あっちでもこっちでも
長らくお待たせしてすみません。
久々の投稿です。
エリオットたちの入学式も終わって数日が経ちました。
新学期と言うことでクラスも新たに変わりましたよ。とは言え、クラス分けは成績順なので、チラホラと変わっただけであまり人は変わっていませんけどね。
「・・・・チッ。」
隣で舌打ちをする音が聞こえてチラリと横に視線をやると、何かと突っかかってくる男子生徒が隣に並んで目の前に張り出されている紙を見ていた。
私も目前に張り出されている紙を見遣る。
上から書かれている名前を順に見ていく。数名の名前の後に自分の名前が書かれているのが目に留まり、心の中でよしっ!と拳を握った。そして、私の下に書かれている名前に気付き、周りに気付かれないようにそっとため息を吐いた。
何を隠そう目の前に張り出されているのは、新学期早々に行われた実力テストの順位表。上位五十名の名が総合点付きで張り出されているのだ。
私の順位は七位。割りと上位でホッとしましたよ。え?転生者なら一位じゃないのかって?無茶言わないでくださいよ。国語も社会も世界自体が違うから最初からだし、実技なんか魔術という前世には無かったものまであるんですから。
私が上位になれたのもエリオットのおかげですよ。自分の受験勉強もあると言うのに、課題の問いに唸る私を見かねて教えてくれた彼は何て出来のいい弟なんでしょう。
本当、弟に教わる姉とか・・・・・・目頭が熱くなりました(ぐすん)。
「ファウマン。」
私がこのテストへと苦労をかみ締めていると、隣から剣呑に私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。その声に振り向くと、先程舌打ちした男子生徒は私を睨みつけるように見ていた。
「ルーカス・ボルトン。・・・・・何でしょうか。」
「・・・・・・ふんっ!俺達平民を見下すのも今の内だ。次はお前を超す。」
ええぇ?????
私見下してないですよ??
確かにちょっと釣り目がちだけど!
表情無くって冷たく見えるけど!
邸でも意識して笑うと使用人に怯えられる(嘲られている様に思われている)けれど!!
決してそんなことないからね!!??
内心の混乱をおくびにも出さず、私はただじっと言い捨てて行く彼の後姿を見ていた。
今日は魔術の授業の日。
この世界は基本的に前の地球とほぼ同じで360日の12カ月であり、一週間7日である。ただ、曜日は地球とは呼び名が違い平日を火、水、風、土、雷と休日を光、闇の日と呼ばれている。
この学園は曜日によって習う科目が決まっており、午前は座学、午後は実技となっている。因みに平日の最後の日はマナー講座となり、貴族と平民と別々の授業となる。一日ずっと同じ科目と言うのは飽きてきそうだが、午前で習ったものを午後の実技で実践を交えて教わるので復習的な意味でも良いのかもしれない。
そんな学園の授業形態を評価しつつチラリと斜め後ろに居る人物に視線を向ける。
そこには先程啖呵を切っていた男子生徒ルーカス・ボルトンが私を睨みつけるように見ていた。
私は思わずサッと視線を逸らして先生の話に耳を傾けるふりをしながら内心でため息を吐いた。
ちょっと勘弁してよぉ~
何でずっとこっち睨んでるのよぉ・・・・
こっち睨んでないで先生の話はちゃんと聞きましょうよ!
因みにエルも先生の話など全然聞いていないのだが、その事を棚に上げて心の中でさんざん愚痴を吐いていたりする。
そんな先生の話を聞かない生徒がぽつぽつと存在するのだが、その事に気付いていないのかそれとも気にしていないのか先生の話はサクサクと進んでいった。
「それでは今の皆さんの実力を模擬試合を行い見たいと思います。まず一番手は――――――」
そう言って始まった模擬試合は順位順に対戦相手が決まっているらしく、名前を呼ばれて進み出たのは首席と次席。実力差のある相手と対戦するよりかは同じ実力の者と戦う方が両者ともためになるだろう。普通に考えて妥当な相手だろう。
うん、まあ順当にいけば私の対戦相手は八位の人だよね。
・・・・・・・だよね。
・・・・・・・・・はぁぁぁ。
表には出さなかったが心の中で盛大にため息を吐きながら、少し離れて佇んでいる対戦相手になるであろう人物を盗み見た。その視線の先に居るのは先程啖呵を切ったルーカス・ボルトン。もちろん私の対戦相手であり、学年総合順位八位の人である。
彼は平民でありながら成績も良く、同じ平民出身者以外にも下位貴族ではあるものの貴族とも親しく幅広い友好関係を持っている。誤解が誤解を呼んで一匹狼になってしまった挙句、シアンとの会話を一度見られていたらしくまた変な誤解により独り言を呟くイタい人認定されてしまった私とは大違いである。ほんと羨まゴホンゲフン・・・・・・・・コホン。
そんな彼ですが、何故か私を目の敵にしてくるんですよね。
