5.ノットイコール
フェミィ様とコニー様とは、その後は和やかに過ごすことができました。そのまま幸せな気分でいられると思っておりましたのに。
「君は一体何を考えているんだ」
殺人を犯してきました、と言われたら信じてしまいそうなくらいに凶悪な顔をした旦那様に呼び出されました。
本当に血の繋がりはあるのかしら?あの二人はとっても可愛らしかったのにおかしいですわね。
ついつい現実逃避してしまっていると、
「聞いているのか?!」
さらに怒らせてしまったようです。
「質問の意味が分かりかねます。何が問題であったかを提示してくださいませ」
貴方様の頭の中など覗けませんのに。なぜ、さも私が分かっていてはぐらかしていると思われるのでしょうか?
「子ども達に同居人だと伝えただろう!」
「それの何処が問題なのでしょうか」
「君は私の妻だ、そして彼らの母になったのだろう!」
………旦那様の頭は大丈夫でしょうか。
「私は妻ではありませんし、彼らの母でもございません。お金で買われた役者に過ぎませんわ」
「……は?」
「まさか旦那様は、紙一枚にサインをしただけで、妻や母になれるとお思いですの?」
「それではまるで詐欺ではないかっ!」
まあ。人でなしのくせに笑わせる。あら、本音が口から転び出てしまいそうでした。気を付けなくては。
「私は確認いたしましたわ。お子様達の面倒だけを見ればよいのかと。貴方様は是と答えられました。それは、母になる事とイコールにはなりませんのよ?
だって貴方様は私を妻として扱わないし、彼らの母としても扱わない。それなのに、どうやって私はその立場になれるというのでしょうか。
貴方様は、対外的に妻役と母役を熟す役者が必要だった。そのために仕方なく私を戸籍に入れた。それだけでございましょう」
全くもってくだらない。どうせ二度と失敗したくないから、最初から私に期待せず、弁えさせるためにあのように横柄な態度で命令を下したくせに。
私の人生に責任を持つ気のない者が夫?ありえませんわ。
「……私は最初から伝えてあったはずだ」
「ええ。私にではなく父に、ですけど。
このたびは、私という商品をお買い上げくださり誠にありがとうございます。
屋敷の外ではそのように演技いたしますし、お子様達にも協力していただきますのでご心配なく。貴方様は順風満帆な伯爵様としてご活躍くださいませ」
これで納得していただけたかしら。そろそろ戻りたいのですけども。
「……君は、私を憎んでいるのか」
にくむ……とは?
思わずパチパチと瞬きを繰り返してしまいました。だって余りにも理解不能なことを仰るのですもの。
「まあ。旦那様は不思議なことを仰るのですね。私と旦那様との間に、そんな憎しみを抱く程の何かが芽生えるわけはございませんのに」
だって旦那様が言う通り、最初から聞いておりましたし。
私達の間には愛などなく、今後も生まれることはない。
「ふふ、旦那様は面白い方だったのですね」
もうさすがに終わりですよね?お腹が空きましたので解放してほしいのです。
「では、失礼いたします」
礼をして部屋を出ましたが、特に咎められたりはしませんでした。
「今日のご飯は何かしら?」
フェミィ様やコニー様が好きなメニューだといいのだけれど。