うっかりな偶然?
大変お待たせしました。
今回前のものを修正したものが多いのでいっぺんに投稿しました。
最初の一話目です。
フリューリング遺跡はこの国の西端に位置しているので、王都から馬車で約一週間の旅になります。
この国の馬車って正直お尻が痛いんですよね。
一週間も馬車に乗りっぱなしかぁ。
キツイなぁ。
華やかな王都から遠く離れて着いたのは、長閑な農村。
フリューリング遺跡に一番近い此処がタボス村。
ただいま村の近くで降ろして貰ってのんびりと観光がてら目的地まで歩いています。
歩いて・・・・・・?
あれ?
イヤ~おかしいな、村の近くまでって言ったのになかなか村に着かないぞ?
周りを見ても稲穂畑が延々と続いているような・・・・あぁ、あれですか?畑も村の中ってことですか。はぁ、歩くの疲れてきました。
あぁ、せめて観れる物があれば良いのに。代わり映えしなさ過ぎ。
た~い~く~つ~。
エル、見エテキタヨ。
「え?あ、本当だ。」
やっと見えて来た~!
延々と稲穂畑を歩かされるのかと思ったよ。
是で一息できる~。
早速宿屋へゴー!
「ちょっと良いかな?」
宿屋へ着いて直ぐに隣から声を掛けられて振り向くと、其処には背の高い男が立っていた。
光に透けると緋にも見えるブロンドの髪に金褐色の瞳。ガタイの良い体は服越しからでも無駄の無い引き締まった体をしていることが分かる。
ニッコリと笑った笑顔は爽やかな好青年に見える。
そんな彼の笑顔に一瞬ドキッとしたと同時に違和感が頭をもたげた。
あれ?
なんか見たことあるような・・・無いような・・・・・・?
「君が研究所から派遣された人?」
その違和感が何なのか思い出そうとしたのだが、その前に声を掛けられて思考は男の言った内容に向かった。
そして男の言葉に王都を出発する前に支部長が言っていて言葉を思い出す。
『丁度近くに知り合いが居るからそいつに護衛頼んどいたから。現地で落ち合えよ。』
『あの、道中の護衛は?』
『大丈夫大丈夫。街道は騎士団が定期的に掃除してるし。それに今までだって護衛は雇っていなかっただろ?』
『で、でも、今までは王都からも近く騎士の巡回付近の遺跡で危険も少なかったからであって、今回は西端と距離も遠く流石に道中も危険だと・・・・・。』
『心配すんなって、西端は魔物の被害も比較的少ないから。』
『いや、でも・・・・』
『それになぁ、ファウマン。』
『何ですか?』
『この部署は俺が作った部署だ。』
『え、まあ知ってますけど。』
『その上この部署は作って間も無い。』
『まあ、そうですね。』
『ファウマンもうちに対する噂は聞いたことがあるだろう?』
『・・・・・・。』
『それでだ、うちの部署に割ける費用がどれくらいか分かるか?』
『し、しかし、流石に道中の護衛費くらい・・・』
『ファウマン。お前なら倒せる。』
『(そんな信頼いらない!!いい笑顔で言われたくない!!)』
『つう訳で、あいつの事だ、宿屋んとこで待ってるだろうから後よろしく。あ~そうだ、これ会ったら渡しといてくれ。一応向こうにも連絡はしとくけど念の為な。』
そう言って、一通の手紙と巾着袋を有無を言わせず渡して見送ってくれました。
あぁ、うん・・・・・そう言えば、この調査の為に雇った傭兵の人と宿屋で待ち合わせをしていましたね。
初めは騎士団の方に要請するのかと思ったんですが、資金不足というのと魔物の被害が増えていて人手不足ということもあって安く雇える傭兵を雇う事にしたみたいです。
いやまあ、最近の魔物の活性化で騎士団も忙しいのは分かりますよ?
それにこの部署は新設されたばかりですし、経費は他部署より少ないのも確かです。
でも知ってますよ?遺跡近くに知り合いが来てるからそいつに頼もうとかボソッと言ってましたからね!!
絶対あの支部長経費ケチってますよ!
だってあの人守銭奴ですもん!!
