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この世界で生き残るために  作者: スタ
四章 ゲームシナリオ編
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信頼できる仲間(ジルベール視点)


 幼い頃、俺は実の兄達よりも兄と慕う人がいた。


 従兄であった彼は、とても優秀な人だった。

 剣を手にすれば、騎士団の騎士とためを張るほどの腕を持ち。

 魔術の扱いには、宮廷魔術師にさえ匹敵するほどの腕前。

 彼の知識は、知らないものは無いのではと思わせるほど豊富で、宰相さえも感嘆するほどだった。

 とても優秀で、とても優しかった。

 そんな彼を幼い俺は無邪気に慕っていた。



 その笑顔の下に隠された彼の本心に、俺は最後まで気付くことさえ出来なかった。





 

 俺に魔術の才能があると気が付いたのは物心ついて間も無くの事。そして、その才能を見つけたのが従兄の彼だった。

 例え第三王子という王位からも離れている王子としても、教育はしっかりと身につけるようにと彼を家庭教師として父親である陛下が傍に置かせたのだ。


 最初は何の疑いも無かった。

 父である陛下の弟であり、王弟のシェルザード大公の一人息子。そして、何より血の繋がった従兄だ。

 家庭教師として就く前から知っていたのだ。

 物心ついて間もない子供に周りの人を疑ってかかるなんてこと出来る筈も無い。

 だから、一番初めに傍に居てくれた人に、彼に無償の信頼を寄せていたことは仕方の無かったこと。




 初めて魔術を使った時の事は今でも覚えている。


 彼が戯れに見せてくれた魔術がとてもかっこ良くて自分も使ってみたいと強請った。

 彼も冗談のつもりだったのだろう。

 普通始めに教えるのは魔術の基本である初級魔術のファイアーボールやウォーターボールだ。

 それをすっ飛ばして彼が見せてくれた上級魔術を俺が真似してみたのが始まりだった。

 一度見ただけのまだ物心ついたばかりで魔術も知らないような子供が行き成り上級魔術を使ったのだ。

 誰だって驚くだろう。

 その時の呆けた様な彼の顔を見て俺は事の重大さに気付きもせず、ただ彼を驚かせれたことを喜んでいた。ジッと俺を見つめる彼がその時何を考えていたかも知らずに。



 それからと言うもの、彼は俺に沢山の魔術を教えてくれた。

 基本的なものから誰も知らないようなマイナーなものまで。

 それを俺は乾いた土に水が浸み込む様に次々と覚えていった。


 俺は浮かれていた。

 沢山の魔術を覚えられることに。

 沢山覚えることで彼に褒められることに。


 だから気が付かなかった。

 魔術を覚える前までは頻繁に会っていた筈の家族に最近余り会わないことに。

 逆に魔術の才能が露見してからは貴族共が頻繁に会いに来るようになったことに。

 時々彼が、感情の抜け落ちた瞳でジッと見つめていたことに。

 普通は気付くであろうその周囲の変化に。

 その状況を作った張本人が誰だったのかさえその時まで気付くことが出来なかった。

 気付かず愚かにも彼を信じ続けていた。

 でも、終わりというものは必ず遣って来るものだ。




 その日何時ものように魔術の勉強をしていた。

 初めは彼が見せてくれる魔術を見よう見真似で真似てみる。それを一発で出来たものだから彼や周りが神童と期待していた。

 最近では彼の使える魔術も殆ど覚えてしまい、今では魔術の本を読んで覚える日々だ。

 そうは言っても年端もいかない子供が読める文字なんてのは高が知れているので、彼の魔術を見ていた時よりも覚えられる量は少なかった。

 今日は昨日読み進めていた本の続きを読もうと辞書を片手に魔術書を開きながら彼を待っていた。

 彼が、否彼らが策略を巡らせているとも知らずに。




 気が付けば何処か知らない場所に居て、最近見知って来た人物達に囲まれていた。

 よく俺に会いに来ていた貴族共だ。

 その鬱陶しい連中の中に彼が居たことに驚きが隠せなかった。

 何故?と思った。

 突然の謀反と俺を王の座に付かせるという言葉に開いた口が塞がらなかった。

 彼らは何を言っているんだろう?と思った。

 第一年端もいかない子供にそんな話をしたって解かるはずもない。

 例え神童と呼ばれていたとしても。

 ただ何と無く彼らは敵なのだと、俺は彼に裏切られたのだとそれだけは理解することが出来た。


 と言うか、子供にそんな生々しい事言うなよ!と、今ならそんなことを叫びたくなるようなことを彼らは子供に聞かせていた。



 そんな訳の分からないまま危機に陥っていた俺はこの状況を理解する前に救出された。

 どうやら魔術の才能が露見してからの俺の周りが劇的に変化したことに怪訝に思った陛下が密かに調べていたらしい。

 そのお陰で俺は彼らに利用されることも無く直ぐに救出されることになった。

 こうして呆気無く彼らの謀反は成功することも無く幕を閉じた。




 この事件を切っ掛けに家族以外の人を信用出来なくなっていたのだが、シアとの出会いによって変わっていった。

 俺が八歳になったばかりの時、陛下が連れて来た少女がパトリシアだった。

 二歳年上の少女は、俺よりも僅かばかり背が高くスラリとした体型に似合わず鎧と剣を携えていた。

 少年のように短く切り揃えられた蜂蜜色の髪を風に靡かせながら、俺を真っ直ぐに見据える翠の瞳は見定めるようで何だかムカついた。

 思わず余計な一言を言ってしまったのは、まあ、仕方なかったと思う。

 そんなことで、出会いは最悪だったと言えるだろう。

 あの事件で人を信用出来なくなっていた俺が出会って間もない少女を信用なんて出来るはずも無かった訳だしな。

 事あるごとに厭味を言う少女は、それでも護衛の仕事を怠ることは無かった。


 彼女は彼等とは違うのだろうか?




