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この世界で生き残るために  作者: スタ
二章 学園編
19/61

嵐の襲来

 二話投稿しています。

 前話からお読みください。

 


 この力を使えば助けられる。


 そう思った。

 

 私にはシアンの力が使えるのだから。


 出会ったときのあの強大な力なら何とか出来るのではないかと思った。


 ただ単純にそう考えた。


 でもそれは、とても安易な考えでしかなかった。


 どうして不吉の青い鳥と呼ばれているのか。

 どうしてシアンは力の制御を必要としていたのか。


 それを深く考えていなかった。



 ただ、


 そう、ただこの状況を如何にかしたいと思っただけ。

 それだけだったのに。


 今まで一度も使ったことの無い力。

 使う場面など無かった。

 だから、危険なものだと思うことも無かった。


 知らなかった。

 この力の威力を。

 この力の凄さを。



 知らなかったでは済まされないこともあると言うのに。




 

 この後の後悔を知るはずも無かった私は―――――













 あぁ、なんて馬鹿なのだろう。









 ***




 ワーウルフ。

 暗く深い森の中に生息する灰色の狼の姿をした魔物で、数匹の群れで行動する習性がある。

 群れの中で一番強い者をリーダーとして行動している。

 偶に別の魔物がリーダーとなることはあるが極めて稀で同種での行動が多い。

 知能は低能だが、非常に素早く捕らえ難い。

 遅延魔法や鈍足の魔法で足を鈍らせ仕留める方法が一般的である。



「ふ~ん。これが今回の討伐対象なのね。」


 そう呟きながら手元にある用紙を何気なく見ていた。









「はぁ。やっと着いた。もうお尻が痛い・・・・。」


 徒歩で一日弱、馬車で半日、馬で数時間ほどの距離にカイザルという町はある。

 魔物の被害により強固な外壁のある小さな町だが、近くには綺麗な湖や緑豊かな森が広がっていた。


 今回はこの近くの森にワーウルフの群れが出没するようになったと言うことだった。

 この森は街の人達によって手入れがされているので森の中は割と明るい。

 そのため、暗い森に居るワーウルフが住み着くことは今まで無かった。

 周辺の森ではスライムやゴブリンなど町民でも倒せるような魔物ばかりだったが、ここ数ヶ月前からワーウルフの群れを見かけるようになった。

 終いには、群れで襲われる様になり森に近づくことさえ出来なくなったという。




「今回はワーウルフかぁ。へへっ。低能な上に数体の群れだろ?簡単そうだな。」

「もう!不謹慎だよ!」

「でもよ、今まで雑魚過ぎてつまらねえんだもんよぉ。ルーカスもそう思うだろ?」

「まぁな。」

「生徒だからって下級の、それも一番弱い魔物ばかりだったし、確かに物足りないわよね。」

「だろ?だからさ、ここで一丁俺たちでボスでも倒して名を挙げようぜ!」

「調子乗りすぎ!」



 斜め前を歩く四人組から、笑い声と共にそんな言葉が聞こえてきた。

 どうも彼らは、今回の実地訓練を軽く見ているようだ。

 今までが簡単に倒せていたからと言って今回もそうだとは限らないのに。


「・・・・・はぁ。不安だわ。」


 本当に。不安すぎる。

 何を隠そう今隣で笑っている奴らは、今回チームを組むメンバーなのだ。

 しかも、くじというクラス計30人分の4人という確率だと言うのに、私に敵対心を持つルーカスも一緒になると言う不運ぶり。


 非常に不安!

 はぁ、私ってくじ運悪すぎ。


 何かやらかさなければ良いのだけれど・・・・。






「皆集合!」


 同伴で来ていた剣術の先生がそう声を掛けてきた。

 後ろには数人の王国騎士。


「先生と騎士団の皆さんで状況を確認しだい魔物の討伐を行うことになる。早くても明日か明後日以降になるが、だからと言って気を緩めるなよ!今日はしっかり身体を休めて討伐の準備をしておくように!以上解散!!」


