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この世界で生き残るために  作者: スタ
三章 予測不能な出逢い
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閑話 昔々の町の案内人と

 本日の六話目です。

 こちらも前とほぼ変わらないので飛ばしてもらっても支障はないです。

 

 昔々、今はもう無くなってしまったとある街のお話。












 こんにちは。


 ここは山脈の洞窟を利用した春の街フリューリング。

 そして、俺はこの街の案内人だ。

 気軽に案内人さんとかあんちゃんなんて呼んでくれ。


 何?洞窟はジメジメとして春のイメージじゃないって?

 ところがどっこい!

 ここは洞窟内でもジメジメしてないんだよ。

 この洞窟には元々聖域があってな、精霊術師の話では聖域の影響によって街中を風が吹き渡り、街の至る所にマナ植物が自生しているんだ。


 マナ植物は何かって?こいつは、マナを取り込んで成長し自ら発光する植物だ。魔光石と同じだな。

 だから街は洞窟の中だからと言っても明るい。まあ、明り取り用の窓も有るんだけどな。

 偶にこのマナ植物が何十年かに一度発光をしない時期があるんだ。洞窟内にある魔光石も同じ時期に発行を止める。

 俺はよく分からないんだが、精霊術師によると自然界のマナにも波があるらしいんだ。その自然界のマナが弱まると発光しなくなるんだと。

 その時は街中が一斉に暗くなるんだ。明り取り用の窓だと仄暗くなって薄気味悪くなるんだよな。

 俺達のマナを植物や石に注げばいいんだが、ずっと注いでる訳にもいかないしな。


 だからその時期になると、街の奴らは仕事を中断して(真っ暗じゃあ仕事も出来ないしな)皆で仮装して脅かせ合うんだ。お化け屋敷ならぬお化け街なんてな。

 これもこの街の一大イベントなんだ。

 その時期が近づくと皆ノリノリで衣装を用意するんだよ。薄暗いから誰がどんな衣装を着てるかなんて分からないし、普段着れない様な変わった衣装なんかも着易い。だから、皆大胆に大変身してくる。

 手先が器用な奴や術が使える奴らなんかは衣装だけじゃなく全身フルメイクしてくる奴も居るな。

 何を隠そう俺もその一人だ!

 前の時なんか、凝り過ぎて危うく退治されそうになったな。苦い思い出だ。

 他にも楽しいイベントはあるが、まあ、この街に住めば追々分かるさ。

 それじゃあ街の話はこの辺で、街の中を案内しようか。




 さて、まずは何処を案内しよう。


 この街は少々入り組んでいてな迷子になり易いんだ。

 はじめて来る奴なんかはよく迷子になってるよ。

 だから、俺みたいな案内人が居るんだがな。

 でも、ここに住むんなら迷子にならないようにしないといけないな。

 この街を歩くには、ちょっとしたコツがいるんだ。


 最初に話したように街の中には風が吹いてる。

 大体の通りは風が吹いているんだが一箇所だけ吹かない所がある。其処が商店街の通りだ。

 あそこは活気があって楽しいぞ。住んでる奴らも面白い。

 店を出すなら此処が良いぞ。商店街内での繋がりがあるから困ったときに助けてくれるしな。

 偶に乱暴者が来ることもあるが商店街の奴らの方が数倍強い。

 だから治安はいいと思うぞ。


 住宅街へ行きたいなら小さな竜巻を辿るといい。

 竜巻と言っても2~30cmくらいの小さな渦でな、それが転々とあるんだ。

 それを辿っていくと住宅街に出る。

 あの竜巻がどうやって出来てんのかは知らないがあると便利なんだよな。


 風の他にもマナ植物を見分けるのも街を歩く一つのコツだ。

 水場に近くに生えるマナ植物は他と違った発光の色をしているんだ。

 噴水広場に行きたいならそいつを探すといい。


 後は神殿だな。

 ここへは商店街や住宅街、噴水広場からでも行けるようになってる。

 街の要だからな。

 風の集まる終着点でもある。風の吹いていくへ向かって行けばいいんだが、何処も彼処も風が吹いて分かりにくいんだよ。着くには着くが時間がかかる。

 早く着きたいなら耳を澄ませばいい。

 神殿へ行く道には風の音が聞こえるんだ。

 割と小さいから耳を澄まさねえと聞こえないぞ。


 と、まあ説明はしたがちゃんと案内板はあるんだ。

 街の入り口の方にな。

 街に入って直ぐに拓けた場所があるだろ?

 あそこの壁に書かれてるやつがそうだ。

 それで何で迷子が出るんだって?

 まあ、行きゃあ分かるよ。

 俺としては傑作が出来たと思うんだよ。結構気に入ってる。

 何が傑作だって?

 ああ、案内板は俺が書いたんだ。

 普通の案内板なんて見ていて面白くないだろ?

