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黒猫異世界探訪譚  作者: 七海飛鳥


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勇者レオ・キリュウ

暫くこの世界で過ごしてみて、気づいたことがあった。

この世界には、人間しかいない。魔物も魔族も、エルフもドワーフもいない。

冒険者という職業もない。灰色の石でできた墓石のような建物が数多く立ち並び、地面は呪いを受けたように黒く、硬かった。



俺は前世の種族そのままに転生したらしく、猫耳尻尾が生えている。俺の本来の姿はまんま猫なので、猫で生まれなくてよかった、というところだろうか。

人間から猫が生まれるのは、この世界ではありえないことらしい。咄嗟に人間のふりをしていてよかった。



そしてもう一つ、気づいたことがある。この世界の人間は魔法が使えない。

だが、俺は前世と全く同じに生まれたらしく、魔法も使える。前世と違うのは、生まれた姿が赤ん坊というところだけか。



では、魔法が使えない人間は普段どうしているのかというと、『電気』というモノを使って、『機械』というモノを動かしている。前世で言う魔力が電気、魔道具が機械に似ていると考えれば簡単だ。


「ノア、そろそろねんねしようね~」



――赤ん坊ってこんな風に扱われるのか?早く成長したい……。



俺の今世の母親が、俺を撫でる。赤ん坊の体は自分の欲に素直だ。すぐに眠気が襲ってきて、その一瞬後には眠ってしまっていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



転生してから3年が経った。俺は3歳になり、幼稚園に入ることになった。

俺の家は、和風の屋敷で、この辺りでは大きい方だ。そしていつも着物を着ている。しかし幼稚園は制服というものがあるらしいので、俺は、この世界に来て初めて着物以外の物を着る。


そして、俺は今生で一番驚く出来事が差し迫ってることに、気が付かなかった。


桐生(きりゅう)さんのところも、幼稚園入るのですか?」

俺を抱いている母さんがちょうど隣から出てきた人物に声をかける。

「そうなの。闇城(やみしろ)さんのところもですか?」


隣人の名は、桐生というらしい。俺を殺した勇者レオと同じファミリーネームだ。


ちなみに、闇城は俺のファミリーネームだ。今世の俺の名は、闇城ノア。

黒目黒髪によく似合う名前だ。ノアという名前は、前世から変わっていない。


俺の唯一、俺の中で気に入っていたものだ。この名前は、最愛の人、ルナにつけてもらった。前世で俺は魔物だったために、ルナに名付けて貰うまで俺は、名無し(ノーネーム)だった。


「ええ。ノアは人見知りだから、少し心配だわ……」

「そうなの?玲央(れお)はとても元気で、人懐っこいの。――そうだわ!ノア君、玲央と友達になってくれない?」

玲央?玲央だって?!


「玲央ー!ちょっと来なさい!」


家に向かって大声を出すお隣さん。隣の家も大きい。洋風の屋敷だ。


「母さん?どうしたの?」

声変わり前の少年の声。かすかに聞き覚えのある声に、少し驚いてそちらを見る。

そこには、金髪碧眼の少年がいた。勇者レオをそのまま少年にした感じだ。



――俺は、勇者レオの少年時代に転生したのか?



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



魔王軍四天王最強の俺と勇者レオの戦いはこうだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「来たな?勇者レオ・キリュウ!俺は魔王軍四天王の最後の一人だ。魔王様の命が欲しくば、この俺を倒して見せろ。まあ、貴様の墓場はここになるのだがな!!」


幾ら勇者いえども、所詮は人間だ。この、魔物として最強の種族となった俺に、敵う筈がない。


「ノア?!なぜここに!?」

「意味が分からないな。俺の名前は確かにノアだが、貴様とは会ったことがない筈だが、なぜ名前を知っている?」



俺は人間の国の王都に、何度か侵入したことがある。その時に勇者レオの顔も見てはいるが、向こうが俺を見つけることはなかった筈だ。勇者と直接会い、そして勇者を探る担当をする者は別にいるし、俺は敵情視察を外側からしただけだ。


だからレオは俺の名前どころか顔すら知らない筈なのだが、いったいどういう事だろう。


「まあ、いい。ここが貴様の墓場となるのに変わりはない。大人しく、死んでもらうぞ」

俺は小手調べに闇属性魔法、【ブラックホール】を打つ。レオが避けた場所は大きな穴が開いていた。


「な?!失われた魔法、だと……!」

レオは愕然とするが、あいつはなにか間違えている。


「?これは【ブラックホール】だぞ?ただの上級魔法だ」

「な!?上級魔法?!神々をも滅ぼしたとされる、神滅魔法ではないのか?!」


【ブラックホール】は上級魔法ではあるが、魔物で尚且つ最終進化形の俺が放つと、ちょっとした災害になる。これは俺が闇属性と相性が良すぎる所為だ。相性が悪い光魔法を放つと、威力は激減し、上級魔法を放ったとしても、初級魔法を放ったように見える。


だがそれを素直に教える義理はない。



「この程度か、勇者レオ。俺は本気をまだ出していないぞ?」

そう言いつつ、辺り一面を【幻影】で覆いつくす。浮かび上がったのは大量の俺だ。それらが複雑な動きを見せる。誰一人として同じ動作をしている者はない。ある俺が魔法を放ち、ある俺が剣を持ってレオに肉薄する。


「数が多い!!」

「どれが本物か、当てて見せろ」

全ての幻影から聞こえる声。その中で、レオは目を閉じた。


「無駄だ。この中から本物の俺を探し出すことは不可能だ」

俺が放った魔法がレオを引き裂き、俺の剣技がレオを傷つけた。

レオは手も足も出ないようだ。まあ、魔王様と対峙する前に俺が処分しておく必要がある。他の四天王三名を返り討ちにした実績のあるレオに、最初から本気で行く。


この魔法は、魔王様以外に俺を見つけることができなかったものだ。

だからこそ、俺には確固たる自信があった。しかし、その自信は呆気なく崩れ去ることとなった。


「お前だな!?」

レオはカッと目を見開き、本体の俺を射抜く。繰り出された聖剣をかろうじて避け、カウンターで反撃しながら後退した。


まさか当てに来るとは。勇者の称号は伊達ではないのだろう。

その後、俺はその攻撃のことごとくをレオに弾かれ、最後にレオの持つ聖剣によって心臓を突かれた。その時の痛みを思い出し、つい顔を顰めてしまった。

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