私や彼よりも成績のいい人はいると言うのにですよ。
其れなのに彼らをライバル視するのではなく、私だけをライバル視している、いえ、ライバルと言うよりも敵視しているといった方がいいかも知れないです。
何故そんなに敵視されるのか正直分からないです。
平民を見下していると言うのも誤解ですし、第一彼とは成績の順位が一つ上と言うだけでそれほど接点も会話もしていないと言うのに勝手に敵視されても困ります。
「次、エルゼリーゼ・ファウマン。ルーカス・ボルトン。前へ!」
つらつらと彼について考えていたら、いつの間にか自身の出番になっていて先生が呼ぶ声に慌てて前へと進み出る。
対戦相手であるルーカスとは数メートル距離を置いて対峙する。
先生は私達とは離れた場所、修練場の端により自身と生徒にシールドを張る。
私達の準備が整ったのを見て、先生は高く上げていた手を振り下ろした。
開始の合図とともに先に仕掛けて来たのはルーカス。彼は最短詠唱のファイヤボールを撃つ。
エルはその攻撃をぎりぎりでかわすも相手は既に次の呪文を唱えており、咄嗟に前方に土の壁を作り出す。攻撃は土の壁に当たるもその壁も咄嗟に作ったためすぐに壊れてしまう。
ルーカスは相手に攻撃する時間を与えないようにすぐに呪文を唱え連続で土の壁の向こうに居る相手に向かって攻撃した。しかし、土の壁が崩れ去る前に攻撃したにもかかわらず崩れた壁の向こうには誰も居なかった。
ハッと気がついた頃には相手は攻撃を仕掛けてきており、咄嗟にかわして此方も呪文を唱えだす。
次々と来る攻撃をかわしたり相殺させていく。
どうやら相手はバカの一つ覚えの様にウィンドショットでしか攻撃してこない。それに内心嘲笑いながら、こちらはもっと難しい魔術を撃ってやろうと次の攻撃を相殺するついでに少々派手な技で砂煙を巻き上げ視界を遮った。その隙に距離を開け大技を仕掛ける為の呪文を唱える。
今使える魔術で一番難しい技。
この一年の間、授業以外で密かに練習していた上級魔術を唱える。
今覚えている中で最強の術だ。
この学年で上級魔術を使える奴などそうは居ないだろう。
否、居る筈も無い。
上級魔術を習うのはもっと先なのだから、自分以外に使える者など居ないのだ。
その事に対する優越感とこの魔術の完成で勝利を確信したことによって自然と笑みがこぼれた。
「ファイヤランス!!」
上空に出現した炎槍は相手へめがけて一直線に突撃していった。
激突したその槍は轟音と共に爆風を巻き起こし土煙が視界を遮るも、炎槍が相手に直撃したことを確信していた。
しかし、当たったと思ったのもつかの間、視界が晴れてくるとその人物がいた場所には誰も居なかった。
「なっ!!?」
慌てて辺りを見回して見ると如何したことか、今迄た所とは別の場所に人影が立っている。
瞬時に移動する魔術など知らないし、在っても今の自分達が扱えるとも思えない。彼女がどうやって一瞬のうちに離れた場所まで移動したのかと言う疑問が浮かぶが、今はその事を考えている余裕はない。
疑問はひとまず脇に置いてすぐさま攻撃へと思考を切り替える。
唱える呪文は広範囲魔術。
先程の失敗を基に相手が避けようとも避けきれない魔術をお見舞いする。
少々呪文は長くなるが仕方がない。相手が油断している隙に一気に攻めてやろうと素早く呪文を唱えだした。
しかし彼は気が付かなかった。
視界が完全に晴れる前に相手が彼の側まで近づいて来ていることに。
そして彼が呪文を唱え終わる前に試合は終了となった。
やっと気がついた頃には相手はすでに氷で出来た刃を作り出しており、その刃先は彼の首元へと置かれていた。
一瞬の静寂が辺りを支配する。
「先生。」
少女は普段通りの声で審判をしていた先生を呼ぶ。
しかし、静寂の中では異様に辺りに響いた。
その声にハッと気が付くと慌てて試合終了の合図を出す。
終了の合図とともに少女は作り出していた氷の刃を消して相手に一礼すると生徒たちの集まっている場所、の端へと戻って行った。
「ボルトン君はまだ二年生なのに習ってもいない上級魔術が使えるとは驚いた。ただ今回のファイアランスはまだ覚えたてなようで精度もまだまだ、修練が必要だな。」
「・・・・はい。」
「ファウマンさんは・・・・・あれは分身を作り出す中級魔術のイリュージョンか?しかしその魔術を使ったようには見えなかったが・・・・。」
「いえ・・・・・えっと、まぁその様なものです。」
「そうか、二人ともまだ習っていない魔術を扱えるとは勤勉なようだな。皆も彼らを見習うように。それでは次の試合を始める。次は―――――――――」
次の試合が始まるのを私はぼんやりを見やりながら先程まで張り詰めていた息を吐き出した。
ふう。
一か八かやってみたけど、案外出来るものなのね。
魔術の質を変えることって。
って言うかただの模擬試合なのに上級魔術使ってたよね!?
