プロローグ
「君は子どもの面倒だけ見てくれればいい」
そう宣ったのは、初対面の私の夫です。
お父様から結婚を言い渡され、翌日早朝に家から追い出され。ようやく辿り着いたらこの台詞でした。
流石でございます。バツイチ子持ち10歳以上年上で、さらに白い結婚推奨の旦那様は、発言までも結婚したくないランキング上位に入るであろう台詞を言ってくださいましたわ。
「……では、私は妻ではなく、乳母ということでよろしいでしょうか?」
「君の家は乳母のために多額の支度金と3年間の資金援助を望んだのか?」
質問に質問で返すのはマナー違反だと思いますが、3年間の資金援助は聞いておりませんでした!
「……失礼致しました。では、貴方様が私に望むのは、本当にお子様のことだけなのですね?家政やパーティーなどのパートナーはどうなさるおつもりですか?」
「そうだな。家政は今まで通り家令に任せるから問題ない。パートナーは王宮行事など、どうしても必要な時のみ頼むことになる。そこは我慢してほしい」
なるほど。
「お子様がいらっしゃるから白い結婚でというのも間違いないでしょうか」
「……ああ、必要ない」
男性は定期的に処理が必要だと聞いていましたが、愛人でもいるのでしょうか。それはそれで楽なような面倒なような?
「畏まりました。では、お子様達のことですが、どのような対応をお望みなのでしょうか。ようするに貴方様は幸せな家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子ども達にそのような演技力はありますでしょうか」
「……何を言っている?」
え?真っ当な意見ですわよね?
「何をと仰られましても。貴方様の私への望みはお子様達の日々の面倒を見ることだと仰いました」
「そうだ」
「ようするに戸籍上は貴方様の妻ですが、実質は乳母。もしくは遊び相手。貴方様が妻として扱わないのですから、家の者達も私は妻という名の使用人だと認識するでしょう。そうなればお子様達も私のことを母とは思いません。世話人、なんならただの同居人です。
そんな人間を、外では母と慕い、仲良し家族を演じられるかどうか……まあ、今から悩んでも仕方がありませんわね。少しずつ仕込んでいきましょう!」
「……仕込む」
「はい!」
子どもとはごっこ遊びが大の得意ですもの。案外といけるのかもしれません。
「……とにかく、子ども達は任せた」
「承知いたしました、ご主人様」
「その呼び方は止めなさい」
「では、旦那様?」
「……そちらの方がマシだ」
まあ、見事な眉間のシワですわね。あのまま固定されないか心配です。
こうして、私の政略結婚という名の、使用人生活が始まるのでした。