41.愛しい存在
どんなに落ち込んでいても朝はやって来るようです。
「まさか私も悲劇のヒロイン病だったなんて」
この一言に尽きます。
ノーランの言う通りでした。私はちゃんと自分の気持ちを言うべきでした。勝手に決められた人生を、こんなのは嫌だと言葉にするべきだったのです。
そうしたら、旦那様をここまで誤解することも無く、まともな結婚生活を───
「……旦那様と、白い結婚ではなくなる?」
いまさら?でも、今思い返すと、私が白い結婚という言葉を出したから、旦那様はそれでいいと言っただけだった気がします。
どうせ旦那様は、自分は嫌われてるとか、愛されるはずが無いとか、そう思ったのではないでしょうか。
だから白い結婚を否定せずに受け入れたのでしょう。
「旦那様も悲劇の主人公気質ですものね」
後ろ向きな二人が、お互いをまったく見ずにここまで来てしまったということか。
いえ、後ろ向き同士が何となく横並びくらいにはなっていたでしょうか?
でも、過ちに気付いた今、正しく夫婦としてやり直すべきなのでしょうけど……
「……いまさら?」
駄目です。思考がループしています。
でも、旦那様にはまだ、ダイアナ様問題が鎮座しております。そして、あちらも悲劇のヒロイン病を患っている恐れがあるのですよね。
「何て恐ろしい病なのかしら」
それでも1日は始まります。メイドを呼ぶ為にチリンチリンとベルを鳴らしました。
「ミッチェ、ちかれた?」
……すぐにバレてしまいました。
「そんなに分かりやすいですか?」
「私達にバレないと思っていたの?」
もう、フェミィ様ったら。愛を感じてしまいます。
「実は、気付かないうちに大きな失敗をしていたことが判明しまして、落ち込んでいたといいますか……」
「そなの?なにしたの?」
「……勘違い……でしょうか」
何でしょう。これでは子供達に悩み相談をしているみたいです。
「わかってよかったね!」
その真っ直ぐさが今日は少し眩し過ぎます。
「良かったのですけど、良くないのですよ」
「どして?」
辛い。コニー様のどうして攻撃が今回ばかりは辛いです。どうして?私が知りたいくらいなのですよ。
だっていまさら……
「間違っている方がよかったから?」
フェミィ様も参戦ですか。
「良かったというか、もう、それに慣れてしまって、それに合わせた自分が出来上がってしまったのですよね」
そうなのです。私は白い結婚が自然になり、旦那様のことが嫌いではありませんが、ただ、フェミィ様達のお父様で、フェミィ様達が幸せになるために必要不可欠な人。ただそれだけ。
あの時、置いてきぼりにされたあの日、私の中でクッキリと線引きされてしまったのです。
「だったらそれでいいじゃない」
「……はい?」
「勘違いじゃなくなったのでしょう?もう、そっちがミッチェの本当なら、それでいいと思うけど」
「でも、本当は違うのですよ?」
それは正しくなくて、間違っていたと分かってしまったのです。それなのに、
「ミッチェ、どうしたいですか!」
「……え」
「ああ、さすがコニーだわ。そうね、ミッチェはどうしたいの?」
私がどうしたいか?
「ミッチェね~、いっつもいうの。どうしたい?って」
「そうね。あれをやりなさい、これをやりなさいって言わないわ。私達にどうしたいか聞いてくれる。どうしてそう思ったか聞いてくれるわ。
私がミッチェを好きなところのひとつよ」
「ぼくもすき~!」
「「ミッチェ、どうしたい?」」
……何でしょうか。この愛おしい子達は。
「私は、今の私がいいです。お二人が幸せになれるように頑張っている、今の私がいい」
いまさら旦那様の本当の意味での妻になりたくないです。だって、絶対にフェミィ様を傷付けてしまいます。
多分、コニー様はそこまで抵抗が無さそうです。お母様と呼んでとお願いすれば喜んでくれるかもしれません。
でも、フェミィ様は違います。
だって、最初にそうお約束しました。その約束を破れば、許してはくれても絶対に傷は付くのです。
「ミッチェは本当に私達が大好きね」
「……はい。お二人が大好きです」
答えはとても単純でした。それに、よく考えれば旦那様だって望んでいない可能性が高いのに、悩んでいた自分が何だか恥ずかしいです。
「おなかすいたよー!」
「そうですね、今日のご飯は何でしょうか」
「じゃあ、当ててみる?!私はね、パンケーキ!」
「ぼくはね~、おやさいゴロゴロスープ!ミッチェは?」
「そうですね、エビとアボカドのサラダでしょうか」
「たのしみー!」