今回の傭兵の人も彼の知り合いみたいですし、傭兵の方もケチりにケチらされてそうですね。
しかも、旅の護衛まで入れたら高くなるとか言って遺跡での護衛だけとか言うんです。これでも、一週間の旅は大変だったんですよ?街道沿いは度々騎士団の方が巡回や討伐をしてくれているので、強い魔物は居ないんですけどね。
・・・・世の中って世知辛いですね(ホロリ)。
そいうことで傭兵の方が宿屋で待っていたんですね。
うん、すっかり忘れていました☆・・・・・すみません。
「あ、はい。研究所から派遣されたエルゼリーゼ・ファウマンです。あの、コレは支部長からです。」
自己紹介ついでに行く前に、支部長から渡されていた手紙と巾着袋を彼に差し出す。
それに笑顔で受け取った彼は、早速手紙を開くとそこに何が書かれていたのかはわからないが、渋い顔で手紙の内容を読んでいた。
「・・・・・・まったく、彼奴は・・・・・君も大変だったみたいですね。私はグレン・フィンドレイ。気軽にグレンと呼んでください。」
「よ、よろしくお願いし、ま・・・・・・。」
・・・・・・・・・・グレン・フィンドレイ?
「研究所からの急な依頼で吃驚しましたよ。まあ、騎士団のほうも最近魔物の被害が拡大してきてるからこういった護衛の手が回らないんでしょう。私一人じゃ不安かもしれませんが、腕にはそれなりに自信があるので頼って下さい。」
ニッコリと爽やかな笑みが向けられた。
彼の名に一瞬フリーズしていたが、話の途中だった事に思い出して慌てて笑顔(勿論この時も表情筋は仕事を放棄してましたよ)で返事をした。
「・・・心強いです。」
うふふ、そうですね。元騎士団副団長の貴方がいれば百人力ですね。怖いもの無しですね。
・・・・・・・・・・・・・・・。
って、何で勇者一行の一人が此処に居るのさ!?
いや、まぁ、設定でも騎士団辞めて傭兵になって旅してるってあったけど・・・何故此処に居る!!
ど・う・い・う・こ・と・だ!?
是は・・・何かあんの?
あぁああぁ、ゲームだから記憶が曖昧過ぎて、と言うかゲームにまだ入ってないから分かんないし!!
どうしよう!?
回避することって出来ませんかね!?やっぱり!?
「今日は疲れたでしょう?調査は明日にして今日はゆっくりと休むといいですよ。」
う~ん・・・。
「ありがとうございます。・・・それと、私の方が年下ですし雇い主だからと言って敬語で話さなくてもいいですよ?」
ゲームでも敬語ではなかったし、何か違和感があるんですよね。
「分かった。それじゃあ君も普通に話してくれて構わないよ。」
「あ、はい。」
くすりと笑われた。
あ・・・「はい」も敬語か。
そう思っていると、ポンポンと頭を撫でられて二階へと上って行った。
・・・・・・・・なんか。
子ども扱いされてない?
私、一応十七歳になるんですけど。この国ではもう大人なんですけどねぇ。
ちょっとしょんぼりしつつ私も部屋へと向かうことにした。
***
エル、オハヨウ。
「おはよう。シアン。」
ベッドから起きるとシアンは毛布の上に小鳥の姿で丸まっていた。
窓を開けると燦々と輝く太陽が顔を出している。
「ん~いい天気!」
昨日は長旅で疲れていたのであろう、部屋に入ると直ぐに眠ってしまった。
馬車に揺られるだけの旅ではあったが、疲れは溜まっていたのだろう。
ぐっすりと眠ったので何だかスッキリとした朝を迎えられた。
今日は幸先が良いかも。
「おはよう。」
何処からか声が掛かってきた。
声の聞こえた方を向くと、宿屋の裏手の庭にグレンが居た。
朝から素振りをしていたのだろう片手には大剣を持っていた。
「おはようございます。」
私も傍目には分からないが笑顔で挨拶をする。
「ククッ、敬語。」
笑いをこらえるように拳で口を抑えて指摘された。
「あ・・・えっと、おはよう。」
ううぅ。笑われた。
まあね。相手に敬語は止めてって言ったくせに自分は敬語止めないなんて可笑しいよね。
でも、何か慣れないのよね。
前世日本人の性って奴かしら?目上の人に対する礼儀ね。
まあ、気にしないって言ってるしそのうち慣れてくるでしょう。
「そろそろ朝食にしようか。」
「はい。・・・・あ。」
また言っちゃった。・・・また、笑われてた。
「今日の予定は?」
