29.答え合わせをしましょう(1)
翌朝、待ち望んでいた情報源が屋敷にやって来ました。
「奥様、大変ですっ!」
「おはよう、最近は大変じゃない日がないわね?」
「ですよね……って、そうなんですがそうではなく!ダイアナ様と駆け落ちした元執事が来ましたっ!」
……それは歓迎すべき大変かもしれません。
「応接室にお通しして。旦那様には知られないようにね。全員、平常心よ」
「……大騒ぎして申し訳ございません。そのように他の者にも伝えます」
「ええ、よろしく」
何でしたっけ、ブレイズ?だったかしら。
執事だったという情報しかないのですけど、仕方がありません。
「ねえ、このリボンで髪を纏めてくれる?」
フェミィ様からのプレゼントです。
きっと私に力を貸してくれるでしょう。
応接室には、一人の男性が椅子に座る事なく待機していました。
この方がブレイズ様ね。落ち着いた雰囲気で、整った顔立ち。旦那様のコンプレックスを刺激するタイプなのかも?
「お待たせいたしました。私はミッシェルと申します。まず、ダイアナ様はご無事ですので御安心ください」
そう伝えると、ブレイズ様はホッとしたのか少し力が抜けたようです。
「ありがとうございます。突然の訪問をお許しください。以前こちらで執事として勤めておりましたブレイズと申します。
あの、失礼ですが、本当に貴女様が奥様で?ずいぶんとお若く見えますが」
「はい、これでも先日19歳になりました。そこまで幼くはないのですよ?」
「……14歳差は犯罪でしょう」
そんなにもショックを受けなくてもいいと思うのですけれど。まあ、年齢差14歳。身長差30cm以上ですから、不釣り合いかなとは思っています。
あ、まさか!コニー様が私のことを妖精さんと言ったのは背が低いからですか?160は無いですが、そこまでミニマムではありませんのに。
「さて、単刀直入にお聞きいたします。ダイアナ様との駆け落ちの真相を教えていただけませんか?」
◇◇◇
カッカッカッ
ヒールの音って案外威圧的かもしれません。
それとも私が怒っているからでしょうか。
コココンッ
ノックが雑?そんなものは知りません。
「……何だ」
「ミッシェルです。お話があります」
「……今は無理だ。また今度にしてくれ」
「嫌です。10数える前に出てこなければ、部屋に乗り込みます。10、9、8、7、6、5、4…」
ガチャッ!
「まだダイアナの調子が」
「うるさいです。あなたがそこにへばりついているほうが迷惑でしょうに。さっさと部屋から出てくださいませ。ダイアナ様の離婚した元夫で現在は赤の他人の伯爵様」
「!!」
あら、とっても怒っていますね。いっそのこと殴ってくれたら子ども達も、ついでにダイアナ様も全員連れて王都に向かえますのに。
「……何なんだ、君はっ!」
「途轍もなく不快ですがあなたの妻ですよ。
ここであなたを罵りまくってもよろしければ、このまま話をします。どうしますか?」
「……少し待っていろ」
「駄目です。何度も言いますが迷惑でしかありませんから部屋に戻らないでください。ダイアナ様とは赤の他人の伯爵様」
長いわね。他に良い呼び方はないかしら。
「ああ、恐喝犯?ん~、恐喝ではなく脅迫ですわね。脅迫伯爵?……何だか言い難いです」
コニー様のブロッコリ伯爵は秀逸でしたのに。
「なっ!誰が脅迫など!」
「その話がしたいから移動しろと、何度言ったら伝わるんです?その耳は飾りですか?」
「このっ…!」
この野郎でしょうか?言いたい言葉は。
私こそ首根っこ掴まえてガクガク揺さぶりながら、この馬鹿野郎っ!!と怒鳴りたい気分ですが?
「ポーラ、ダイアナ様をお願いね」
「畏まりました」
「さあ、あなたの何倍も役に立つであろうポーラに任せて応接室に移動しますよ」
「お前はっ」
「気安くお前などと呼ばないで。子ども達に聞かれたくありませんから、これ以上廊下で話をするつもりはございません」
その後は無言で歩き続けました。
応接室には、新旧執事が揃っていました。
ドガッ!!
入るなりブレイズ様が旦那様を殴り付けました。
いきなり殴られるとは思わなかったのでしょう。旦那様が呆然としています。
「何故いまさらやって来て、ダイアナを拉致したんだっ!」
「……ブレイズッ!貴様がダイアナを呼び捨てにするなっ!!」
「自分で離婚届を出して他人になったんだろうっ!お前こそ気安く彼女の名前を呼ぶなっ!」
「はい、二人ともうるさいです。子ども達に聞かれたくないので声のトーンを落としてください」
ほら、さっさと全員座ってくださいよ。
と、思ったらノーランは私の斜め後ろに立つようです。もしかして守ってくれるのかしら?
旦那様の唇が切れていますが無視しましょう。
「ではまず。旦那様、今、お幾つですか?」
「……は?」
「あなたの年齢を聞いています」
「何を馬鹿な「お幾つですか。早く答えて」
私の質問の意図が分からずイライラしていますね。大丈夫です。こちらの陣営も全員あなたにイライラしていますから。
「……三十二歳だ」
「そうです。何と、かなりのいいお年なんですよ、旦那様は。さらに二人も子どもがいて、何なら妻もニ人目です」
「……何が言いたい?」
そうですね。あなたが自力で気が付くはずがありません。本当にどこまでも愚かで狡い人です。
「旦那様、あなたはいつまで不幸な子どもでいるつもりなのですか?」




