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スノーフレーク  作者: 暁月


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11/11

ウェブステリアナ大陸 1

 知らない感触だ。

 いつもの固く冷たい寝床とは違い今日は暖かく柔らかい。


 ?……柔らかい?


 上等な布団よりも更に上等な柔らかさのある感触に、菊次郎の微睡んだ意識が少しずつ浮上した。


 確か……


 最後に見た光景を思い出す。



 蛍の様に光る粒子の渦の中、握った冷たい手。

 自分に何か話しかけてきていたユーリの姿。


 ……ユーリ?




「……残念ながら俺はユーリじゃない」

 そんな声が聞こえた瞬間、菊次郎はハッと目を覚ました。そこで、声の主であろう人間と視線が合う。

「…………?」

 自分の顔を覗き込む様に見ていたその人物はジッと自分の顔を見て、首を傾げる。

「言葉は……通じてるって聞いてはいるが……あんた俺の言ってる事分かる?」

「………?分かる、が………ここは?」

 菊次郎を覗き込んでいた人物。ヒューイはそれを聞いて一瞬だけホッとした顔をし、椅子から立ち上がり。ベッド脇に置いてあるサイドテーブルの上から空のグラスに水を注ぐ。それを菊次郎に差し出した。

「ほら、喉渇いてるだろ。ずっと眠りぱなしだったからな……聞きたい事はその後だ」

 取り敢えず菊次郎がベッドから起き上がるのをヒューイは待ち、キョロキョロと辺りを不思議そうに見渡す彼の目の前に水の入ったグラスを差し出した。

「あ、……あり、がと……」

 少し掠れて上手く声が出ない。おずおずと手にとり中の水を確認してから口に運ぶ。

 口に含み舌の上で確認したあとやっと飲み込む。その一連の様子をヒューイは静かに見守っていた。

(……ユーリからは簡単に向こう側の世界の話は聞いてはいるが……成る程)

 何か納得する様に頷いてから、再度菊次郎に目を向け。

「水ならいくらでもあるが?」

「………すまない、頂こう」

 空になったグラスを受け取り、水を注ぐ。水で腹がぱんぱんになるのでは?と、心配しだした所で空になったグラスをテーブルに置いた菊次郎はヒューイへと身体を向け座り直した。

「どういった経緯かは分からないが、君が俺を助けてくれたのだろうか?こんな素性の知らない俺をこんな立派な部屋で介抱してくれて感謝する」

 そう言って、菊次郎は正座のまま深々とヒューイに頭を下げた。それをみたヒューイは、彼に頭をあげるよう促す。

「やめてくれ。俺があんたを助けたわけじゃない、向こう側から戻ってきたユーリがあんたを抱えてたんだ。だからアイツが居ない間は俺があんたを見てただけだから礼ならユーリに言ってくれ」

 顔をあげた菊次郎は、その褐色の肌に金の瞳の彼の顔をまじまじと観察した。

「………だが、今は君が俺を介抱してくれていたのだろ?なら礼くらいは言わせてくれ。ありがとう」

 菊次郎は再度、深々と頭を下げた。

 ヒューイは軽く息を吐いた後、どう致しましてと返した。

「で?あんた名前は?ユーリのヤツ帰って来るなりすぐに登城したもんで俺、あんたの事良く分からないんだよね」

 それにも関わらず、自分を介抱してくれたのかと内心驚きつつ菊次郎は自分の名前を告げた。

「キク、ジロウ?……いや菊、次郎?……菊?」

 何か違う気がすると思いつつ、菊次郎に顔を向けたヒューイはドキっとさせられた。はだけた隙間から見える肌は男性とは思えない程白く艶があったからだ。

「あっ〜、ゴホンっ……“菊次郎”であってるのか?」

 さり気無く視線を逸らしながら名前の確認をする。

「ああ、大丈夫だ発音しにくいなら菊でも良い」

「分かった……菊次郎。俺はヒューイだ、ユーリとは幼馴染みたいな仲だ。これから宜しく」

 ヒューイは菊次郎の前にスッと手を差し出した。それを見た菊次郎は。一瞬戸惑いながらも同じ様に手を差し出しお互いに軽い握手を交わした。

「それと、急で申し訳ないがユーリが帰って来たら……噂をすれば、だなっ、っておい危なっっ!!」

 ユーリの声が下から聞こえ部屋の扉の方に振り向いたヒューイだが、握手したままの手はそのまま引っ張られ菊次郎は正座で座っていたベッドの上からバランスをくずした2人は盛大に床の上に転がってしまった。

