貿易都市ミュールズ
長らくお待たせしました。
二話に分けようかと思ったんですが、分け辛かったので一つにまとめました。
ちょっと長いです。
ガヤガヤ
「はぁ・・・・。」
私達は今、南の貿易都市ミュールズに来てます。
滞在すること早一週間は経ちますね。
その間何をしていたのかと言うと、もちろんお仕事ですよ。
ここミュールズの近くにも遺跡がありまして、と言うか遺跡の中に街が混在していると言っても過言ではないと言いますか。
だから此処ミュールズは別名遺跡都市とも呼ばれているんですよね。
今までは遺跡と宿を半日往復とかあって調査する時間が少ないんですけど、此処では街の中に遺跡があるので往復時間を考えなくていいんですよね。
だから、この一週間は街を練り歩きましたよ。
休憩がてらちょっと観光、なんてホント満喫した一週間でしたね。
ザワザワ
「・・・・はぁ。」
・・・・・・・・・・。
いやぁ、お仕事だけどとっても楽しかったですよ。
ガヤガヤ、ガヤガヤ
「・・・・・ふぅ。」
・・・・・・・・・・・。
今日はやけに騒がしいですね。
ザワザワ、ザワザワ
「・・・・・・・。」
そう言えば、今日は他国の商人も来る月に一度の大市場があるとか言ってましたね。
外が騒がしいのはその所為ですね。
うんうん。
・・・・・・・・・・・。
否、別に現実逃避とかそんなんじゃ・・・・・。
「聞いたか?数日前に勇者一行がハーピーの大群を壊滅させたらしいぞ!」
「さすが勇者様ね!」
「今南へ向かっているみたいだ。」
「まあ!この街へは何時寄ってくれるかしら?」
・・・・・・・・・。
現実逃避位したっていいじゃない!
勇者一行とか忘れて満喫したっていいじゃない!
遠くの世界平和より、目の前の仕事の方が最優先でしょ!
だから死亡フラグなんて、死亡フラグなんて!!
・・・・・・・・・・・・・・・・。
少々取り乱してしまったようですね。
すみません。
どうも忘れたかったことまで思い出してしまって、まあ忘れちゃいけないんですがね。
ショルダーバックに手を突っ込み、バッグの奥底に埋もれていた物を取り出す。
取り出したソレは、直径1㎝ほどの翠色の玉。ビー玉程の玉なので、何だか失くしそうなんですよね。 まあ、失くしてしまったら世界規模の危機なので失くしたらガクブルものですよ。
あ、なんか手汗出てきたかも。
そんな恐ろしい物を何故持っているのかというと、偶然ですね。
えぇ、偶々です。
まさかグレンが持って来ちゃうなんて思わないじゃないですか。
遺跡調査の資料としているかと持って来てくれたみたいです。
親切ですね。
そう思ってくれることが有難いです。
でも、ですね。
非常に言い難いことなんですが、コレ勇者一行の旅の目的の一つです。
ちなみに勇者一行が西へ向かったのもコレを取りに行くためです。
・・・・ウフフ、それが今は私の手の中に何故か収まってますねぇ・・・・。
・・・・・・・・・・。
あれぇ???勇者、コレ探してますよね?
え、どうすんのコレ。絶対行き詰まってるじゃない。
マジでどうしようコレ。
魔王討伐のキーアイテムだよ!?
コレが無いと魔王倒せないよ!
遺跡に戻すって手は・・・・あ、もう南に向かっているから無理ですか、はい。
・・・・接触せずに渡すことって出来ないですかね。
あ、無理。そうですよね、ええ分かってましたよそんな事くらい。
ホントですって。
無理なことくらい分かってましたとも。
・・・・・・・・・・・・。
はぁ、何だか厄介なことになってきたかも。
「はぁ。」
「どうした?ため息なんか吐いて。」
「@ぅhksmふじこkばおksべおkphs($%bhs!!!!????」
一階が食堂となっているスペースの一席に腰掛けぼんやりと窓の向こうの行き交う人を何ともなしに見ていた。
そんな時、突然耳の傍で声を掛けられ、声にならない悲鳴が口をついて出る。
や、ヤバい。
まだ心臓バクバク言ってる。
背後を振り返るとちょっと驚いたグレンが居た。
「び、吃驚した。」
「お、おう、驚かせたか、すまん。」
「グレン、おはよう。今から朝食?」
「あぁ、ちょっと外門の方まで走り込みしてたらこんな時間になってな。」
「そうなの。」
「ああ、それで?」
「え?」
「エルはため息なんか吐いて何を悩んでるんだ?」
「そ、それは・・・・・・。」
突然、グレンがそんなことを言ってくることに吃驚していた。
そして其処まで私は分かりやすいほど思い悩んでいたのかということにも吃驚した。
普段から無表情なので、そんな表情の変化なんて分からないと思っていたのだが、ため息をついていたところを見られていたらしい。
ちょっと恥ずかしいなぁ。
「えっと、そう!買い物を頼んだフィーアが心配で!!」
「フィーア?」
「ええ!そう!フィーア!・・・・・本当大丈夫かしら?」
咄嗟に早朝に買い物を頼んだ少女で誤魔化したのだが、言葉に出して言ってみると段々と心配になってきた。
ヤバい、ホントに大丈夫かしらあの子。
買い物って言っても簡単な子供のお使い程度だから直ぐに帰って来ると思っていたのだけど、今だ帰って来てないのよね。
もしかして道に迷ったとか?