 そう言って先生達は町長の家へと向かって行った。

 この後、町民から詳しく話を聞くのだろう。



「さて、どうしようかな?」


 そう呟いて周りを見ると、各自宿に入ったり素振りをしている者が殆どだ。


「街を見ておくのも悪くないわね。ついでに術具のお店は無いかしら?」


 術具とは、道具に魔術式が組み込まれた物で、単語やマナを送り込むことで詠唱を唱えるよりも簡単に魔術を使うことが出来る。

 欠点として、高度な魔法は術式が複雑で術具に組むことは出来ない。


「あれが無いと私弱いしなぁ。」


 剣術は予想通り上達しなかった。

 そして、魔術の方はと言うと、こちらも上達しなかった。

 元々初めて使った時から扱いづらいなとは思っていたのだ。しかし、習い始めの一二年生だからいずれ上達するだろうと気にしなかった。

 が、三年生の今になっても上達しなかったならさすがの私でもわかります。


 魔術の才能、無かったのね私(泣)



 マナの量が少ないのかな?

 でも、ゲームのエルゼリーゼは強力な魔術を使っていた気がしたのだけれど。

 どうしてかしら?

 ぐるぐると思考が堂々巡りしてくる。


 エル。町ヲ見テマワルノ?


 頭の中から声が響く。

 今まで大人しくピアスに変身していたシアンがウキウキとした声で聞いてくる。

 どうやらジッとしていられなくなったらしい。

 

 町、見テマワル!


「ピアスのままじゃ駄目なの?」


 歩キタイ!ダメ?


「・・・・はぁ。人に見られない様にね?」


 ウン!


 そう頭から響くとピアスが光って小さな栗鼠が物陰へと走って行った。


「まぁ、いいか。町を見て周ろう。」


 小さなため息を一つ吐いて、町を見て周ることにした。

 



