12.急降下
午後は三人で採寸をしました。
フェミィ様もコニー様も前回より、少し背が伸びているそうです。いつか私よりも大きくなるのかと思うと、成長がとても楽しみですよね。
お揃いになるようにと相談をしつつ、交流会に合うドレスコードを教えてもらいながら、何とか全員分決めることができました。
旦那様はアベンチュリンという淡い緑の石を使ったカフスとブローチを用意することになりました。
流石ですね、相談したらすぐに解決です。
「たのしみだね!いつ行くの?」
「まだ大分先よ?だって今からドレスを作ってもらうのだもの。そうでしょ?」
「そうですね。ノーランが旦那様に色々確認して来てくれることになっていたのですけど」
「おそいね、わすれちゃった?」
「コニーじゃあるまいし」
「ぼくわすれないもん!」
「他のお仕事で忙しいのかもしれません。分かったらまたお教えしますね」
そんな事を話していると、メイド長から呼び出しがかかってしまいました。フェミィ様達といる時に呼び出されるのは初めてのことです。
「メイド長、何か問題でも?」
「……はい。少し困ったことになりました。執事のノーランが謹慎処分になり、もしかするとこのまま解雇される恐れがございます」
「何ですって?」
ノーランがなぜ?……まさか、
「……私のせいですか?」
彼は私のために怒ってくれていた。まさか本当に旦那様に殴り掛かったとでもいうの?!
「大変失礼な事をお聞きします。奥様はノーランと不貞行為をなさっているのですか?」
「……まさか、旦那様はそんなことを理由に彼を裁いたというのですか?
まず、そのような事実はありません。ですから証拠だってあるはずがありません。
何もないのに何をもって不貞があったとみなしたのです?」
メイド長が言い難そうに顔を伏せてしまいました。
「……ダイアナ様が執事のブレイズと駆け落ちなさったからかと……」
「家出ではなく、駆け落ちだったのですか。その後、お二人は?」
「それが、旦那様が探す必要はないと仰ったので、捜索はしておりません。ご実家に戻られてはいないということしか分かっていないのです」
最悪だわ。だって自分の妻でしょう?全く探しもしないだなんてどうかしているとしか思えません。
たとえ怒りがあろうとも、子ども達にとっては大切なお母様ですのに。
「旦那様と話をしてまいります。今、どちらに?執務室かしら」
「……いえ、寝室に」
「面倒なところに逃げ込んだわね。申し訳ないけど、私が話をしたいと言っていると伝えてくださらないかしら。応接室で待っているわ」
「畏まりました」
なぜこんなことになってしまったのかしら。
応接室に向かいながらも、頭の中は謎でいっぱいです。旦那様の考えがわからな過ぎて、どこに地雷があるのか全く読めないのです。
妻を必要としなかったのは彼の方ですのに。
「奥様!」
珍しくメイド長が小走りでやって来ます。
「どうしました?もしかして拒否されましたか?」
「いえ。話があるなら部屋に来るようにと」
「……私室に、ですか?」
「妻なのだから、気にする必要はないと仰って」
また都合良く妻扱いですか。彼は痴呆が始まっているのかもしれませんね。
「……旦那様は最近物忘れが増えていたりします?少し心配なのですけど」
「え!?あ、いえ、その様な報告は入っておりません」
「そうですか。では、これから増えるかもしれないので気を付けてくださいね」
32歳はまだ若いと思っていましたけど、20代で始まる方もいらっしゃると聞きますし、仕方がありません。
「奥様、旦那様は呆けてはいないと思います」
「え?だってご自分で言ったことをお忘れになっているのよ?それとも妄想性障害?どちらにしても大変ですけど」
「いえ、そうではなく、ご自分の考えを後悔なさっているのかもしれません」
はい?後悔していたら、勝手に撤回しても許されると思っているの?さらには無実の使用人を勝手な妄想で辞めさせることもできるのかしら。
「全く以って下らない男だわ」
ああ、とうとう口から出ちゃいましたね。
仕方がありません。本心ですもの。
チラリとメイド長を見ると、顔色が悪いです。
「……聞かなかったことにいたします」
「別にいいですよ?本当にそう思っていますから」
「……奥様……」
「ごめんなさい、奥様ではないの。名前で呼んでくださる?貴方の主人が決めたことなのよ」
さっきまであんなにも楽しかったのに。
あの男はいつも私を不快にさせてくださいます。一種の才能かもしれません。




