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この世界で生き残るために  作者: スタ
三章 予測不能な出逢い
28/61

旅は道連れ(グレン視点)

 本日の四話目です。

 前回と同じくグレン視点となっております。

 


 翌朝、何時もの日課である素振りを宿屋の庭先でしていると二階の一つの窓が開いて声がした。


「ん~いい天気!」


 仰ぎ見ると、窓から顔を出したのはエルゼリーゼだった。

 どうやら彼女も起きたようだ。


「おはよう。」

「おはようございます。」


 声を掛けると敬語で挨拶をしてくる。


「ククッ、敬語。」


 笑って指摘すると恥ずかしかったのか俯いて挨拶し直してきた。


「あ・・・えっと、おはよう。」


 朝日は大分昇ってきて、村人たちの声も聞こえてくる。

 そろそろ朝食の時間だろう。


「そろそろ朝食にしようか。」

「はい。・・・・あ。」


 また敬語になる彼女にクスリと笑い一階の食堂へと向かった。



「今日の予定は?」


 昨日予定も聞かずに解散したので聞いてみる。


「う~ん。まずは村長さんに挨拶を終えた後、土砂崩れによる被害状況を確かめないと。その後、遺跡の調査ね。王都付近の遺跡内は魔物も多くなく弱かったけど、此処は如何なのかしら?それによって今日は奥まで進むか決めようと思っているの。」

「その方が良いかも知れないな。最近の魔物の出現率は異常だからな。遺跡内も気をつけたほうが良いかも知れない。」

「それじゃあ、朝食を食べ終えたら村長さんの所へ向かいましょ?」

「ああ。」


 朝食を済ませた後村長宅で話を聞き、そのまま遺跡へ向かった。








「此処が土砂崩れのあった場所ね。」

「村長の話によると、一ヶ月前の豪雨が原因らしいな。」


 村外れの森を通り抜け、切り立った山脈に突き当たった所に隠される様に建てられた遺跡を見つける。

 一ヶ月前に降った豪雨によって崖が崩れてしまい下に在った遺跡に被害が及んだらしい。

 その土砂崩れは遺跡の入り口にも被害を及ぼしていた。


「入り口まで崩れているわ。辛うじて人一人通れる位しか空いてないわね。」


 大人一人分通れる位の幅だった。


「入るか?」

「そうね、遺跡の半分が壊れてしまっているし、中の状態も確かめたいわ。」

「そうか。明かりは?」

「大丈夫よ。遺跡調査には必需品だから持ってきてる。グレンは?」


 ショルダーバッグから小さなランタンを取り出して見せた。


「俺も持っている。」


 俺も腰のポシェットからランタンを取り出す。


「それじゃあ、行きましょ。」

「そうだな。」









「遺跡の中は暗いな。」


 彼女の後に続いて入ると中はとても暗かった。


「本当はもっと明るいはずなのよ。」

「そうなのか?」

「ええ。古代遺跡内には明り取りの窓があって建物内に明かりが入るようになっているの。まあ、仄暗い程度の明かりなんだけどね。この土砂崩れで光が入らなくなったみたい。」

