6.ごっこ遊び
ここ数日子ども達と過ごしてわかったことは、お二人とも学力はかなり高いということです。
しっかりとした教師が付き、指導しているということですわね。
でも、情緒面が不安定。これは母親が家を出たせいでしょうか。フェミィ様は、コニー様を守ろうとするあまり、少々攻撃的になってしまっていますし、コニー様はフェミィ様が先回りしてしまうため、言葉を発する機会が減り、自信も失われてしまっています。
「本当に駄目駄目な旦那様ですこと」
「……ミッシェル様、できましたらもう少し小声で言っていただけると助かります」
「あら、ノーラン。おはようございます」
ノーランは朝からピシッとしていますのね。
「参考までに旦那様のどのようなところがダメダメなのか教えていただけますか?」
「あら、主の弱点を探っていらっしゃるの?」
「いえまさか。単なる好奇心です」
意外ですわ。ノーランがこのようなことを言うとは思いませんでした。
「私が勝手に思っただけのことですわよ?」
「もちろん鵜呑みには致しません。ただ、ミッシェル様にはどのように見えているのか気になっただけですから」
なるほど。人によって見方は変わりますものね。
「そうですわね。たぶん、伯爵様としてはとても優れたお方なのでしょう。ただ、父親としては駄目です」
「バッサリですね?」
「はい。明らかに会話不足ですもの」
「会話……確かに」
「きっと教師から授業の様子を聞き、あなたやメイド長から普段の生活を聞いて満足する。声掛けは月に何回か。そんな感じなのではありませんか?
ですが、雇われた方々は伯爵様に忖度なさるでしょう。フェミィ様がコニー様を守ろうとトゲトゲになっていることも、コニー様が自信を無くして、ときおり吃音が出ていることもご存じない。違いますか?」
他人の目も必要だけれど、まずは自分の目で、耳で確かめ、そして触れることで分かり合えることはたくさんあるのに。
「ですから父親としてはダメダメな落第生だと思いますわ。遠くから綺麗なところだけ眺めて満足しているなんて問題外です」
「……ミッシェル様は凄いですね。あの極悪顔にそこまで言えるだなんて。でも、本人には教えないのですか?」
「なぜです?私は子供達の面倒しか仰せつかっておりませんもの。大きな問題児は範疇外です」
「面倒を見るには含まれない?ですが、お嬢様達には必要なのではありませんか?」
フェミィ様達のために旦那様を焚きつけろと?
「……どうでしょうか。でも、もし必要だとしても、それは一番最後でいいです。まずはお二人との交流が優先ですもの」
だって大きな問題児は面倒臭いです。居丈高でまったく可愛くないですし。私にとって欠片も楽しくないことなので、一番後回しでいいと思っております。
「そうだわ、ノーランは今お手隙ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「どうか魔王様になってくださいませ!」
「……は?」
◇◇◇
「魔王!これ以上みんなを苦しめるのはやめなちゃい!」
「うっ、やられた~」
「勇者様、この国を守ってくださりありがとうございます」
「こうして、世界は平和になりました。おしまい」
本日は勇者様ごっこです。
配役は、勇者様はコニー様、お姫様はフェミィ様、魔王はノーラン。私は語り手でした。
「たのちかった!」
やっぱり男の子は勇者様が大好きなのですね。目がキラキラしています。普段よりハッキリと大きな声が出せていましたし、とっても素敵でした。
「コニー様、とても格好良かったですよ」
「ほんと?かっこい?」
「ええ、とっても!」
「私は?ちゃんとお姫様になれてた?」
「フェミィ様も素敵でした。言葉遣いがずいぶんと綺麗になりましたもの」
フェミィ様はお姫様になり切るために、正しい言葉遣いと発音を練習しました。最近では、『アンタ』などのくだけた言葉はずいぶんと減っています。
「私の魔王はいかがでしたか?」
「よわそ?」
「ちっとも怖くないから駄目ね」
お二人から手厳しい意見が。せっかく付き合ってくださったのに申し訳ありません。
「では、お父君にお願いしてはいかがでしょう」
「「え」」
旦那様が魔王。似合い過ぎて逆に駄目な気がします。
「……駄目よ。遊んでいないで勉強するようにと叱られてしまうわ」
「こわいからヤダ……」
ごらんなさいませ。この信頼関係のなさを。
「いきなりは無理ですわ。まずは毎日の挨拶とか、基本の基本から始めるべきです」
もう。せっかくの楽しい気分が台無しになってしまいました。
「しあわせさんはど~こだっ♪」
「……みっちぇ?」
「キラキラ笑顔の天使をさがそうっ♫」
突然歌い出した私を不思議そうに見ている。
「ほら、コニー様も歌いましょう?一緒にキラキラにこにこの天使様を探すのよ」
簡単なメロディーを繰り返す。
おずおずと、それでも一緒に歌ってくれる。
「「キラキラ笑顔の天使をさがそうっ♫」」
「み~つけた!」
コニー様をギュッと抱き締める。
「きゃーっ!アハハッ」
よかった、笑顔が戻りました。
「ズルイわ。ミッチェ、私も仲間に入れてちょうだい!」
「もちろんです」
それからは3人で歌って笑って。
ノーランは楽しそうに笑うフェミィ様達を眩しそうに眺めていました。