閑話 ワタシの主を求めて
改稿前と同じ童話風です。
内容は割と変わりました。
それに伴って長くなった感は否めません。
昔々、とある聖域に一羽の青い鳥が生まれました。
その鳥は他の鳥たちとは違い、身体が透けて見えるほど澄み渡る青い身体をしていました。
寧ろ、その身体は半透明で少し揺らいで見えるほどでした。
事実、時折揺らいでました。
他の鳥たちは色取り取りの身体をしていましたが、青い鳥のように身体が透けて見えると言うことはありませんでした。
そう、青い鳥と他の鳥たちは姿形は同じでも全く別の生き物でした。
それは青い鳥自身も知っていたことですし、他の鳥たちも感じ取っていました。
他の動物たちでさえこの聖域に住む生き物たちは知っていました。
青い鳥は精霊でした。
聖域と言う自然界の魔力が集まる場所で時間をかけて形作られる存在、それが精霊です。
精霊とはマナの塊である為、聖域と言う場所ではよくある事でした。
だから聖域に住む生き物たちにとって、精霊とは直ぐ傍に居る隣人でもありました。
その為、新しく生まれた青い鳥を彼らは快く迎え入れました。
しかし、この青い鳥は他の精霊とはどこか違っていました。
もともと精霊は自由気ままで、ふわふわと風に流されるまま漂う雲のような存在が殆どでした。
しかしこの青い鳥、自由気ままな性格ではあるものの好奇心が旺盛で少々うるさ・・・・元気な精霊でした。
そんな性格の精霊でしたので、聖域の外へ興味を持つのは自然なことだったのでしょう。
もちろん精霊が聖域から出てはいけないと言うことはありませんし、聖域の外にだって精霊はいます。
しかし、マナの集まる聖域から出たいと思う精霊は殆ど居ませんでした。
特にこの青い鳥が生まれた聖域は、マナが濃く精霊にとっては楽園とも呼べる場所でしたから此処から離れる精霊なんていません。
この聖域に住むモノ達は皆驚きましたが、青い鳥を止めようとは思いません。
彼らもまた自由気ままでのんびり屋な性格でしたから。
住みやすい聖域から出て、青い鳥は早速その自由な羽を広げて空を駆けます。
広い世界をのんびりと一匹旅して回ります。
青い鳥が去った後は、土砂崩れに見舞われたり洪水が起こったり、台風や嵐でも過ぎ去ったかのような被害が起きていました。
しかし、青い鳥はそんなこと知る由もありません。
いえ、知ってはいたでしょう。
精霊の楽園とも呼べる聖域から生まれた精霊でしたから強大な力を持っていました。
その力はただ動いただけでも周りに影響を与えます。
しかし青い鳥は自身が強大な力を持っていることは知っていても、その力が人々にどのような影響を与えるのかなど知る由もありませんでした。
青い鳥は人々に天災を振りまきながら、のんびり気ままに世界を旅します。
そんなある時、青い鳥はある一人の青年と出会います。
彼はとても気の弱い青年でした。
青い鳥と話す時もオドオドとしていました。
ただ、彼は果たしたい目的がありました。
その為には、自然のマナの塊である精霊に協力してもらう必要があったのです。
彼は青い鳥に頼み込みます。
「力を貸してほしい。」
青い鳥は快く承諾します。
しかし、ここで一つ問題も出てきました。
精霊と言うのは皆一様にして自身の力の制御が下手だと言うことです。
かく言う青い鳥も力の制御は苦手でした。
そこで青年は考えます。
彼らの力を自分自身が使うことは出来ないのだろうかと。
そしてついに青年は一つの方法を見つけました。
それが、精霊との血の契約です。
契約者の血を介して精霊と繋がり、彼らの力を借りることが出来るようになるのです。
ただ、この契約には契約者と精霊との相性も深く関わっているので、相性の合わない、そもそも彼らを見ることの出来ない者には契約することは出来ません。
幸いその青年と青い鳥とは相性も良く、契約をすることが出来ました。
しかし、青年にとって予想外なことが起こります。
それは精霊の力が強大だったことです。
扱いきれない力は制御することが出来ませんでした。
彼は暴走する強大な力に飲み込まれて、呆気なく死んでしまったのでした。
青い鳥は思います。
人間はなんと弱く呆気ない生き物だろう、と。
青い鳥はまた、一匹旅をします。
気の赴くままにふらり、ふらりと旅をします。
次に出会ったのは、年老いた老人でした。
血の契約を作り出した青年との出逢いから既に長い時が経っていましたので、世界中に精霊との契約法は知れ渡ったのでしょう。
老人は出逢った当初から、精霊術師として小さな精霊を連れていました。
精霊との契約は一匹だけという制約はありませんでしたから、老人の乞われるまま契約を受け入れました。
もちろん契約にも限度というものはあります。
契約者の魔力と力量によって契約に差は出てきます。
幸い老人はすでに精霊術師として活躍していましたから、力の扱いにも慣れていました。
老人との旅は非常に楽しく、仲間の精霊とも仲良くやれていました。
しかし、人間の寿命というものは非常に短いものだと実感しました。