 だから、俺のちょっとしたお茶目心と楽しさを提供しようと思ってな。

 これを街の名物にしようと画策してんだ(俺が)。





「やっと見つけたぞ!!」


 案内板の所まで戻って来た時、前方から恰幅のいい中年の男性が走り寄って来た。


「おっ、市長さん。こんちは。」

「こんちは。じゃない!!街に来る度に迷う奴がいるからって設置したのに何だあの案内板は!?」


 ニコリと挨拶をする案内人に市長と呼ばれた男性は般若のような顔で怒鳴ってきた。


「面白いでしょ?謎かけ風にしてみたんだよね。これ全部考えるのに苦労したんすよ?」

「そんな労力はいらん!!」


 市長の怒りにも何処吹く風な案内人は笑って説明している。


「ちょっとしたお茶目心じゃないですかぁ。普通の案内板じゃ詰まんないでしょ?」

「何がお茶目心だ!!分かり辛いわ!!詰まんなくていいから普通の案内板にしろ!!」

「え~。」

「それと隠し通路とか内緒で設置するのも止めてくれ。」


 普通の案内板にしろとの言葉にブー垂れる案内人に市長はガクリと項垂れる。

 もう言葉の端々に諦めが滲んでいる。


「あ、気が付かれました?」

「気が付かれました?じゃない。いきなり応接室から人が出てきて吃驚したわ!人が居る時だったから良かったものの誰も居ない時に泥棒に使われでもしたら堪ったもんじゃない。」

「あはは。」

「笑い事じゃないんだが。」

「まあ、そうですね。市長館の隠し通路は、市長の声にだけ反応するように術式を変えときますよ。」

「そうしてくれ。それとその隠し通路は一方通行なのか?」

「え~?違いますよ?」

「だが、間違って入った者が戻れないと言っていたぞ?」

「ちゃんと合言葉を言えば戻れますよ?」

「入る時と同じ合言葉を言っても戻れなかったぞ?」

「行きと同じ言葉じゃないですからね。」


 サラリと答えた案内人に顔をしかめる市長。


「しかし何処にもそんな言葉は書かれてなかったぞ?」

「書いてますよ?ちゃんと天井に『帰りは反対の言葉で!』って。」


 見上げると、天井には確かに『帰りは反対の言葉で!』と書かれていた。


「反対と言うと反語か?」

「イヤイヤ、反語じゃないです。フリューリングだったらグンリーリュフってな感じです。」

「逆さ言葉かよ。分かり辛過ぎる。」

「あはは~。」


 ますます深いため息を吐く市長に案内人は能天気な笑い声を上げていた。





「ところで、彼が新しく越して来た精霊術師かい?」

「ええ、そうです。彼です。」

「そうか。はじめまして、精霊術師さん。そして美しい精霊さん。私はこの街の市長を勤めている者です。何か困ったことがあったら気軽に声を掛けて下さって構いません。」


 向き直った市長はキリッとした顔で挨拶をしてきた。


「さっきあんな形相で怒ってたけど、市長さんは優しい人だから怖くないよ。」

「お前が言うな!」

「痛ッ・・・・!!」


 その横で茶化す案内人の頭に市長のげんこつが見舞われた。


「ごほん。」


 咳払いを一つして脱線していくこの場の空気を元に戻す市長。

 キリッとした表情は一変して朗らかな笑顔に変わる。



「ようこそ。私達は貴方方を歓迎しますよ。」







 こうして新たに住人を加え、街は活気付いていく。

 春の街フリューリング。

 春のようなその場所と明るい街の人達は、今日も賑やかに日々を過ごしていく。





















 今はもう無いそんな街の小さな出来事。



補足


エル達が読んだところ

 「風の通り道。呼ぶ声に耳を傾け行く先は終息なり。其処は神の降りる地である。」

 「秘されし道。流れに沿っていく先は、精霊の源。合言葉は街の名。」



案内人

 街の案内と案内板を任されたちょっと悪戯心の過ぎる男性。

 市長館や聖域への隠し通路以外にもたくさん作っている。

 名のある魔術師でもある。

 前回の仮装イベントでの仮装はリアルゾンビ。魔術によるフルメイクです。

 リアルすぎて本物のゾンビだと思われたそうです。

 商店街に行ったとき危うく半殺しにされそうになり、終いには名前の書かれたプラカードを着けられました。



市長さん

 街や街の人達が大好きな恰幅のいい中年男性。

 普段は優しいが案内人には怒ってばかり。

 案内人の奇行に振り回されぎみな可哀想な人。

 でも、案内人も街の人達も市長さんのことは大好きです。

 ちなみに、前回の仮装はフェアリーだったとか。

 羽根の生えたファンシーなおっさん・・・。



精霊術師と精霊さん

 新しくこの街に引っ越してきた住人。

 マナの強いこの街に研究をするために越して来た。

 何の研究かは秘密らしい。

 精霊さんは綺麗な女性の姿をしている。

 精霊術師とは仲睦まじい。



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