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【書籍化決定】愛など初めからありませんが。(第一章完結、第二章準備中)  作者: ましろ


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18.報告日誌

「毎日同じ文面なんだけど」


旦那様からの報告日誌は、毎日毎日同じ事しか書いてありません。

『仕事をした。以上』

一行でもいいとは言いましたが、一言で済ますのは如何(いかが)なものでしょう。


「どうやら旦那様は簡潔に(まと)めるのがとてもお得意のようですね。では、『もう少し詳細が知りたいので、七歳でも分かるように纏めてください』と書いてみては?」


貰った報告日誌は、お二人がコメントを書いて返却します。


「違うことが書けないなら、今日は何を食べたのか、三食分のメニューと感想を書くようにお願いしましょうか」

「どして?」

「旦那様が何が好きか分かったら少しだけ距離が近く感じませんか?もしかしたら、ブロッコリーをムシャムシャ食べられるかもしれませんよ?」

「えっ!」


好き嫌いは少ないコニー様ですが、とっても苦手な食べ物がブロッコリーです。


「だってブロッコリはひきょうなんだ。ひとつだけだとおもって口にいれるとね、かんだとたん百コくらいに増えるんだよ。ひどいよね」


ふうっ、と黄昏(たそが)れています。どうやら房の粒感が苦手な様です。


「最初から百個だと思って食べればいいじゃない」

「姉さま、勇者コニーはひとりだから。百人のてきはね。やられちゃうよ?」


可愛い。可愛過ぎます。魔王を倒した勇者はブロッコリーに負けてしまうようです。


あ、魔王。お二人に伝えるのを忘れていました。


「お二人に大切なお話があります」

「なぁに?」

「とってもとっても大切なお話なので、絶対に秘密にできる子しか聞けませんよ?」

「ミッチェとの約束は必ず守るわ」

「ぼくも!」

「はい。お二人を信じます」


本当は勝手に話すことはルール違反かもしれません。でも、秘密にし続けることは、この子達を傷付けると分かっているので見逃すわけにはいかないのです。

お二人のための契約結婚ですもの。多少の裏切りは甘んじていただきましょう。


「まず、旦那様は魔王ではありません」

「……知ってるわよ。人間でしょ?」

「いえ、旦那様の心のお話です。旦那様は人の気持ちが分からない魔王ではなく、色々なことを知らない、嘘を教えられてきた寂しい人なのです」

「何それ。だって伯爵家よ?教育係がいるし、そもそもお祖父様やお祖母様だってご健在だわ」


本当にフェミィ様は賢いですわ。でも、そう思っているということは、お祖母様が心の病に掛かられたことも、亡くなられたお兄様のことも、全く教えられていないということですのね。


「残念ながら本当のことです。旦那様はお仕事はとってもできるでしょう?だから、教育係はお勉強をきちんと教えてくれました。でもね」


二人をぎゅっと抱き締める。


「こういう、普通の優しさを教えてもらえなかったんです。

普通にあいさつをして、一緒に食事をして。嬉しいときは一緒に笑って、悲しいときは優しく抱き締めてくれる。そういうことを知らないまま大人になってしまったの」

「……どうして?」

「理由は旦那様が話してもいいよって言ってくださらないとお教えできません。本当は今話したことも全部知られたくないはずですから」


さすがにお祖父様が浮気して子どもを作って、嫉妬したお祖母様が虐待していたとは私の口からは言えません。


「どうして知られたくないんだろ」

「たぶん、恥ずかしいんですよ」

「はずかしい?」

「はい。みんなと自分だけ違うから。頑張っても同じになれないから。……みんなが自分を嫌っていると信じてるから」

「よくわかんない」


少し抽象的すぎましたか。


「旦那様は笑うなと言われて育ったそうです。気持ちが悪いから笑顔を見せるなと」


こんなにも悪意に満ちた言葉はないでしょう。

幼い子どもに向かって笑うななどと。

地味と言われた私はとっても平和だと感じてしまいました。私の場合実父ですが。


「……ひどい」

「はい。言う事を聞かないと、何度も(むち)で叩かれたそうです」

「ぼく、勇者の剣でたたいちゃった!」

「あの時は仕方がなかったのですよ」

「でも!」

「あの時、お二人が本気で怒ってくださったでしょう?あのことがあったから、旦那様は私にこの秘密を打ち明けてくださったのだと思います。

お二人のことが大切だから、どうしても嫌われたくなくて、ご自分の弱いところを見せてくれたのですよ」

「……それっていいこと?」

「はい。秘密を打ち明けられるくらい、貴方達に好かれている私は旦那様からの信頼を得られたということですもの。

おかげでお二人の力になれることが増えたから、私は嬉しいと思っていますよ」


お二人ともすっかり黙ってしまいました。

ですが、お二人には知ってほしかったのです。

旦那様はお二人が嫌いで優しくしないのではなく、優しくする方法を知らないだけなのだと。


「……知らないなら教えてあげればいいのね?」

「ぼくできるよ!おべんきょといっしょでしょ?おしえるのとくいよ」

「……お二人はやっぱりお優しいですね」


ついつい、お二人のぷにぷにほっぺにキスをしてしまいました。


「ミッチェごほうび?」

「ええ、すてきなお二人に感謝と祝福を」

「うれしいな!……これも父さましらない?」

「どうでしょう。もし、旦那様がいいことをしたら、コニー様がやってあげてください」

「それはやだ」

「私も嫌よ」


あら?道程(みちのり)は遠そうです。


その日の旦那様への報告日誌には、


『今日もお仕事頑張ってくれてありがとうございます。でも、お仕事ばかりしていると体が心配です。

食事はちゃんと食べていますか?明日は何を食べたか教えてください。どの料理が一番美味しかったかも教えてくれると嬉しいです。

ユーフェミアより』


『ゆうしゃのけんで、たくさんたたいてごめんなさい。こんど、ゆうしゃごっこしようね。

コンラッドより』


いつもより優しい言葉が綴られていました。







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