 そんな疑問を確信に変えることも出来ないまま日々を過ごしていたある日、彼女との関係を変える出来事が起こった。


 彼女と離れていた隙に俺は狙われた。

 俺を襲う敵には二種類いる。俺を利用しようとする者達と邪魔だと思う者達だ。

 今回は後者だった。

 直ぐに駆けつけた彼女の腕は確かな様で、まだ成人してもいない少女だというのに暗殺者と互角に渡り合っていた。

 彼女が来たことで魔術が使えるようになり、暗殺者を捕らえたことで事件は治まった。


 騎士団に連行されていく暗殺者を見送った後、思い詰めた表情で傍に佇む彼女を見遣る。

 唇を噛むその表情が自分の責任だと言っている様で、別にお前の所為でもないのにと言いたかった。

 言おうとして、そのことに気がついた彼女は直ぐに表情を隠してしまった。


 俺が何かを言う前に。

 俺に何も言わせないように。

 少し意地悪に笑うその顔で、彼女は本心を隠してしまう。

 軽口をたたく彼女に、結局俺は乗せられてしまう。




 俺が何を言ったところで自分を責めるんだろう。

 彼女はそう言う人間なんだろう。

 彼等とは違う。

 だから、俺は。

 彼女を、シアを信じてみよう。



 シアとの出会いは俺の人生の転機とも言えた。

 護衛のくせに厭味な少女は、それでも俺を心から心配してくれる。

 家族以外で裏も無く心配してくれたのは彼女だけ。

 人を信じられなくなっていた俺に、人を信じさせてくれた。


 だからこそ、俺は今彼等を、レナルド達を信じらたんだろう。

 否、彼等ならいずれ信じられたかもしれないが。

 なんて言ったって勇者はお人好しだしな。








 魔王討伐の旅は順調に進んで行った。

 途中魔物の襲撃にあったり、道中道に迷ったりもしたが着実に前へと進んでいる。

 今は魔王の住む城が在る暗黒大陸へ渡る船がある隣国イスールに来ている。

 ここイスール帝国は暗黒大陸と隣接していることもあり、聖剣を保有する我が聖クローネル王国との繋がりも深い。

 数年前には四歳年上の姉であるセシリア王女が嫁いで行ったこともあり国家間の仲は良好だ。

 王宮へ招かれるのも当然と言えるだろう。




「姉上。お久しぶりです。」


 王宮のサロンで、今は皇妃としてこの国に嫁いだセシリア姉上と会っていた。


「本当、久しぶりね。嫁いで以来だから何年ぶりかしら?」

「九年ぶりです。」

「そうだったわね。」


 クスクスと笑うその姿は九年前と変わらず優しげだ。


「旅は如何?」

「順調ですよ。」

「勇者様は随分若いのね。貴方より年下かしら?」

「四つ年下の十七歳ですよ。」

「まあ、そんなに若いの?・・・大丈夫なの?」

「実力を心配されてるなら大丈夫ですよ。彼は若くても勇者ですから。剣術・魔術共に腕は確かですから。」

「そう。若いのにやっぱり勇者様は凄いのね。」

「凄いのは実力だけですよ。」


 道中での彼を思い出して溜め息が出る。


「彼は優し過ぎる。幾ら同じ人間だからと言って盗賊にまで情けをかけるなんてお人好しにもほどがある。それに、何度も悪徳商人に騙される。あいつには学習能力が無いのか見る目が無いのか。他にも―――」


