闇城家と桐生家
じっとレオ――玲央を観察する。
ああ、見れば見るほど間違いない。
俺を殺した憎き勇者、レオ・キリュウだ。
一体なぜここにレオがいる?
それとも、似ているだけの別人なのか?
「おれのなまえはれお!れおってよんで!」
「……」
「ノア、きちんと挨拶しなきゃ駄目でしょ」
俺が、玲央の自己紹介に無反応でいると、母さんに怒られた。
渋々俺は、自己紹介をした。
「……俺の名前は、ノア」
「のあっていうの?なかよくしよ!!」
「……別に」
「こら、ノア!!」
「まあまあ闇城さん、ノア君はきっと緊張しているんですよ。それに、うちの子はがさつなんで、全く気にしてませんよ」
「本当にすみません」
俺は、勇者と仲良くなりたくない。
だから、玲央に対してツーンとそっぽを向いた。
「のあ!おれのすきなものは、じゃんけんらいだーなんだ!てきをびゅーってやって、どーんってたおしちゃうんだ!」
お前は俺を、勇者のみが扱える聖剣でザクっとやって殺したけどな。
キラキラの眼で俺に興奮しながら伝える玲央は、今のところ普通の子供にしか見えない。
……今のうちに殺っておくべきか?
そうすれば、俺が死ぬこともない。
だが、懸念点がある。
まず、玲央を殺したとして、俺は元の世界に戻れるかどうか。
そして、元の世界に戻ったとしても、とんでもなく未来だった場合、いくら寿命が長い魔族であったとしても、ルナは生きていないかもしれない。
下手すれば、生まれる前に飛ばされるかもしれない。
俺は、必ず元の世界に戻ってルナを探す。
それが目標だ。
もし、レオが底抜けなお人好しだったなら、ルナは俺が死んだという事を、レオによって知らされる筈だ。
ああ、俺が死んでしまったばかりに、彼女に悲しい思いをさせてしまった。
絶対、元の世界に戻らなくては。
ここで、いくつかこの世界について、仮説が立てられる。
まず、この世界が、レオと全く関係ない場合だ。
こうなったら、もうお手上げに近い。
それでも、諦めるつもりはないが、かなりきついだろう。
次に、実はもう俺は死んでいて、この世界は、俺が無意識に作り出した、想像上の世界という点。
これは、最初より状況が酷い。
まず、生き返る必要があるものの、そんな術、あったらとっくに使っている。
最後に、ここは勇者レオ・キリュウが元々いた世界という可能性だ。
そうだった場合、この世界は恐らく、勇者レオがルナのいる世界に来るよりも前の時間軸になる。
つまり、こいつがあの世界に召喚された時、俺も一緒に異世界に行けばいいのだ。
そうすれば、ルナに会うことができる。
つまり、俺は玲央と仲良くすればいいだろう。
そうすれば、レオが異世界召喚された時、俺もその状況に居合わせることができる。
なんていい案なんだ……!
これしかない、と思った。
しかし、重要な問題が一つあったことに気づく。
――だが、俺は玲央と仲良くしたくない。
自分を殺した相手だし、勇者だし。当然だ。
だが、そんな俺の気持ちは、ルナに会うことよりも重要じゃない。
なら、俺は――。
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俺は考えた。考えに考えた。
結果、やっぱりルナを超えるものは何もなかった。
だから――。
「まあ!いい子ね~。ありがとね、毎日うちの子の面倒を見てくれて~」
「いいえ~。こちらこそ、人見知りのうちの子と、玲央君が友達になってくれて嬉しいわ~」
母さんたちの声と共に、俺は自分の恰好を確認する。
七五三。袴を着て、神社に参拝する行事だ。
うちは、普段は着物を着ている家庭なので、桐生家に袴を貸出しして、一緒に七五三をすることになったのだ。
これがなんとも動きづらい。よく人間はこんな動きづらい服を着れるな。
これが平和ボケ、というやつなのか。
同じことを、あっちの世界の王侯貴族にも思ったのだが、いつ自分が戦いに巻き込まれてもいいように、とは考えなかったのだろうか?
全く、不思議なことだ。
幼稚園では、ずっと玲央に付きまとわれている。どこへ行くにも、何をするにも、ノア、ノア、ノア……。
だが、俺は玲央と仲良くする必要があるからこそ、そこまで邪険には扱っていない。
家が隣同士というのもあり、そして同じくらい経済力を持っているのも相まって、俺たちはすぐに、いつも一緒にいる二人、とみられるようになった。
そんな玲央のことが、少しは気になって、剣の腕を見てみることにした。
まあ子供だ。対して期待はしていなかった。
だが、チャンバラごっこと評してやったあの遊びは、案外他の幼稚園児からも人気が出て、トーナメントまで組まれた。
結果、玲央が優勝したが、俺はその才能が恐ろしい、と感じた。
俺?玲央と三回戦で当たって敗退したよ?
まあ何がともあれ、そこそこ仲良くしている。
「のあかっこいいね!」
「玲央も……」
「ありがとう!」
俺、ここまで懐かれるようなことしたっけ?
たまに思う疑問を内心で浮かべつつ、俺は母さんと父さんに連れられ、神社へと向かう。
父さんは普段から多忙な人なのだが、今日は息子の七五三だからか、スケジュールに穴をあけてやってきてくれた。
たまにしか顔を合わせないが、時間があれば構ってくれる。
子煩悩な人だな、という印象だ。
玲央の父も、玲央にの顔をデレデレにして、カメラを構えている。あれ、一眼レフじゃないか?
「はい、チーズ!」
玲央の父の掛け声とともに、俺はカメラを向く。
最初は、魔法かと思ったあの機会にも、俺は慣れた。
この世界には、魔法がない代わりに、科学というものが発展している。
だから、視界に映る全てが目新しい。
本当にこれらすべてが魔法ではないのか、と何度も確認した。
魔力がこもってなかったから、魔法ではなかったが。
「うん、いい笑顔~。二人とも、可愛いね~」
そう言う玲央の父の顔は、レオと似ていたものの、全く締まりがなかった。
……そして一つ疑問なんだが、俺は笑顔を浮かべていた記憶がないのだが?