一階の食堂で一緒に朝食を食べ始めたときにグレンが聞いてきた。
「う~ん。まずは村長さんに挨拶を終えた後、土砂崩れによる被害状況を確かめないと。その後、遺跡の調査ね。王都付近の遺跡内は魔物も多くなく弱かったけど、此処は如何なのかしら?それによって今日は奥まで進むか決めようと思っているの。」
「その方が良いかも知れないな。最近の魔物の出現率は異常だからな。遺跡内も気をつけたほうが良いかも知れない。」
「それじゃあ、朝食を食べ終えたら村長さんの所へ向かいましょ?」
「ああ。」
さっさと朝食を済ませて村長宅へ向かうことにした。
「此処が土砂崩れのあった場所ね。」
「村長の話によると、一ヶ月前の豪雨が原因らしいな。」
村外れの森を通り抜け、切り立った山脈に突き当たった所に隠される様に建てられた遺跡を見つける。
一ヶ月前に降った豪雨によって崖が崩れてしまい下に在った遺跡に被害が及んだらしい。
その土砂崩れは遺跡の入り口にも被害を及ぼしていた。
「入り口まで崩れているわ。辛うじて人一人通れる位しか空いてないわね。」
「入るか?」
グレンがそう聞いてきた。
「そうね、遺跡の半分が壊れてしまっているし、中の状態も確かめたいわ。」
「そうか。明かりは?」
「大丈夫よ。遺跡調査には必需品だから持ってきてる。グレンは?」
ショルダーバッグから小さなランタンの様な物を取り出す。中には一握りの石が入っている。
この世界のランタンには火は使わないらしい。中に入っている石は魔光石と言ってマナを注ぐことによって石が光る。火とは違い危険もなく携帯し易いので明かりと言えばこの魔光石がこの世界の常識だった。
「俺も持っている。」
グレンも腰のポシェットからランタンを取り出した。
「それじゃあ、行きましょ。」
「そうだな。」
中はとても暗く、ランタンからの明かりでは自分の周り2~3mほどしか照らせなかった。
「遺跡の中は暗いな。」
後から入って来たグレンが周りを見渡しながら呟いた。
「本当はもっと明るいはずなのよ。」
「そうなのか?」
「ええ。古代遺跡内には明り取りの窓があって建物内に明かりが入るようになっているの。まあ、仄暗い程度の明かりなんだけどね。この土砂崩れで光が入らなくなったみたい。」
「ふうん。」
真っ暗な通路を通り過ぎると拓けた場所に出た。
そこは僅かに明るかった。
「少し崩れかけているみたいだけど、ここは大丈夫だったみたいね。」
「壁に何か書かれているな。これは・・・模様か?」
「壁に書かれているのは古代人の文字よ。古代では紙やペンが無かったから、壁や岩に文字を書いていたの。此処の壁に書かれているものは全部そうよ。」
「これが文字か。・・・分からん。」
壁に書かれた文字を読もうとしたのだろう、明かりを近づけて壁を照らしている。
「壁に書かれているのは古代語だから仕方ないわ。今はこの国も一つの言語で統一されているけど、昔は色々な言語が有ったらしいわね。」
グレンとは反対側の壁に書かれている文字を見ながら説明していた。
「そうなのか。エルゼリーゼは・・・」
「エルでいいわ。」
「エルは、古代語は読めるのか?」
「研究所に勤めてまだ一年しか経ってないしそれほど読めるわけではないけど、少しだけなら。」
「何て書いてあるんだ?」
私の目の前に書かれている文字を手で辿りながら呼んでみる。
「えっと。風・・通り道。呼ぶ・・・・・・・・・終息なり。・・・・神・・降りる地・・・。この先は崩れていて読めないわね。」
「何て意味なんだ?」
「う~ん。神、降りる地は神殿のことを指していると思うわ。」
「どうして神殿だって分かるんだ?」
グレンが不思議そうに首を傾げる。
私は手元に視線を集中しながら答えた。
「遺跡の奥に神殿の様な所があって昔はそこで神様を祀っていたみたい。他の遺跡にも似たような所があったの。だから、この神降りる地と言うのは神殿で合ってると思うわ。」
「そうか。」
壁にある文字を記録しようと鞄に手をかけた時、視界の端に文字を見かける。
あら?此処にも書かれてるわね。珍しい。
床にひっそりと書かれているようだった。
「秘す・・・・道。流れに・・・・・行く先・・・・精霊・・・。合言葉は、街の名・・・。」
秘す道?
合言葉?
街の名?