 この小さな町には主な特産物がない代わりに、自然豊かな森や湖に囲まれている。

 自然豊かな湖や森での漁業や採取、狩猟を生活の糧として賑わいを見せていたが、ここ最近の魔物の被害により閑散としていた。

 今まで見ることも無かった魔物の出現で皆怯えているのだろう。

 あまり出歩いている人は居ない。

 お店も殆どが閉まっている状態だった。

 小さい町にしては珍しく術具を売る店もあったが、閉まっていたので諦めることにした。






 一人黙々と町を見て回っていると、外壁の周辺にある林の影に見覚えのある人物達が居ることに気づく。

 ルーカス達だった。

 何やらこそこそと話し込んでいるようで此方に気づく様子は無い。

 何かあるのかと訝しみはするものの、此方が隠れるのも変なので普通に近づいて行く。

 近づいてくる足音に気が付いたのだろう、彼らが此方に顔を向ける。



「何しているの?」

「別に。何でもねえよ。」


 ルーカス以外のチームメイトはそれぞれ顔を背けたり気まずそうな表情をしていて、あきらかに何かありますよと言っている様なものだ。

 そしてルーカスはと言えば、私を見た瞬間憎むように顔を歪めたかと思うも、それは一瞬のことで直ぐに素っ気無い表情に戻っていつもの冷たい視線を私に向けた。


「チームで集まっているのに?」

「お前には関係ねえよ。」

「私は貴方達のリーダーなのだから知っておく必要はあると思うのだけれど?」


 そう言うと心底嫌そうな顔を向けてきた。


「そんな必要はねえよ。」

「・・・・・。」



 そうですか。

 私一人ハブですか。はぁ。


 どうやら私がリーダーであることが気に入らないみたい。

 リーダーは成績順によって決まる。

 当然ルーカスより上である私がリーダーとなる。

 そして必然的に副リーダーは彼になるのだが。

 成績の順位がいまだに気に食わないらしい。


 そうは言われても・・・。


「またその眼か!俺達を見下してる眼をしやがって!馬鹿にしてんのか!?」

「・・・・・。」


 またって何ですか。

 別に見下しても、馬鹿にもしていないんですけど。

 ただ見てただけで何でそうなるんですか。

 曲解しまくりですね。


「さっさとどっか行けよ!」


 ・・・・もう、誤解を解くのが面倒くさい。

 ほっとこう。


「・・・・・そう。勝手なことだけはしないでね。」

「ケッ!!」


 ルーカスはチームのメンバーを連れて離れて行く。

 彼等が見えなくなった頃、盛大な溜め息が出た。




 ・・・不安だ。










 お昼頃、宿屋の割り当てられた部屋でのんびりと窓の外を見ていると王都へと続く門から一人の騎士が馬を駆けて出て行く所を見かける。


「・・・・?」


 あの焦りようから見ると緊急の用事でもあったみたいだ。

 明日の討伐は大丈夫かしら。

 その事以外は何事無く過ぎていき、夕食の時間となった。


 タダイマ。


 日も落ち町全体がほの暗くなりかけた頃、窓の縁に青い子栗鼠が佇んでいることに気が付く。

 私は術具を整理していた手を止め、窓へと近寄って行く。

 青い子栗鼠が窓の端に寄ったのを見計らってそっと窓を開けた。


「お帰り。」


 入って来た子栗鼠シアンは私が窓を閉めた後、掌を差し出すとぴょんと飛び乗った。

 そのまま淡い光を放った後に青い子栗鼠だった姿は、青い羽根の形をしたピアスへと変身する。

 それを耳へと着け、先程広げていた術具をポシェットへと納めた。


「そろそろ夕食時ね。面倒くさいけど呼びに行かないと。」


 メンバー全員で集まっているのかしら?

 部屋割りは一チームに男女一部屋づつの割り当てだ。

 私達の部屋は此処と隣の部屋となっている。


「隣の部屋に行ってみよう。」


 行って見ると誰もいなかった。


「?もう食堂に行っているのかしら?」


 しかし、食堂へ行ってみてもどうやら何処にも見当たらないようだった。


「何処に居るのかしら?」


 周りの生徒に聞いてみてもこの時間見かけた者は一人もいないと言う。

 見ていないと返ってくる言葉に段々焦りが生じると共に嫌な予感が過ぎる。


 さっきこそこそと何かを企んでいたし、何かしでかすんじゃないでしょうね?


 不安になった私は、一度部屋に居る所為とまですべて聞いてみて回るも、結局は誰も知らないという結果に終わった。



 ああ!!もう!!

 何処へ行ったのよ!?あいつ等!!







「他のメンバーはどうした?ファウマン。」


 周りをきょろきょろとしていた私に同伴していた先生が声を掛けてきた。


「それが、他の人達が見当たらないんです。」

「何だって?なら探さないと―――


 そう先生が言いかけた時、扉が開いて外から誰か入って来た。

 もしかしてと思ったが違ったようだ。

 入って来たのは給仕をするために来てくれたのだろう、ここの町民だった。


「あぁ、先生。丁度良かった。門の近くを数名の生徒がうろついていたんですよ。先生の方でも注意してやってください。」




 何だか嫌な予感がする。


「あの、それはいつ頃でしたか?」

「え?えっと、日が傾きかけた頃だから数時間前ですよ。」

「先生!もしかしたら・・・。」

「私は騎士団の人達に連絡してくるから、君達は待機しているんだ!」


 そう言うが早いか扉の方へと駆けて行った。




 それから数時間後。

 村全体で捜索することになった。

 暗くなり始めた今、魔力で光球を生み出し町中を探し回る。因みにこの光球は初級魔術なので私でも出来るのだが、維持するのにも魔力が必要になるので長くは続かない。


「何処にも見つからない。」

「もしかしたら森の中に・・・。」

「否、でも討伐は明日と連絡していたはず。」


 騎士団の人達と先生が話し込んでいる中、突然森に面している南門の方で爆発が起こる。


「どうした!?」


 南門の方へ向かうと生徒や町民等が此方へ駆けて来るのが見える。

 最後尾には探していたメンバー全員が居た。


 皆が逃げ惑う。

 その後ろ、門の傍にはワーウルフよりも二回りほど巨大な漆黒の狼がそこに居た。



「やはり、リーダーはフェンリルだったか。」


 一緒に駆けて来た騎士の一人がぼそりと呟いた。




 フェンリル?


 確か、火山地帯の人の入れない所に居る高ランクの魔物・・・・。

 どういうこと?

 ワーウルフは同種で群れるんじゃ。

 ・・・でも稀に別の魔物がリーダーになることもあるって。

 えっ。それじゃあ、こいつが?

 

 ギラギラとした眼は逃げ惑う人々を狙うように見据えている。

 その眼はまさに獲物を狙う獣。

 その裂けた口から出された舌は、舌なめずりするかのように口を舐めていた。








 あぁ、



 やばい。



 逃げなきゃ。






 ・・・でも、身体が動かない。










「俺達が足止めをする!皆、反対の門へ逃げるんだ!」

「大丈夫だ!直ぐに応援が来る!それまで持ち堪えるんだ!」



 騎士の人達が声を張り上げる。

 その声で漸く金縛りにあっていた意識が動いた。

 私は震える足を叱咤しながら駆け出す。

 周りで固まっている人達も急いで駆け出した。




 後ろから凄まじい音が響き渡る。

 その音に思わず振り返っていた。



 フェンリルの声!?


