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1.突然の政略結婚

「ミッシェル、喜べ!お前の結婚相手が決まったぞ!!」


久し振りにお父様の満面の笑顔を見た気がします。何も嬉しくは無いのですけれど。


「なんと伯爵様だ!」

「まあ、我が家の様な貧乏子爵家から妻を?どのような事故物件な殿方なのですか?」


お年寄り、バツイチ、子持ち、愛人持ち……


「大したことはない。年齢は32歳」

「14歳年上ですわね」

「妻に逃げられていてな」

「お父様のお仲間ですか」

「子どもが二人いるが」

「………」

「まあ、まだ4歳と7歳だ。簡単に懐くだろう。それに、お前が子どもを産む必要もないんだ!」


さらに白い結婚?凄いです。結婚したくない相手の条件をほとんど満たしているだなんて。


「結婚式も持参金も必要ない。明日にでも身一つで来てほしいそうだ」

「……それは就職の間違いなのでは?」


使用人募集だと言ってもらえたほうが分かりやすいくらいです。


「まさか!ちゃんと支度金を受け取っているさ。これでデイルを王都の学園に入れてやれる!」


あら。私は弟の学費のために売られるのですね。


父は自分と同じ色を持ったデイルを溺愛しています。

美しい金髪と澄んだ青い目を持っていることが自慢なのです。

若い頃はその外見で女性にも大層人気があったそうですが、今ではただの落ちぶれた貧乏子爵。それでも、息子が王都の学園に行けさえすればと、愚かにも夢を見続けている残念なお父様。

お母様はこんな貧乏暮らしは耐えられないと、5年前に離婚届を置いて家を出て行ってしまいました。逃げた先に幸せがあったのかどうなのかは分かりませんけれど。


伯爵様とは妻に逃げられた者同士で気があったのかもしれませんね。


「明日の朝には出発しろよ。絶対に戻ってくることは許さんからな!」


お父様はお母様によく似た私を疎んでいます。

そして、父の色を持っていない、薄茶の髪とヘイゼルの瞳を馬鹿にしているのです。


「畏まりました」


振られ同盟の伯爵様も、もしかして父と同じ様に金髪碧眼なのでしょうか。もしかして子供達も……というか、爵位だけで名前も知らないわね?


「別に誰でもいいわ。どうせ愛などないのだから」




「姉様、ごめんなさい」


私の部屋の前でデイルが待っていました。


確かに綺麗ですよね。


少し癖のある金髪に、サファイアブルーの瞳を持つ彼は、15歳の割には華奢で本当に天使のよう。 


「何を謝るの?」

「……僕のせいで結婚することになったのでしょう?」


その質問の意図は何かしら。甘えたなあなたのことだもの。『そんなことないわ』とか、『愛する弟のためですもの』辺りが喜ばれそうだけど……。


「あなたのおかげで良縁に巡り合えたかしら?」


嬉しいのか悲しいのか分からない程度の言葉。

これくらいで許して欲しいわ。だって、私のために王都の学園に入学する夢は諦められないでしょう?でも、私だってあなたをこの家から解放してあげたいと思っているのですよ。


「姉様?」


あなたが私を愛してくれて大切に思ってくれていることは知っているの。でも、姉よりも自分が幸せになる方が少し大切なだけ。


「愛しているわ、デイル。どうか幸せになって」


少し狡いくらい可愛いものです。家族の中で唯一の味方の大切な弟ですもの。


「姉様!やっぱり僕っ…」

「駄目よ。お父様はもうお金を受け取ってしまっているの。大丈夫よ、この家よりも美味しいご飯が食べられるわ」


ありがとう。今、私を選ぼうとしてくれたのね?優しい子。もう、それだけで十分ですよ。


「さあ、あなたも王都に向かう準備をしなくてはね。私はもう手伝ってあげられないわ。これからは何でも自分でやるのよ?できるかしら?」

「……大丈夫。姉様がたくさん教えてくれたじゃないか」

「そうね。あなたは優しくて賢い私の自慢の弟だもの。相手を思いやる心と、日々の努力を忘れないでね」

「分かってる。何事も継続していくことが大切なのでしょう?」

「さすがデイルね」


お利口さんな弟の頭を撫でる。もう、こうしてあげることはできないのですね。


「姉様、何かあったら僕に連絡して。絶対に助けに行くから」

「……ありがとう。あなたもね。何かあったら必ず連絡をちょうだい?でも、嬉しい時の手紙はもっと欲しいわ」

「うん。必ず手紙を書くね」


デイルのおかげで心が落ち着きました。

何があっても大丈夫。私にはこんなにも可愛らしい味方がいるのですから。






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