53.どうして?(3)
一生懸命グシャグシャと頭を撫でているコニー様と、涙目になりながらもそれに甘んじている旦那様の構図に少し癒やされてしまいます。
でも、根本的な問題がいっさい解決していないのですよね。
「変ね。お父様にごめんなさいされてしまったわね?なぜかしら、お母様。私はお母様に言われると思って心の準備をしていたのに」
だんだん腹が立ってきたのでしょうか。フェミィ様の顔付きが険しくなってしまいました。
「あれ?そだね。父さま、ちがうよ?母さまのばんだった!」
間違った!と、頭を撫でるのを止めてダイアナ様の方を向きました。
「もう!母さま、ずるい!父さまがごめんなさいじゃないよ、母さまがごめんなさいよ?」
やはり小悪魔狩人達からはまだまだ逃げられないようです。
「狡いだなんて、親に向かってそんな言葉を使ってはいけません!」
「どして?」
「それは、私は貴方達の母親で……」
「どうして母さまだといっちゃだめなの?
どうして?ホントだよ?ズルいもん。
さっき父さま、いってた。母さま、まちがってるっていわなかったから、まちがったままだったって。
だからね?ぼく、ちゃーんとおしえてあげる!ズルはだめなのよ?」
どうしましょう。コニー様は最強かもしれません。
「お母様はブレイズが好き?」
「……え……?」
フェミィ様からの質問に、少しだけ和んだ空気が霧散しました。
「お母様はお父様とお別れしたのでしょう?」
「それは…、」
「それでブレイズと結婚するの?」
「母さま、また、およめさん?」
何だか胃が……胃が痛いです。純粋な質問の攻撃力が高過ぎて、被爆している気分です。
「いいわよ?それでも」
「おめでとー?」
続いた言葉に、さすがに我慢し切れませんっ!
「フェミィ様、どういうことですか!?」
「だって。もう、仕方がないでしょう?ミッチェがいなくなるなんて嫌だもの。でも、お母様も1人きりだと寂しいでしょう?」
その言葉に、ダイアナ様が戦慄きました。
「私より、そんな数ヵ月一緒にいただけの子の方が大切だというの!?」
激昂した母親をとても悲しそうな目で見るフェミィ様。思わず駆け寄ってしまいました。
「フェミィ様、無理をしないで下さい!」
「……どうして貴方が泣きそうなの?」
「フェミィ様が泣かないからですよ…っ」
まだ幼い体を抱きしめる。
「……ミッチェは私達が大好きね」
「大好きです。すごくすごく大好きです!」
「大丈夫。お母様にね、ちゃんと言いたかったの。ずっとずっと言いたいことがあるの。
ミッチェがいてくれるから、ちゃんと言えるのよ?ね、コニー」
私が泣いてはいけないのに。どうしても我慢が出来ません。
「母さま。ぼくね、ミッチェがすきだよ」
「コンラッドまで……どうして……」
「だって母さま、女の子が一番かわいいもんね。ぼく、一番じゃないのしってるよ?母さま、いってたから。
ミッチェはねー、ぼくも姉さまもおんなじにだいすきなの。だからね、ぼくもミッチェがだーいすき!」
何ということを……。そんなことをコニー様の前で言っていたの?幼いから分からないと思っていたの!?
……それでも、子供にとって母親は無条件に愛すべき存在で、誰よりも愛してほしい存在で。
きっと何度も悲しい思いをしていたのでしょう。
旦那様がコニー様を抱きしめました。
「そうだな。女の子は、ユーフェミアは可愛い。だってコンラッドは強くて格好いいからな」
「…うん!そうなの、ぼく、かっこいい!」
旦那様っ!すっかり男同士の絆が結ばれたようで、ホッとしました。
そして、信じられないものを見るかのように全員の冷たい視線がダイアナ様に集中しました。
「お母様、言ってたわよね?お父様は私達よりお仕事が大切なんだって。
でもね、お母様がいなくなってから分かったの。お父様はちゃんと私達のことが大好きだって。
ただね、どうしたらいいか知らないだけだったのよ。
ミッチェが教えてくれたの。ミッチェのおかげで仲良くなれたの。ミッチェのおかげで私達、寂しくなくなったの。
ミッチェはね、私がお母様を大切に思っているのを分かってくれて、自分をお母様って呼ばなくていいよって言ってくれたの。すっごくね、嬉しかったの。
それなのに、お母様はミッチェを馬鹿にするの?
私達のために頑張ってくれたミッチェにありがとうって言わないのはどうして?
嘘ついてお父様を悲しませたのに、ごめんなさいって言わないのはどうして?
私達のためって言いながら、私達を置いていったくせに……忘れてたでしょう?私達のこと!
お母様の嘘つきっ!!」