で、でも市場はすぐ近くだから迷うほどの事でもないのだけど。
そ、それとも暴漢に襲われたとか!?
ま、まままさか誘拐!!?
身代金とか要求されたりするのかしら!?
や、ヤバい!!手持ちに今そんなにお金あったかしら!?
ハッ!!待って、此処はファンタジーな世界だから身代金より人身売買かも!!??
そ、それなら早く助けに行かなくちゃ!!
路地裏、人気の無い場所・・・・割と多いわね、目星をつけて行かないと間に合わないかもしれない。
あの子うっかりなとこあるし、誘拐犯に何かされてなければいいのだけど・・・・。
うあああああ大丈夫かしらホントに!?
「エル、落ち着け。別に誘拐されたとは決まって無いぞ。」
「ぐ、グレン。な、何で私の思っていること・・・!!?」
え!?グレンもしかしてエスパー!?
「お前、口に出して言ってたぞ。」
あ、さようですか。
「それにしても、表情かわんねぇのに慌てるとか、器用なことするな。」
器用、上手いこと言いますね。
ま、不気味だって言いたいのは分かります。
周りが若干引いているみたいですし。
ホント、穴があったら埋まりたい!!!
「ククッ、見てて飽きねぇな。・・・・ほら、落ち込んでないで心配なら迎えに行こうぜ。」
頭上から笑いの漏れる音と共にグシャリと乱暴に頭を撫でられた。
思わず後ろを振り返ると、ちょっと意地悪な楽しそうな笑みをグレンは浮かべて手を差し伸べてきた。
その笑顔に一瞬ドキリとする。
「う、うん。」
うっ・・・・ド、ドキッて何ですかね?
べ、別にときめいたりなんてしてませんよ?
「どうした?顔が赤いぞ?風邪か?」
戸惑いながらも差し出された手に手を重ねようとしたら、躊躇していた私を不思議に思ったのか顔を覗き込まれていた。
突然のグレンの行動に、私は思わず捲し立てるように否定して立ち上がる。
「な!!べ、べべ別に何でも無いわ!!さっさと迎えに行きましょ!!」
これ以上真っ赤な顔を見られたくなくて、グレンを置いてさっさとドアの方へと向かう。
唖然としていたグレンを余所に、エルはドアの前で一度こちらに振り返って待っていた。
無言で催促する彼女に苦笑を漏らし、慌てて彼女の元へと向かった。
「それにしても、今日はやけに人が多いな。」
「何でも今日が月に一度の大市場の日みたい。隣国は元より遠方の国からも商人が来てるそうよ。」
「ああ、だからこんなに人が多いのか。」
「そうみたい。」
宿屋を出て市場が開かれている場所まで向かおうとしていたのだが、余りにも人が多すぎて前へ進むのが難しい。
グレンが前を先導してくれているが、それでも人にぶつかりそうになっていた。
「あの子大丈夫かしら?帰りも遅いし、背も小さいから人混みに潰されてるのかも。心配だわ。」
「大丈夫だって。あいつは人混みに潰れるほど弱くも無いし、珍しい物に目移りしてちょろちょろと寄り道してるだけだろ。」
「そうかしら?」
「そうそう、子供じゃあるまいし、そこまで心配しなくても大丈夫だって。」
「そう・・・・ね。」
そう、なのかな?
ん~?
外見年齢は十五歳程だし。でも生まれたのは数千年も前だから・・・・あ、眠ってる間を省いたらつい最近生まれたことになるのかな?
ど、どっちに取れば良いのかしら?
ドン!!!
「きゃっ!!」
この人混みの中で考え事をしていたのがいけなかったようで、肩がぶつかったことでバランスを崩してしまう。
慌てて立て直そうとするも、衝撃が強く地面がまじかに迫って来ていた。
こけるっ!!と思い衝撃に耐えようと思わず目を瞑る。
しかし、地面にぶつかることは無かった。
「おっと、大丈夫か?」
「え?」
突然、耳元近くで聞こえるグレンの声に思わず顔をあげると、彼の顔が至近距離にあり一瞬思考が停止してしまった。
漸く彼が支えてくれたと言うことに気が付いたのと同時に、彼に抱きついている状態だと言うことに思い至る。
「怪我は無いか?」
「う、うん!!大丈夫、ありがとう!わっ!?」
「っと!」
勢いよくグレンから離れると、今度は後ろの人にぶつかりそうになってまた彼に助けられてしまった。
あまりの失態続きに彼の顔が見れなくて俯いてしまう。
そんな私が可笑しかったのか、彼の押し殺した笑いが頭上から聞こえてきて、思わず彼を見遣った。
「ほら。」
彼はニッと笑うと、私の方へと手を差し出してきた。
「?」
「こう人が多いと危ないだろ?手、出しな。」
・・・・・・・・・・・・・。
つ、つつつ繋ぐんですか!!???
ううっ・・・・・恥ずかしいよぅ。
よくよく考えたら前世今世合わせても家族以外の男性と手を繋いだことないかも。
「ほら、早く。」
「う・・・・。」
ずいっと出された手は、引っ込める気が無いらしく私が折れるしかないようだった。
そして、その手に自身の手を置こうとした時だった。
「エル?」
突然後ろから呼びかけられた。
思わず振り返ると、そこにはフィーアと共に見知った人達がいた。
おおっと!いきなりですね!!
と言うか、もう此処まで来てたんですね。
誤字脱字・感想等ありましたら言ってくれると嬉しいです。




