小鳥と契約
大変遅くなりました。
「絶対こっちの方が可愛いよ!!」
何時か大切な親友が彼氏に取られるのかと思うと寂しかった。
きっと香織は彼氏が出来た所で私を蔑ろにはしないと思っていても、寂しいものだもの。
だから、さり気無くショッピングの時にお揃いの物を買うことにした。
香織が選んだのは星の形をしたキーホルダー。私が選んだのは鳥の形をしたキーホルダー。
どちらも頑として譲らなくて、どちらが可愛いかと店先で言い合いをしていることに気が付いて二人して恥ずかしくなった。
結局、お互いに選んだキーホルダーを買って交換し合った。
お揃いではないけれど、相手が選んでくれた物だから。
私が沙耶で在ったあの瞬間まで、私の宝物だった。
きっと貴女の笑顔に何の不安も疑問も思わず素直に笑えたのは、この時までだったんだと思う。
***
「んぅ・・・・・うぅ・・・・ん?」
ぱちりと目が覚めると、そこには見慣れた天井が視界を占めた。
私の、と言うよりも母の趣味を多いに取り入れた紅い天蓋のキングサイズのベッド。周りを見渡すとこれまた見慣れた少々乙女チックなそれでいて上品な外装の部屋が視界に映る。色合いはもちろん赤系統で統一されている。
プロデュースは当然母親です。
うん、此処は紛れも無く私の部屋ですね。
基本的にあまりこだわらない性質なので、母に任せていたら母の趣味が全開に出された部屋となった。
・・・・・まぁ、不満は無いんですけどね。
ベッドに寝転びながら、ぼんやりと何時ベッドに入って寝たのかと記憶を辿ってみる。
う~んと唸りながら寝返りを打とうとして体が動かないことに気が付いた。
と言うか全身が怠い。
それと共に右頬が痛い事にも気が付いた。
あぁ、えっと、確か薔薇園の小鳥夫婦を見に行って、そこに夫婦がいなかった代わりに青い小鳥が一匹いたんだよね。夫婦の危機かと思ってたらエリオットが来て、その事を話そうとしたら・・・・・・・・・・そうだ、変な声が聞こえたんだ。
その後突然突風が襲ってきて、エリオットが飛ばされそうになったんだよ!
慌てて駆け寄ろうとして、そしたら突然頬に痛みが走ったと思ったら視界が真っ暗になって・・・・・私、気絶したんだ。
気絶する前までの記憶を思い出して、窓へと視線を向ける。
何故だか体中が怠くて動かせないが、わずかに窓へと首を動かして外を見ると、外はまだ太陽の日差しが差し込んでいて明るかった。
その明るさから言ってまだお昼過ぎであることが窺える。
あれ?まだお昼?
確か散歩に出たのが朝だから・・・・・半日寝てたのかな?それにしては体が物凄く怠いような・・・・・・?
今の状況に困惑していると、カチャッと言う音とともに扉が開いた。扉からはタオルと桶を持ったヘイザが入って来た。
扉を開けたヘイザは私を見ると一瞬動きが止まったかと思ったが、何事もなく私の元へと来る。
「お嬢様、お目覚めになられたのですね。奥様や坊ちゃまが心配しておられましたので呼んできましょう。それと、熱はだいぶ下がりましたが、念の為医者も呼びましょう。」
桶とタオルをサイドテーブルに置き、気付かなかったが額から滑り落ちていたタオルと取ると額に手を置いた。ひんやりとした体温が心地良い。
額から手を離したヘイザは、水に浸していたタオルを絞ると私の額に置いてくれる。
そしてそのまま部屋の換気の為だろう窓へと向かって行った。両開きの窓を少し開けて私の枕元に戻って来るヘイザを見やりながら、私は疑問に思っていたことを戸惑いがちに尋ねてみる。
「あの、ヘイザ。」
「何でしょう、お嬢様。」
「今は昼過ぎよね?私、半日寝ていたのかしら?何だか体がとても怠いのだけれど・・・・。」
「・・・・・・お嬢様は三日間眠っておられたのですよ。」
「えっ!?」
三日も寝てたの!?