老人との旅は一年と経たずに終わりを迎えたのです。
精霊にとってマナ自体が命の源ですから、マナが無くならない限り消えることもありませんし、マナを補充すれば半永久的に存在し続けれます。
その為、精霊に寿命はありませんでした。
青い鳥は思いました。
人間の生とはなんと短いのだろう、と。
青い鳥はまた、一匹旅をします。
のんびり、まったり、旅をします。
三番目に出逢ったのは、笑顔の綺麗な女性でした。
彼女はとても知恵の回る女性でした。
気の強い女性でもありました。
彼女にはどうしても果たしたい目的がありました。
その為に力を貸してほしいと乞われました。
青い鳥にとって彼女の目的などさして興味も無かったですが、彼女自身に興味が湧いたので彼女と契約をしました。
彼女は先ず、とある国の王族に近づきました。
彼女はとても美しい女性でしたので、王族に取り入ることなど容易いことでした。
骨抜きにされたのは王族だけではありませんでした。
多くの人間を惑わし、国を混乱へと導きます。
あともう一歩で国を乗っ取れると言うところまで来ました。
しかし、最後の最後に王様に気付かれてしまい国を乗っ取ることは出来ませんでした。
彼女は処刑されることとなりました。
死ぬ間際に彼女は王様に笑ってこう言いました。
「滅びてしまえ。」
この後彼女の骸がどうなったのか、この国がどうなったのか知りません。
何故彼女はこの国を乗っ取ろうとしたのか、彼女の本当の目的も知ることはありませんでした。
興味もありませんでした。
ただ、青い鳥は思います。
人間とはなんと摩訶不思議な生き物なのだろう、と。
青い鳥はまた、一匹旅をします。
無限に広がる大空を、自由にのんびり旅をします。
四番目に出逢ったのは、醜い顔の少年でした。
山々に囲まれ隠れるようにひっそりをそこに存在する小さな村に、少年は住んでいました。
村と言う小さな世間から爪弾きにされた少年は、周りからの酷い扱いで醜い姿をしていました。
森の中で一人涙します。
醜い顔を更に歪めて言いました。
「あいつ等が憎い。力が欲しい。」
強く見つめるその瞳の奥に、ゆらりと揺らめく炎を見た気がします。
青い鳥は、精霊には無いその炎に興味を持ちました。
精霊の力を手に入れた少年は、早速村人に復讐をしていきます。
小さな村でしたから、何とも呆気なく滅んでしまいました。
それは、この世界に希望の持てなかった少年自身も一緒に。
青い鳥は思います。
人間とはなんと複雑怪奇な生き物なのだろう、と。
青い鳥はまた、一匹旅をします。
永い時を、のんびりまったり旅をします。
沢山の人間と出会いました。
様々な主と巡り会いました。
人助けをする主がいました。
悪事を働く主もいました。
精霊を愛した人間もいました。
精霊が見えないのに契約して欲しいと懇願する人間もいました。
唯々、精霊と言う存在に興味を持った人間もいました。
永い永い時を沢山の人間と出逢い別れを繰り返し、次第に不吉の青い鳥を呼ばれるようになりながら青い鳥は思います。
人間とはなんと儚くも面白い生き物なのだろう、と。
時に懇願されながら。
時に強引に。
様々な人間と契約を結びました。
ある時世界を飛び回っている中、羽休めの為に立ち止った樹を見つめる少女と出会いました。
どうやら傍にある鳥の巣を見ているようです。
青い鳥に気が付いた少女はジッと見つめてきます。
青い鳥もジッと見つめ返します。
暫く二人で見つめ合っていると、ふと気が付きます。
少女から溢れる心地良い魔力を。
今までの主のどんな魔力よりも少女の魔力に魅かれることに。
ミツケタ
きっと少女は今までのどんな主よりも相性がいいでしょう。
きっと少女の周りには沢山の精霊が群がっているのでしょう。
少女がどんな事を想い、どんなことをして、どんな人生を歩むのか。
その事に興味の湧いた青い鳥は、少々強引に契約を結びます。
しかし、喜び勇み過ぎて強引な契約に少女は気絶してしまいました。
少々焦り過ぎたことに反省します。
それでも少女に出逢えた喜びは溢れていました。
君ハ、ドンナ子?
これから歩むであろう少女との未来に思いをはせながら、少女の眠るベッドの見える窓際でもうすぐ目覚める少女を待つのでした。
ちょっとしたおまけ設定
*一番目の青年の願いと言うのは、自身の村をもう少し豊かにしたいと言うこと。飢饉や干ばつに陥っている訳ではないが、それでも貧しい自身の村を少しでも豊かにしたく青い鳥に懇願した。
彼が出会ったのが青い鳥ではなく、もっと下位の精霊だったなら力を暴走させることも無かったかもしれないと言う可哀想な人。
*三番目の女性の願いと言うのは、とある国特に王族に復讐すること。彼女はとある国の近隣に位置していた小国の王族で、その国に侵略され滅ぼされてしまった。大切なものを奪われ復讐を誓う。国を乗っ取ることは手段でしかなく、国を混乱に陥れればそれでよかった。後は密かに猜疑心を植え込んでいた国民が勝手に国を滅ぼしてくれるだろうと笑って逝った。
一部修正しました。