しかも眼が何だかヤるきに見えたのは、き、気のせいだよね!?
魔術限定ダメージ半減効果の魔術が掛かったこの魔術修練場じゃなかったら間違いなく大怪我、いやそれ以上もあり得たかも・・・・。
まさかそれを解って上級魔術で一気に畳み掛ける気だったんじゃ・・・。
うわぁ、ぶっつけ本番だったけど成功してよかったぁ。
私がやったのはイリュージョンと言う魔術ではない。
ウィンドショット所謂空気砲の温度を変えただけだ。
それも暖かいものと冷たいもの二種類に。
二種類のウィンドショットによってできた気温の変化は前世で言うところの蜃気楼を生み出した。
それが術に当たったように見えたもう一人の私の正体だ。
だから本当はイリュージョンと言う魔術ではないのだが、蜃気楼と言う言葉がこの世界にあるのかもわからないし説明できるほど詳しくも無いので曖昧に濁してみたのだが。
ま、そうなるよね。
内心苦笑を漏らしながら、自身について考えていた。
まだ二年のはじめと言うこともある。
だから魔術の上達もこれからなのかもしれない。
それでも何故だか余り魔術の上達が芳しくない気がする。
ゲームの彼女も魔術を使ってたはずだし、これから色々出来るようになるのかもしれない。
でも、一応魔術についていろいろ調べておいた方がいいかな。
そう結論付けたエルはこの後のことについて考えるのだった。
***
本日の授業も終わり、魔術に関する本を図書館から何冊か借りて帰宅した私は夕食の時間に呼びに来たヘイザによって読んでいた本から目を離す。
直ぐに準備をして、今では日常となった父を抜かした三人での夕食をとるために食堂へと向かう。
食堂へと入れば後の二人は既に来ており、そのまますぐに夕食となった。
初めの頃は二人のピリピリとした雰囲気を払拭しようといろいろと話を振ってはエリオットに喧嘩腰になる母や短い返事しかしないエリオットに気まずい思いの食事だったのだが、今では二人の雰囲気も和らいでいる。偶に言い合いすることもあるけれど。
それでも初めの頃とは違うので、この三人での食事を私は楽しみにしているのだ。
「エリーゼ。今日は学園は如何だったかしら?」
「先日行った実力テストの結果が張り出されてましたよ。私は七位です。上位十位以内でホッとしました。これもエリオットが勉強を見てくれたおかげね。ありがとう、エリオット。」
「んまぁ!そいつに礼なんていらないのよ。その結果はあなたの実力よ。」
「・・・・ムカつくけど、そのおばさんの言うとおりエルの実力。」
「お、おばっ!!?」
「エリオット、お母様にその言い方は無いわ。」
「ん、ごめん。」
「ふん!!」
悪びれた様子の無いエリオットに内心苦笑しつつ、今ではこのやり取りが日常となってきたことに少し笑みがこぼれる。
「エリオットは今日は如何だった?」
「ん、特には。ただ、変な奴と五月蠅い奴がいた。」
「変な奴と五月蠅い奴?」
「平民で貴族より成績良いからと貴族にいやがらせされるのに前向き思考な変な奴とそいつにちょっかい掛けて周りに迷惑かける五月蠅い奴。」
「・・・・・そ、そう。何だか騒がしそうね。」
「ん。」
それは肯定なの?
え、肯定なの??
と言うか、その変な奴ってアレだよね!?
勇者だよね!?
まだ勇者じゃないから(予定)だけど勇者だよね!!?
うん。
関わると碌なことないとは思っていたけれど、学園でエリオットに関わるのは止そう。
学園でエリオットに関わると勇者(予定)にも関わりそうだし。
今でさえ面倒な人が近くに居るのに、これ以上面倒事に関わりたくないわね。
内心の動揺を食事で誤魔化しつつ、今後も学園ではエリオットに関わらないと言う方向に結論は達したのであった。
補足
今回の模擬試合は魔術限定という括りな為、エルの様に直接王手をかけるか本編には書いてないですが特殊なアイテムにより当たったダメージによる減点方式になってます。
こ、これで模擬試合の危険度も減ったかな?
分かりづらかったらすみません。
戦闘描写は苦手です、上手く書けたかどうか・・・・・・
その辺は生暖かい目で見逃してやってください。
誤字脱字、感想等ありましたらお返事下さると嬉しいです。
一部修正しました。