「ふうん。」


 今よりももっと明るいのか。




 真っ暗な通路を通り過ぎると拓けた場所に出た。

 そこは僅かに明るかった。


「少し崩れかけているみたいだけど、ここは大丈夫だったみたいね。」

「壁に何か書かれているな。これは・・・模様か?」


 何となく壁の方を照らしてみると壁には模様が書かれていた。


「壁に書かれているのは古代人の文字よ。古代では紙やペンが無かったから、壁や岩に文字を書いていたの。此処の壁に書かれているものは全部そうよ。」

「これが文字か。・・・分からん。」


 これが文字ねぇ。

 明かりを近づけて壁を照らしてみるが分からなかった。


「ふふっ、壁に書かれているのは古代語だから仕方ないわよ。今はこの国も一つの言語で統一されているけど、昔は色々な言語が有ったらしいわね。」

「そうなのか。エルゼリーゼは・・・」

「エルでいいわ。」

「エルは、古代語は読めるのか?」

「研究所に勤めてまだ一年しか経ってないしそれほど読めるわけではないけど、少しだけなら。」

「何て書いてあるんだ?」

「えっと。風・・通り道。呼ぶ・・・・・・・・・終息なり。・・・・神・・降りる地・・・。この先は崩れていて読めないわね。」


 興味を覚え聞いてみると、彼女の側の文字を途切れ途切れながらも読んでくれた。


「何て意味なんだ?」

「う~ん。神、降りる地は神殿のことを指していると思うわ。」

「どうして神殿だって分かるんだ?」


 俺が不思議に思って聞くと、彼女は視線を手元に移したまま答えた。


「遺跡の奥に神殿の様な所があって昔はそこで神様を祀っていたみたい。他の遺跡にも似たような所があったの。だから、この神降りる地と言うのは神殿で合っていると思うわ。」

「そうか。」


 こんな所に神殿ねぇ。

 彼女が調査をしている間手持ち無沙汰になるので周りを見渡してみる。

 僅かな明かりだが全体を照らしていて、割と広い空間であることが分かった。

 先には、先程通った道より倍ほどの幅の道がある。

 此処はどういう所なんだ?



「え?きゃああッ!?」



 辺りを観察していると突然彼女の驚いた声を聞き振り返った。

 彼女は淡く光る模様の上に立っていた。


「エル!?」


 慌てて駆け寄るが、間に合わず彼女は消えてしまう。

 直ぐに床を調べてみるが、其処に書かれているのは古代語のため俺では知ることが出来ない。


「クソッ!!」


 護衛が護衛対象を見失ってどうする!?

 彼女は何処へ行ったんだ?

 焦る気持ちを押さえつつ考える。

 この遺跡で俺が知っているのは神殿があるということだけ。

 彼女が何処へ行ったかも分からない。

 外に転移するにしてはこんな入り口付近のしかも壁の端っこはおかしい。

 遺跡内の何処かだろう。


「一先ず奥へ行ってみよう。」


 まずは神殿を探してみるか。




 




 ずいぶんと歩いた。偶に魔物が出てくるがさほど強くも無かった。

 この分だと彼女でも倒せるだろう。

 仮にも研究所の所員だ。魔術は扱えるはずだろうから。

 心配なのは、突然変異かここを縄張りにしているボスに出遭ってしまうかどうか。

 出遭う前に合流できればいいが。

 ところで神殿は何処にあるのだろう?

 首を傾げているとある一つの道から風の音が聞こえた。


 ん?


 風か。

 そう言えば、「風」や「通り道」とか彼女は言っていたな。

 まぁ、何処にあるか分からないしこっちの道でも通るか!



 風の音を辿りつつ進んでいくと、少し拓けた場所に出る。

 目の前には荘厳な建物が建っていた。


「これが神殿か?」


 中へ入ってみると今の神殿と似ていて礼拝堂のような場所になっている。



 ん?その先にも部屋があるようだな。


 奥へと進んでみる。

 其処もまた広いのだが部屋の奥にある祭壇のようなもの以外何も無い。


 行き止まり、か?


 一応祭壇の所まで行ってみることにした。

 祭壇には緑色の玉が置かれていた。


 何だこれは?