うわぁ、道理で体が怠い訳だ。
「お嬢様は気絶される前のことを覚えておいででしょうか?」
「え?えぇ、覚えてるわ。薔薇園に居て小鳥の巣を見ていたのよね。そこに見慣れない青い鳥がいて、突然突風と共にその鳥が向かって来て、それで私気絶したんだったわ。」
「・・・・・。」
「どうかしたの?」
「・・・・・いえ、なんでも御座いません。奥様達を呼んできますね。」
「?」
暫く何か言いたそうにしていたが、元の能面の様な顔に戻るとそのまま母を迎えに部屋を出て行く。
そんな彼女を扉で見えなくなるまで見送った。
ヘイザはどうしたのかしら?
私は彼女が何を気にかけていたのかよく分からなくて暫くの間首を捻っていた。
ぼぉっと天井を見上げていると、カタリと言う音が窓からしてそちらの方へと視線をやる。
するとそこには気絶する直前まで見ていた青い小鳥が、窓際に設置されているテーブルに着地するところだった。
少しびっくりしながらも、ジッと小鳥を見る。
その小鳥は小首を動かしたり毛繕いしたりと鳥らしい動きをしているのだが、それでも気絶する前にも思ったのだが体がゆらゆらと透けて見える。
目の前に居る生き物は本当に小鳥なのかしら?
そんな疑問が頭を掠めたとき、唐突に頭の中に響く声が聞こえてきた。
ネエ。
君ハ何テ名前ナノ?
突然響いた声に驚いて辺りを見回すも、テーブルに居る小鳥以外誰も居ない。
「・・・・誰?何処に居るの?」
周囲を見回しながら、恐る恐る問いかけてみたところで誰も姿を現すことは無い。
ただ、また声だけが頭の中に響いてきた。
ココダヨ。ココ。目ノ前ニ居ルジャナイ。
目の前?
そこに居るのは、テーブルに佇みいつの間にか毛繕いも止めじっとこちらを見る小鳥が居るだけだった。
「目の前って・・・・・小鳥?」
ソウダヨ。
「え・・・・こ、小鳥が喋った!?あ、いや頭の中だけど。」
ど、どどどどういうこと!!??
な、なんで頭の中に響いてくるの!?
え、え?何で?
もしかして私の思ってることも相手に筒抜けなの!?
プライバシーの侵害だよ!!
?
ネエ、君ノ名前ハ?
「え、エルゼリーゼ。エルゼリーゼ・ファウマンです。」
エルゼリーゼ。
ワタシノアルジハ、エルゼリーゼ・・・・・。
エルゼリーゼ!
ヨロシク!!
「え?う、うん。よろしく?・・・・・ところで、アルジって何?」
アルジハ主ダヨ。
精霊デアルワタシノ契約者。
「精霊・・・・えっ!?契約!?」
ソウダヨ。
エルゼリーゼノ右ノ掌、証シアルヨ。
証し・・・・・。
重い身体をゆっくりと動かしながら、右の掌を見てみる。
そこには青い羽根模様の刺青が浮き上がっていた。
い、何時の間に・・・・・・。
「精霊だったのね。でも、どうして私と契約を?」
エルゼリーゼノマナハ、心地良イ。
トテモ好キ。
ワタシトノ相性モ良イ。
ダカラ、エルゼリーゼトシタ。
え、私のマナが心地良いって何?
でも、だから精霊たちが私に構ってたのかな?
エルゼリーゼハ。
「ん?」
ワタシノチカラ、上手ク制御シテネ。
え・・・・・何その不安を掻きたてる台詞・・・・・。
「契約破棄は・・・・・・」
エルゼリーゼハ、死ニタイノ?
死ぬまで無理ってことですね。
「何でも無いです。」
ソウ?
コレカラヨロシクネ!!
エルゼリーゼ!!
楽しそうな声が頭の中に響くとともに、私の頭上を青い小鳥がクルクルと飛び回る。
それを若干遠い眼差しで私は見詰めていた。
おまけ
「ところで」
ナニ?
「私の思考はあなたに筒抜けと言うことなのかな?それってプライバシーの侵害だと思う!!」
?
プライバシーッテ?
ヨク分カラナイケド、全テガツタ分カルワケデハ無イヨ。
伝エタイト念ジタ言葉ダケ、伝ワルノ。
タダ、距離ガ離レスギルトトドカナイ。
「そうなんだ。」
何だ、私の思考がダダ漏れになるわけではないのね。
よかった。
考えてること全て筒抜けなんて、相手が精霊でも恥ずかしすぎるものね。
一部修正しました。