街って言うと確か、此処は文献に山脈を利用して作られた街だったとか書いてあったわね。
じゃあ、街の名前は・・・・
「フリューリング?」
その単語を発した途端に床が抜ける感覚がした。
「え?きゃああッ!?」
あ!!やばっ!?
「エル!?」
それは一瞬の出来事。浮遊感に包まれたと思った瞬間、別の場所へ立っていた。変わる直前にグレンの驚いたような声が後ろから聞こえた気がした。
「此処どこ?」
周りを見回して見ても、さっきの場所とは違う。目の前には壁ではなく、真っ暗な道が続いている。
どうやらあそこには転移魔術が仕掛けてあったらしい。
秘す道と書いてあった位だ。此処は隠し通路なのだろう。あの合言葉によって発動する仕組みみたいだ。
「さっきの言葉で元の場所に戻れないかしら?」
試してみよう!
「フリューリング!・・・・・・。」
・・・・・・・・・・。
何も反応なし?
別の言葉が必要なのかな?
でも、分かんない。
「床に書いてたり・・・・・。」
うん。これっぽっちも書いてないね。一方通行ですか。
・・・・・・・・・・。
しまったなぁ。
グレンは同じように此処に来るだろうか?否、多分来れない。
私は呟いていただけだから、彼には聞こえていない。それに彼は古代語を読めないから、此処には来れないと思う。
「う~ん。もしかしなくても、逸れちゃったかな。どうしよう?」
エル、コノ先ニ、聖域ガアルヨ。
やばいなぁと頭を悩ませているとシアンが声を掛けてきた。
聖域?
と言うと、シアン達精霊が生まれる場所だったよね?
よく見ると真っ暗な道の先からマナの流れを感じる。
自然界のマナは体内に在る魔力とは違い空気と同じようにそこら中に在るものなので感知され難い。だから普通はマナの集まる聖域を見つけることは出来ないが、精霊と相性の良い精霊術師は見つけることが出来るのだとか。
「本当だ。この真っ暗な道の先に続いてるわね。」
グレンが来れるとも思えないし。此処は隠し通路みたいだし。ここで待っている意味無いかぁ。
となると、前へ進むしかない。
マナの流れを辿って行ってみますか。
聖域に着くならそこから神殿や大きい場所に繋がってるだろうし行ってみる価値はあるかも。
「よし!そうと決まれば行こう!!」
傍に転がっていたランタンを手に取り真っ暗な道をマナを辿ることにした。
何処まで行っただろうか。
マナを辿るのは割りと簡単だった。たくさんある道から流れて行くのは一本だけ。その道を辿ればいいのだから。
もしかしたら、他にも隠し通路へ入る場所が在るのかも知れない。一本の道へ集まるように道が作られているようだった。
それにしても、まだかしら?大分歩いた気はするのだけれど。
エル。コノ先ヲ、曲ッタ所ニアルヨ。
「本当?あと少しね。」
少し早歩きになりながら角を曲がった。
「うわぁ・・・!」
そこは少し拓けた場所になっていた。
山脈の中なのだろう。床や壁の其処彼処に輝く石が散らばっている。
もちろん、その光る石は魔光石だ。
空気中にある僅かなマナには反応しないが聖域ではマナが集まる。それに反応したのだろう。
部屋全体を仄かに照らしている。
しかし、驚くべきは其処ではない。(否、其処も十分驚きますけどね)
部屋の奥に淡く光る樹があった。魔光石に照らされている訳でもなく樹自身が光っているようだ。
どういう植物か分からないが、魔光石と同じようにマナに反応して光っているようだった。
「綺麗・・・・。」
どれくらい見惚れていたのだろう。
無意識のうちに木の傍へ近付いて見ていた。
パキッ
その音が聞こえたのは、数秒か数分か、私がその木に見惚れていた時だった。
何かの割れる音と共にドサリと何かが倒れる音が聞こえた。
その音に気が付いて私は慌てて音のした方へと向かう。すなわち、私から見てその木の死角に位置する場所へと。
「ぅ・・・・・・・。」
「え?」
声が聞こえた。
死角へと回り込むと、そこには真っ二つに割れたかつて球状であったであろう何か。
そして、その傍に一人の少女が倒れていた。
え!?死体!?・・・・あ、声がしたから生きてるか。
こんな所で遭難者かな?
あの真っ二つに割れてるものが頭にでも当たったとか?
「君、大丈夫?・・・・・・・・・あ。」
そこに横たわっていた少女はヒロインでした。
補足
この国の成人は十六歳です。




