くと足早に来た道を戻り始めた。
皆もジルに続くように引き返してくれる。
「ありがとう。」
私の我侭を聞いてくれる皆に感謝しながら私も来た道を引き返すことにした。
私達は今来た道を逆走している。
とは言っても、早歩きなんですけどね。
早朝に王都を出発して引き返したのが太陽が丁度真上に差し掛かった時。
大体半日ほど。
王都に着く頃には夕方頃になるかしら。
門の出入りがその時間帯で閉まるからギリギリ間に合うかどうか。
ゲームで王都が襲撃有ったのは真夜中。
「一夜にして。」と言う言葉が出てきた筈だから、差し詰め殆どの人が寝静まった深夜に夜襲をかけられたんでしょうね。
私だけが焦っていることは分かってる。
皆に襲撃が有ることを本当は言ったほうがいいのも、言えないのはただ臆病なだけなのも分かってる。
言ったらどうして知っているんだって疑われてしまう。
前世のゲーム知識で何て言ったところで信じてもらえるかも分からない。
敵だと思われてしまうかも。
そんなこと、きっと耐えられない。
だから、偶然を装うことにした。
もしかしたら襲撃なんて起きないかも。なんて、そんなこと考えられる筈も無い。
今まで散々ゲームで起きた事が起こったんだから、今回だって必ず起きるだろう。
城下町の方に留まっていれば良かったかとも思うけれど、犯人が何処の誰なのか分からない以上王都に居れば知られる恐れがある。
そうなると行動を起こしてはくれないだろう。
勇者一行が王都を出発したと知れば必ず行動を起こすだろうから、一旦外に出ることは仕方の無いこと。
それでもやっぱり不安は拭えないもので。
唯、焦りだけが募っていく。
大丈夫。
結界のある場所は出発前に確認したでしょ?
警備の人数も交替時間もそれとなく聞くことができた。
こういうのは、一番気の緩む交替時間に行動するのが定番と言うし。
このまま順調に進めば予定通り時間に間に合う筈。
「エル?」
隣を歩いていたフィーアが心配そうに此方を覗き込んできた。
「何だか顔色が悪そう。大丈夫?」
「大丈夫よ。少し、心配なだけだから。」
「そんなに大切なものなのか?」
後ろに居たグレンも隣まで来て問うてきた。
「ええ。とても、大切なものなの。」
だって、人の命だもの。
「そうか。なら、少し急ごうか。」
「ありがとう。」
聞き取れるか聞き取れないかの小さな声だったが、グレンはフッと笑うと一度私の頭に手を載せた後先頭を歩いているレナルドの所に行った。
「エル?」
俯いた私を不思議そうにフィーアは見詰めている。
「何でも無い。」
先程のグレンの行動に何故だか頬が赤くなった気がしてそれを誰かに見れることが恥ずかしかった。
そして私達は急ぎ王都へ戻るのだった。
次話は明日の23時に投稿予定です。




