表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/67

3.はじめまして、同居人でございます

ようやく門を通ることが許されました。1週間後に来いと言われなくて本当によかったです。


「ようこそいらっしゃいました」


(うやうや)しく礼をして迎えてくださったのは執事さんでしょうか。存外お若く感じられますがどうなのでしょう。

落ち着いたチョコレートブラウンの髪にペリドットの瞳。少しだけ私に近いように感じられて、勝手ながら親近感が湧いてしまいます。


「はじめまして。モーフェット子爵家から参りましたミッシェルと申します。連絡の行き違いがあったようで、このように早くに来てしまい申し訳ございません」


どちらが間違っているのかは定かではありませんが、ほぼお父様の願望だと思うので、謝罪しておいたほうが無難ですよね?


「とんでもございません。こちらこそ門番への連絡が行き届いておらず申し訳ございませんでした」


そのように謝罪されると困ってしまいます。絶対にお父様の勘違いですわ。だってこんなに立派なお屋敷の執事さんが間違うはずないもの。


「お連れになった使用人はお一人だけですか?」

「いいえ?」


ドナに向き直ると、すでに彼女は涙目でした。


「ドナ、今まで本当にありがとう。気を付けて帰るのよ?」

「はい。お嬢様、幸せになってくださいね!」

「ありがとう。頑張るわ」

「……あの?」


あら、執事さんが困っています。


「すみません、彼女は帰ります。使用人は連れてきておりません。身一つでと聞いておりましたので」

「………左様でしたか。では、中へご案内いたします」


流石だわ。動揺しても態度には出さず。素晴らしいです。使用人の鑑ですわ。

荷物の受け取りを下男に指示すると、余計な質問はせず、屋敷内へ案内してくれました。

でも先程の反応を見るに、身一つで来いという言葉はありのままに受け取ってはいけなかったようです。ですが、ひととおりのことは自分でできますし、なんとかなるでしょう。





応接室に通されてかれこれ一時間。お茶とお菓子を遠慮なく頂いてしまいましたが、まだ伯爵様はいらっしゃいません。


「これはただ忙しいのか嫌がらせなのかどちらかしら」


でも、お茶もお菓子も大変美味しゅうございました。嫌がらせならば雑巾を洗ったお水を使うとか、カビの生えたパンとかですよね?やはり小説のような出来事は起きないようです。


しばらくしてやっと伯爵様がいらっしゃいました。


「待たせてしまったか」


はい、一時間半ほど?と思いつつも言えませんね。

振られ同盟の伯爵様は、金髪同盟ではなかったようです。

黒髪にグレーの瞳。顔立ちは悪くありませんが、何というか……人相が悪い?笑顔がないのに眉間のシワはある。背も高く体付きも(いか)ついのですが、お子様達はこのお姿を見ても泣かないのでしょうか。


「いえ、日時に誤りがあったようで申し訳ございません。突然の訪問をお許しくださりありがとうございます」


とりあえず、伯爵様にも謝罪。


「…………いや。なるべく早くと言ったのは私だ。こちらの希望を聞いてくれて感謝する」


今の一瞬の間は、なるべく早くが今日だとは思わなかったと言っているようなものです。でも、お許しくださるならばそれで良し。これ以上は聞きません。


「ミッシェルと申します。本日よりお世話になります」

「グレン・ミューアだ。時間がないので君への要望のみ伝える。

妻として望むことは一つしかない。君は子どもの面倒だけ見てくれればいい」


前持って聞いてはいましたが凄い台詞ですよね。


そこからは家政なし、閨ごとなし、パーティーなどのパートナーも最低限と伝えられ、このまま嫁ぐことへの最終確認をされてから婚姻届にサインをしました。

これからの人生がたったそれだけで決まってしまったことに感慨などは全くなく。

旦那様もさっさと仕事に戻っていかれました。




「奥様、お部屋にご案内いたします」


奥様ではありません。お飾りですらなく、たまにパーティーでの奥様役くらいのものです。ですのでその呼び方は駄目なのではないでしょうか。


「申し訳ありませんが、私のことは名前でおよびくださいませ」

「……畏まりました。ミッシェル様」


さすがはできる執事です。私の言いたいことをしっかりと理解してくださったようです。助かりますね。


「貴方のお名前を聞いてもいいかしら」

「失礼いたしました。ネイト・ノーランと申します」

「では、ノーラン。先に子ども達に会いたいと思うのですが」

「畏まりました。ご案内いたします」


さて、どんなお子様たちかしら?





「誰?このオバサン」


まあ、この家の天使様はお口が悪いですわね?

私、まだ18歳なのですけど。


「はじめまして、ミッシェルと申します」

「……名前が知りたいんじゃないわ。あなたが新しいお母様なのかを聞いてるの!」


あら、使用人扱いではないのですね?要するに先程の『オバサン』は新しい母親への反発の猫パンチでしたか。大変可愛らしいですが残念ながら違いますよ。


「いえ、私は新しいお母様ではございません」

「……じゃあ、誰よ」

「本日からお世話になります、ただの同居人のミッシェルでございます」

「ミッシェル様?!」


どうしたの?ノーラン。そんなにも慌てて。だって間違いは訂正しないといけませんよね?

私は妻でも母でもありませんもの。使用人とも言い難いので同居人が精々なのです。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ぷ、草 www 同居人 壺
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