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4.似て非なるもの

「……同居人?」

「はい」

「何それ。子どもだからって馬鹿にしてるの?」


あらあら。意外と歪めて考えてしまうのですね。そのままの意味でしたのに。


「あの。まずはお二人のお名前を教えていただけますか?」


これがないと始まらない。勝ち気なお嬢様と無口なお坊ちゃま。お世話人として、名前くらい知っておかねば。


「ユーフェミア・ミューア、7歳よ。この子は弟のコンラッドで4歳。この子が次期当主だから!」

「教えてくださりありがとうございます。コンラッド様もはじめまして」


ユーフェミア様は幼いながらも美しいプラチナブロンドにグレーの瞳の美少女。コンラッド様もお父様には似ず、ユーフェミア様によく似たお顔立ちで、髪色はお父様と同じ黒髪。瞳は美しいアクアマリンだわ。

お二人とも、伯爵様とはお顔立ちはまったく似ていないけれど、それぞれ髪色と瞳の色を受け継がれたのね。


「……は、はじめまちて。みっちぇ、み、みっちぇる、っ、ちがっ!あのっ」

「コンラッド、もういいわ。アンタは「まあ!コンラッド様。私にニックネームを付けてくださるのですか?」


無理やりユーフェミア様の会話を遮った。だって、上手く発音できないコンラッド様を否定しようとするのですもの。


「ミッチェ。とても可愛らしいです。ありがとうございます、コンラッド様」


さすがに強引だったかしら。コンラッド様がオロオロしています。


「……アンタ……」

「では、ユーフェミア様はフェミィ。コンラッド様はコニーでどうでしょう。とっても仲良しな感じがいたしますわね?」


ユーフェミア様が今にも怒鳴り出しそうだけれど。


「フェミィ?ねえ様はフェミィなの?とってもかあいいね!ぼくはコニー。それとミッチェ。うん、おぼえたよ!」


まあ。とってもキラキラな笑顔です。とっさの思い付きでしたが喜んでいただけたみたいですわ。


「フェミィ様、コニー様。改めましてミッチェと申します。よろしくお願いいたします。

私のお仕事はお二人と仲良しになることです」

「ほんと?ぼくとあしょんでくりぇる?」

「はい、仲良くしてくださいませ」


コニー様はとても素直ね。滑舌が悪いのが今後の課題かしら。これはこれでとっても可愛らしいのですけど。


「……うそつき。どうせコンラッドを馬鹿にするくせに」

「?コニー様に恥ずべきところなどありません」

「うそ!上手く話せないって馬鹿にするじゃない!」


……やっぱり。フェミィ様の態度が(かたく)なだと思ったらそういうことなのね。


「コニー様。フェミィ様は素敵なお姉様ね?」

「はい!ねえ様だいしゅきなの!」


本当に仲良しな姉弟のようです。幼い頃のデイルもこんな感じでしたね。


「フェミィ様、コニー様はまだ4歳です。失敗が許されるお年ですわ」

「だって!みんな笑うじゃない!」

「それはどのような笑い方でしたか?馬鹿にしていたでしょうか。それとも可愛らしいなぁと微笑ましく思っていたでしょうか」

「……どっちでも同じよ。私はすっごく嫌だった!」

「そうなのですね。では、それを伝えましたか?」

「は?!」

「嫌なことをされた時は、まずはきちんと伝えましょう。それでも止めてくれないときは怒ってもいいです。理解してもらう努力を怠ってはいけませんよ。あなたが損をしてしまいますから」


ユーフェミア様は悔しいのでしょう。手をギュッと握りしめ、俯いてしまいました。


「……くそババァ」

「ではあなたはクソガキかしら?」

「何ですって?!」

「悪いことをするときは、やり返されることを覚悟の上でやらなくては駄目ですよ?誰もがやられっぱなしではありません。下手をしたら倍以上の攻撃をされるかもしれませんし、言葉ではなく、暴力が振るわれることもあります。よ~く考えて言葉を選びましょうね」


このお屋敷しか知らないフェミィ様は叱られたことがあまりないのでしょう。

今のうちに教えておかないと大変なことになりそうです。


「ねえ様やさしいよ?」

「そうですね。コニー様のためにとっても頑張っていますわ。でも、どうせ頑張るなら皆様にもっと大好きって思われるほうがいいですわよね?」

「うん!」

「では、フェミィ様。悪口を言ってしまったときは?」

「…………なによ。何よ何よ何よっ!やっぱり母親面してるじゃない!アンタやっぱり新しい母親でしょう!?」


う~ん、コレはもしかして、反発しながらも母親が欲しいのでしょうか?でも何か違う気もします。


「私はあなたを自分の娘だと思って叱ってはいません。ユーフェミア・ミューアという一人の女の子にお話しているのです」

「……何が違うのよ」

「だってあなたのことを知りませんから」

「え?」

「私達はさっき出会ったばかりです。まだお友達にすらなれていない。それなのに、くそババァだなんて悪口を言うから叱っています。そんな私はおかしいと思いますか?」

「……だから同居人?」

「そうですよ」


冷たいと思われるだろうか。でも、これは真実だわ。この子は聡い。子供だからと適当なことを言えば二度と心を開いてくれなくなるでしょう。


「じゃあ、もし仲良くなったら、いつかは母親になるの?」

「なりません。だってフェミィ様のお母様はお一人だけですから」

「……私を捨てたのに?」

「それでもです。あなたを頑張って産んでくださったお母様はお一人だけですよ」


フェミィ様の気持ちは分かるわ。私も何度も考えました。あの人達を捨ててはいけないのだろうかと。

でも、あんな人達でも優しい思い出もあるのです。それが消えるまでは、きっと捨てることなどできないのでしょう。


「……酷いこと言ってごめんなさい」

「はい、謝罪を受け入れます。私も、酷いこと言ってごめんなさい。これから少しずつでいいから仲良くしてくださいね」

「……同居人ならいいわ。ね?コニー」

「え?う、うん!」


あら?コニー様は違う意見なのかしら。


「コニー様。他に言いたいことがあるなら言ってくださいね。いろいろな意見があるほうが面白いですよ?」

「ミッチェ、この子はね」

「フェミィ様、駄目ですよ」

「えっ?」

「コニー様はちゃんとご自分で意見を言えます。これも練習ですわ」


フェミィ様の優しさで、コニー様は会話の量が減ってしまっています。これではいつまで経っても会話力が身につきません。


「えと、えっとね?ぼく、ミッチェのことしゅきよ?ねえ様とぼくに、やさしくしてくれてありがと」


まあ、何と心が温かくなる言葉でしょう。


「コニー様、嬉しいです。これからもたくさんお話をしましょう?コニー様の好きなこと、嬉しいことをお話してくださいませ」







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