 手にとって見ていると、祭壇に隠れるようにして道があることに気がつく。

 まだ続いているようだ。

 中へと進もうとした時、後ろから気配を感じ咄嗟に横へ避ける。

 避けた瞬間、祭壇が真っ二つに斬れていた。

 振り返ると、子供くらいの人間の形態をとった二対の羽根が特徴的な魔族がそこに居た。



「こいつは、シルフか!?」



 魔王の側近にあたる四天王の一人だったか。

 魔王の誕生と共に四天王も産まれると聞くが・・・。

 魔物被害の拡大といい、四天王の誕生といい、これはますますやばくなりそうだな。

 とりあえず、目の前の適を如何にかしないと。

 確か、シルフは風を操り敵を切り刻んでいたぶる残忍な性格をしているんだったか。

 しかも、小さい上にすばしっこい。

 まだエルと合流して無くてよかったな。

 これは手強そうだ。

 彼女を守りながらじゃ勝てなかっただろう。

 どうにか隙を突いて一撃で仕留めないと。


「・・・・ギョクヲヨコセェェェエエエエ!!」

「ギョク?」


 シルフは雄叫びを上げながら突進してきた。

 ギリギリで避ける。


「クッ!!」


 素早いな。

 あの素早さをどうやって止めるか・・・・。

 こう広いところじゃ不利だな。

 もっと狭い場所で動きを封じるか。


 敵を警戒しつつ辺りを見回す。

 さっきの隠し通路は既に壊れた祭壇によって塞がってしまっている。

 まあ、どの道あそこは狭すぎて逆に此方が不利になってしまうが。

 他に脇道すら見当たらない。

 神殿を出ないと無いか?



 攻撃をかわし、神殿の外まで走り抜ける。

 神殿を抜け、手前にある細い通路へと誘い込む。山脈をくり抜いたような遺跡の通路にはあまり高さがないので高くも飛べないはずだ。前だけの攻撃なら予測はつく。


「来い。」


 鋭い爪に風を纏い突進してくる。

 柄に手を掛け一つ息を吐く。

 それは一瞬のこと。


「ギィェエエエエエエエエエ!!」


 甲高い断末魔の後、ドサリと後ろで倒れる音がした。

 剣に付いた血を振り落とし鞘にしまう。


「ふう。」


 息を吐くと頬にピリリと痛みが過ぎった。

 手で触れると血が付いていた。

 攻撃が掠ったか。

 大したことでは無いな。

 気にすることも無く道を探すこととする。



 すると何処かから衝撃音が聞こえてきた。

 急いで音のする方へと向かう。

 礼拝堂の中にひっそりと隠れるように脇道がある。


 あそこからか!!


 向かう途中に音が鳴り止んだので戦闘は終わったのだろう。

 エルはどうなった!?

 駆けつけると其処に彼女は立っていた。



「エル!!大丈夫か!?」

「グレン!ええ、大丈夫よ。貴方も大丈夫だった?・・・・あっ!頬に傷が・・・。」


 彼女が頬の傷に気づいた。


「ああ。大したこと無い。それより、護衛として雇われたのに護衛対象を見失った上、危険に晒させたみたいだな。すまなかった。」

「そんな!?こっちこそ勝手に逸れてしまってごめんなさい。ちょっとしたミスって言うか・・・何と言うか。そんなことより傷!!えっと傷薬が確か・・・・。」

「大丈夫だ。掠っただけさ。」

「でも・・・・。」


 心配そうに見つめる彼女に、思わず頭を撫でてしまった。

 おっと。




「・・・・ところで、その子は?」


 誤魔化すように視線を逸らすと彼女の隣に少女が居ることに気がつく。


「ああ、この子は此処で倒れてた・・の・・・・・。」


 言葉を途切れさせて不思議そうに少女の方を見つめている。


「どうした、エル?」

「?」

「な、何でもない!!」


 彼女は慌てて首を振るが何だかまだ考えているようだ。

 代わりに俺が少女に聞くことにする。


「俺はグレン。彼女はエル、エルゼリーゼだ。君の名前は?」

「名前・・・・・・フィー・・・・・ア?」


 少女は首を傾げつつ答える。


「フィーアって言うのか?」

「多分。」

「・・・・じゃあ、どうしてこんな所で倒れていたんだい?」

「・・・・・・分かんない。」

「分からない?」


 分からないとはどういうことだ?