 轟音の様に響き渡る声は、漆黒の巨体から発せられていた。

 その声に呼応するかのように森の方から六体のワーウルフが出て来る。

 対する騎士の数は四人。

 実地訓練の安全を図る為の人数なので少ない。



 無理だ。

 あの人数じゃ殺される。

 持ち堪えることなんて出来ない。



 恐怖で足を竦ませていると、突如隣から焼けるほどの熱さが襲う。

 驚いて隣を見ると家が炎に包まれていた。

 フェンリルの方を見ると口から出た炎を舐め取るように舌を出し涎を出していた。

 騎士が二人がかりでフェンリルに斬りかかるが、それをあざ笑うかのようにかわしては家々を燃やしていく。





 逃げ惑う人達。



 炎に包まれる町。


 

 どうしよう。



 どうすれば。









 皆、殺サレチャウネ。



 突如響く淡々とした声にハッと我に返る。


 そうだ、シアン!


「し、シアン!助けて!・・・・力を貸して!」


 ワタシノチカラハ、エルノモノ。

 自由ニ、使エバイイヨ。


「ど、どうやって使うの?」


 ドウツカウノカ、イメージシテ。

 エルノ魔力デ、流レヲ作レバイイ。


「私の魔力で?」


 ソウ。

 ソノ流レニ乗ッテ動クカラ。


 そっと目を閉じる。

 思い描くのはシアンと初めて会った時の突風。

 と言うよりもそれしか思い浮かばない。

 シアンの力でどんなことが出来るのか知らない。


 それでも、初めて会ったあの風なら、

 この炎を、

 あのフェンリルを吹き飛ばしてくれるのではないか。


 そう思った。


 強い強い風を。



 強く念じるように魔力の流れを作ろうとして―――――




 エル。

 持ッテイカレナイヨウニネ。







 え?





 全身からゾワリとした悪寒が駆け巡る。

 それと同時に身体の力が抜けていく感じがした。


 突如巻き起こった突風は、町全体を呑み込むかのように起こった。

 荒れ狂う風は刃と為して魔物へと斬りかかる。

 自身が願ったようにその風は、周りの炎を消し飛ばしてくれる。

 しかし、強大な風は建物をも壊し、逃げ惑う人々を襲う。



 自身の魔力が全て持っていかれそうだ。

 気力を振り絞って耐えるも、シアンの圧倒的な力はすべてを連れ去ってしまいそうなほどに強引で暴力的な力だった。

 シアンが言いたかった事はこのことか。


 ・・・・力を抑えなきゃ。


 皆が死んじゃう。

 こんな筈じゃなかったのに。




 視界が霞むのは、涙のせいなのか意識が飛びそうなせいなのか。

 ふらつく足を叱咤して、力を抑えようと試みる。



 ここで倒れてしまったら、全てが終わってしまう気がする。

 町も。自分も。



 朦朧となりながらも私はギリギリで立っていた。

 霞む視界の中で、不意に目の前が暗くなる。



 ・・・?



 一瞬気を失ったのかと思ったが、違ったようだ。

 何だろうと思い上を見上げる。

 そこには風の刃で切り刻まれ、漆黒の身体を真っ赤に染めたフェンリルが居た。





 あぁ、



 やばい。



 私、




 死んだかも。







「――――!!」





 途切れる意識の中で誰かの叫んだ声が聞こえた気がした。















 この事件により一つの町が無くなった。

 幸いにして、死者は無かったものの被害は甚大だった。


 そして、運の悪いことにこの事件を引き起こしたメンバー達は私に脅されたと口裏を合わせて責任を押し付けてきた。

 私はその責任を問われて一ヶ月の謹慎処分となった。




 色々と変わりました。


 それと同じものを出しとくのも何なんで、そろそろ改稿前のものを下げようかと思っています。

 この章が終わる頃に下げようと思います。

 前のものをお気に入り登録してくださった方ありがとうございます。

 よければこちらの方も今後ともよろしくお願いします。




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