「いってて、すまん怪我はないか?」

 下敷きになったヒューイは自分の上に倒れ込んだやたらと軽すぎる菊次郎に声をかけた。

 頭の後が痛い……盛大に打ちつけたようで、目がチカチカする。

「……いや、こっちこそすまない。手を離すタイミングを間違えた」

 上にいる菊次郎のサラリとした黒髪が頬に触れてこそばゆい。そしてチカチカした目を開けたヒューイは絶句した。

 自分に跨る様に乗り掛かった菊次郎の妖艶な姿に、金縛りにでもあったかのように身体が硬直した。

「……ヒューイ?大丈夫か?」

「……………」

 返事のない彼に困っていると、部屋の扉が静かに開いた。そこにはフワフワの金色の髪をしたユーリウスがそっと覗き込んでいる。

「ヒューイどう?彼、目覚まし……」

 覗き込んできたユーリウスと菊次郎の視線が合う。目を覚ましている事に喜んだのも束の間ユーリは菊次郎の下になっているヒューイに気づいた。

「あっ……駄目だったか……」

 訳知り顔で床に転がったまま固まっているヒューイに近づき、指でちょんちょんしてみるが無反応。

「俺を助けようとして……打ち所が悪かったのかもしれない。早く医者にみせないと」

「あはは、大丈夫。ヒューイは()()()弱いんだ。特に経験値強めの艶美人にはね」

 チラリと固まったままのヒューイを二人は見下ろした後。菊次郎は。

「………それは、すまない事をしてしまったと言うしかないな」

「あはは、まぁその内起きるでしよ。さっ、菊。君の部屋に案内するよ」

 そう言って取り出したのは一本の銀色の鍵。

「俺の、部屋?」

「そっ♪今ここの店主さんから借りてきたから」

 そう言って歩き出すユーリウスの背を追いかける様に菊次郎も歩き出す。部屋を出る時、後を一度振り返りすまないと呟き出ていった。

 部屋に残されたのは固まって動かないヒューイのみ。




 カランカラン。

 深夜、春の木の実亭。宿になってる方の扉が静かに開いた。

 受付で今日の帳簿を付けていた店主から鍵をもらい階段に足をかける、が。何だかいつもと違う様子にブリリアント・ロックスターことリアンは不思議そうにまだ食堂にいる客に目を向けた。

(……今日はまだ食堂に人がいるのか。珍しい)

 普段なら1人2人しかいない時間であるはずの食堂はまだ結構な人数が座っていた。そして何故かこちらの方をチラチラと気にしている様だ。

(なんだ?いったい)

 リアンは取り敢えず階段を登り、更なる異様な光景に驚いた。自分達騎士団の部屋があるのは主に3階、必然的に2階を通り過ぎるのだが何故か宿泊客は2階の踊り場まで出てウロウロとしている。しかもしきりに上階をチラチラと見ている事から上に何かあるらしいと一足飛びで上がると。

「……ヒューイ?こんな所で何してるの?」

 上がった先には何故か箒を持ってグッタリと廊下の真ん中に座り込むヒューイの姿。

「ああ、リアンか……丁度良かった。俺この後夜番なんだ。少しだけ寝るから時間になったら起こしてくれない……」

 言い終わる前に力尽きる様に倒れたヒューイに近づき、口元に手をかざす。

「……寝てる。一体何があったて言うのさ」

 ホッとしたのも束の間、下界から何か異様な気配を感じて階段の方を振り返りリアンが見た者は。

「ひぃ!ひゃぁぁぁあ〜!!」




「ん?今、リアンの声がした様な……」

 閉じられた扉の先にユーリウスは顔を向けたが、直ぐに正面の菊次郎へと視線を戻した。

「りあん?何だそれは?団子の一種か?」

「あはは、違う違う。リアンはね僕達と同じ騎士団の1人だよ。そろそろ帰って来ると思うからその時に紹介するよ。ああ、違う違うここの紐はこうだよ」

 こんがらがった紐を解く様に、菊次郎に騎士団の制服を着る練習をさせていたユーリウスはドンという鈍い音が扉の外で響くのを聞きながら窓の外に目を向けた。

「わぁ……皆、飢えてるのかな?」

 窓に近づきシャっとカーテンを閉める。

「どうかしたか?……ムムム、洋服より難しいなこの服は……」

「なんでも無いよ。ああ、そうそうそんな感じ。忘れないうちにもう一回練習してみよう」

「もう一度?……分かった」

 ユーリウスは菊次郎が苦労して着た騎士団の服をあっという間にはぎ取り、もう一度最初から着させる。その様子をみながら。

「う〜ん。こんな事になるとはね〜予想外」

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