「・・・記憶・・・無い。ここ・・・・どこ・・・?」

「・・・・。」


 記憶が無いのか。

 それ以上聞くことも出来ず沈黙が流れる。





「と、とりあえず、外に出よう?」

「そうだな。」

「・・・。」


 彼女の提案に同意し遺跡から出ることにする。

 ここに居ても意味が無いしな。










 宿屋へと帰る道中、始終無言だった。

 まあ、話すこともないし別にいいのだが。

 宿屋へ帰ると一先ず一階の食堂の端っこで話をすることにした。


「さてと。この子をどうするか・・・。本当に何も覚えていないのか?両親の事とかも?」


 疑問にコクリとフィーアと名乗った少女は頷いた。


「困ったなぁ。この村で保護してくれる人は居ないだろうか?」

「グレンは彼女を引き取れないの?」

「傭兵家業は危険が伴うしなぁ。」


 十四~十五歳ほどの少女だ。

 この村で保護して貰う方がいいんだが。



「あ・・・あの。・・・私・・・・村に残るの嫌。記憶、探したい。」

「・・・そう。なら、貴方なら旅をしているし、グレンにお願いできるかし――――」


 少女は控えめにエルを見ながら訴える。

 旅をするのなら俺が保護した方がいいか。

 彼女もそう思ったのか、そのような事を言っていたのだが途中少女がエルの手をガシッと掴んで途切れさせる。


「貴女は来てくれないの?」

「・・・え?」


 ん?

 彼女も吃驚したのだろう思わず俺の方に視線を寄こされた。

 否、俺に視線を寄こされても。



「・・・えっと、私・・・研究所の仕事が・・・・。」

「・・・・・。」


 少女はウルウルと目に涙を溜めて今にも泣きそうに彼女を見つめていた。


「うっ・・・・・。」


 その姿を見て言葉が詰まっていた。




 ここは助けてやるか。


「部署は魔術史部だったよな?」

「え?ええ。」


 エルは不思議そうに俺を見つめていた。


「支部長とは旧知の仲だし、俺が話をつけてやるよ。確か、遠い遺跡のほうは調査員と研究員に別れているんだったよな。」


 確かあいつは資金不足だか経費削減だかで調査員一人に各地の遺跡を調査さているんだったか。

 鬼だろあいつ。守銭奴にもほどがある。


「ええ、まあそうね。」

「エルが調査員になれば彼女と一緒に居られるだろ?」

「ほんと!?」


 少女の顔が見る間に笑顔へと変わる。

 彼女は少々呆けたように少女を見ていた。

 ん?分かってないのか?


「え?まあ、そうなるわね。」

「じゃあそれで決まりだな。」



 話は纏まったので早速彼奴に連絡を取ることにする。


「じゃあ早速彼奴に連絡してみるよ。そうだ、エル。彼奴に至急報告しとかないといけないこととかないか?」

「えっと、特には・・・・。」

「そうか、分かった。」


 至急報告したいことも無いみたいだし、まあ、取り敢えずはこの身元不明の少女の保護と彼女について彼奴に話をつけないとな。

 しかし、連れが増えるとなると危険なことも出来なくなるな。

 ああ、あとシルフのことも報告しとかないとな。



「俺は部屋に行くな。」


 立ち上がって、そう言えばと気がつく。


「あ、そうそう。女将さんに話しておくからエルの部屋にこの子泊めてくれるか?金は俺が出すよ。」

「え、いいけど。」

「それじゃあ、よろしく。」


 彼女は気にしていないのか、気づいていないのか少女がずっと腕に抱きついていた。

 気に入られているみたいだな。

 仲が良いなと微笑ましく思いクスリと笑う。

 部屋へ戻る前に女将さんに言っておかないとな。






 こうして二人、連れが増え三人で旅をすることになった。







 そういえば、シルフの攻撃で思わず祭壇にあった緑色の玉を持って来ていたんだった。

 後で彼女に渡しておくか。

 調査資料として役立つかもしれないし。




補足

 シルフは四天王の中で一番弱い魔族です。

 ゲームでも初めに倒されるボスになります。



 ちなみに、祭壇に隠れるようにあった通路は外へと続く非常用の通路です。



 ここで三章は終わりです。

 残り三話は閑話となります。


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