表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ぽつり、水の音

作者: イヌネコ




 夏祭りが終わると、辺りは静けさに包まれた。小さな村の小さな神社。そこが催しの場所だった。少し前まで多くの人が笑顔を見せていたが、今や境内にいるのは一人きり。中学生の少女が暗い顔で佇んでいるのみだ。


 池のほとりで膝を抱え、水面みなもをぼんやりと眺めている。顔の左右に垂れる三つ編み。その端の近くには赤いリボン。いつもはそんな洒落っ気を見せないが、今日ばかりは違っていた。


 柔らかな風が池を撫で、満月が微かに揺らされる。きらきらと反射する光に少女の視線が向いた。


 どうしてこんなことになったのだろう。


 幼さの残る顔が険しく歪んだ。


 境内に人の姿が多くあった頃、少女は笑顔を浮かべていた。隣には同い年の少年。二人は夏祭りを謳歌していた。






 誘ったのは少女の方。何週間も前からその気でいたが、声を掛けたのは昨日のことだ。張り裂けそうな胸を両手で押さえながら、なんとか言葉を紡いだ。相手は少し驚いていたが、程なくして応じてくれた。


 神社の前で待ち合わせ、二人揃って階段を登る。少年が屋台の料理で腹を満たす中、少女の心は満たされていた。だから、なにも食べられなかった。


 射的と金魚すくいに二人で興じ、少年からラムネの詰まった小さな箱と一匹の金魚を貰った。大した物ではなかったが、少女にとっては宝物だ。


 このまま時が止まればいいのに。


 そんな想いとは裏腹に、夢のような時間は足早に通りすぎる。祭りが終わりに迫る頃、少女は少年を木陰まで連れ出した。


 少女の目に、二度の瞬きが映る。なんだか怪しまれているようだ。少年の唇が僅かに動いたので、少女は機先を制す。


「好きです」


 溢れんばかりの想いを短く伝えた。少女は頬を赤らめ、俯いている。胸が苦しく、耳が熱い。


「・・・ごめん」


 少女が意を決して放った言葉は、儚くも消えた。






 水面みなもの月が形を取り戻すと、少女は視線を外した。


 ぽつり、水の音。


 少女の想いが池に注がれた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