 レナルドに対しての愚痴を吐いていると隣でクスクスと笑い声が上がる。


「フフフッ、楽しそうね。」

「・・・・別に楽しくは・・・。」

「あら、でも素が出てるわよ?」

「・・・・・・。」

「フフフッ。ねえ、他の人の事ももっと聞かせて?どんな旅をして来たの?」


 ニコニコと笑う姉が四つ年上だと思えないくらい無邪気な笑顔で聞いてくる。

 その笑顔を見て、ため息と共に苦笑いがこぼれた。


「エリオット・ファウマンは勇者の親友で―――――――」






「それで、その遺跡で四つ目の宝玉が揃ったのね?それにしても、エルさんは頭が良いのね。その遺跡の仕掛けを解くのだもの。」

「そうだな。でも・・・・。」


 エルは初めからその仕掛けの解き方を知っていたような気もする。


「どうしたの?」


 まあ、気のせいだろうけどな。


「何でも無い。」

「・・・勇者様達と上手くいっている様で安心したわ。あの時は人間不信に陥っていたものね。」

「姉上・・・・。」

「シアのお陰ね。」

「ムッ、別にあいつのお陰な訳じゃ・・・・。」

「フフフッ。」

「・・・・・・。」


 分かってますよとでも言うような笑顔で見つめる姉の迫力に気圧されて押し黙る。

 何だか姉の手の平で転がされている様で悔しく、かと言って言い返す言葉も思い浮かばず姉のその表情を見ていられなくてそっぽを向いた。




「でも、本当に安心したわ。貴方の事だけが心残りだったの。」


 俺を見る眼差しはとても優しくて、それだけで姉がどれだけ心配していたかが窺える。

 改めて家族の愛情を実感するが何だか気恥ずかしかった。












 信頼できる仲間と言うものは良いものだと思う。


 人に裏切られ、人を信じられなくなってしまった俺にまた人を信じさせてくれたシア。

 何処までもお人好しなレナルド。

 無口無表情だが親友思いなエリオット。

 おっとりとした性格だが困っている人は放っておけないアルコ。

 仲間のことになると途端に甘くなるグレン。

 顔に似合わず心配性なエル。

 第一印象が最悪だった所為か突っ掛かってきてムカつくが、フィーアも嫌いじゃない。



 こいつ等となら魔王も倒せると思う。

 そう信じられる仲間が居ると言うことに悪い気はしないな。




補足

 ジルは兄二人、姉一人の末っ子です。


 セシリア

  現在二十五歳。十六歳の時に隣国イスールの皇帝に嫁ぐ。

  おっとりとしていて何処か抜けている女性。


 従兄

  文武両道で天才と言われていた王弟の一人息子。


 王弟

  現国王の弟で寡黙な人物。

  剣の名手で若い頃は武名を轟かせていたが、戦時に負った怪我で足が不自由となる。

  臣下に下りシェルザード大公と名乗るも、息子の謀反で爵位を返上する。



パトリシアの髪を蜂蜜色、瞳を翆色と書いてますが、まだちょっと定まっていない状態です。後々また変わるかもしれないです。



誤字脱字・感想等ありましたらお返事下さると助かります。

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