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異世界へようこそ

「これで終わりだ!!」

「ぐッ!!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



俺は、後悔していた。こんなことになるなら、油断しなければよかった、と。俺は、世界で一番大切な人を悲しませてしまった。それも深く。


血が流れるのを見て、自分の血は赤かったとぼんやりと思う中で、深い後悔に沈んでいた。だんだんと感覚がなくなり、視界も暗くなっていく。


でもせめて、これだけは彼女に伝えたい。俺は自分を殺した相手に、金の台座にピジョンブラッドとアメトリンで装飾された指輪を渡した。


ピジョンブラッドは夫婦の象徴で、アメトリンは彼女を象徴するような石だ。台座の裏には、「R to N」と刻まれており、Rは彼女のイニシャル、Nは俺のイニシャルだ。

俺はこれを肌身離さず身に着けているため、もし勇者がこれを彼女に見せれば、俺が死んだと気づくだろう。


「勇者レオよ……。四天王最強の俺の……最期の願いを聞いては、くれないか……?滑稽だろう?自分を殺した男に……最後の願いを託すのだから……」

そう言うと、勇者レオ・キリュウは悲痛に顔を歪ませた。


「……なんだ?」

「これを……妻の元に届けてくれないか?俺が生きた証に……。俺がもう死んだという証に」

俺は駆け寄ってきた勇者レオに、指輪を握らせる。玲央は自分の手の中のものを確認すると、一瞬息を止めた。


「そういうのは自分で届けろよ!」

と、勇者レオは俺に指輪を返そうとする。しかし俺は受け取らない。


「分かるだろう……?俺は……もうじき死ぬ。だから、最愛のあの人に、残酷な希望を抱かせたくない。俺の、命の恩人だから」

「……」

沈黙が支配した。この空間には、俺の荒い息だけが聞こえてくる。


しばらくの沈黙ののち、玲央は意を決したように俺を見た。



「……分かった。お前の妻にこれを届ける。お前の妻は誰だ?」

勇者レオの“甘さ”に思わず笑みが零れる。



――敵の最後の願いを叶えようとか、本当に馬鹿な奴だよな。



「フッ、分かるだろう?魔王ルナ・セントールだ。……もうそろそろのようだ。指輪、頼んだぞ……」

「ノア?!ノアーーーー!!!!」

勇者の呼びかけを聞きながら、俺は息絶えた。俺の脳裏には、愛しい紫の髪に黄色い瞳をした少女が浮かんでいた。記憶の中の彼女は、とてもいい笑顔だった……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



生まれてから何年経っただろうか?2千年を超えてから数えるのを止めてしまった。


でも、億は越えているはずだ。長かった人生だったな。いや、俺は人ではないから、人生は間違っているだろうか。


どうでもいいことを考えながら、死にゆく――筈だった。




「やっと生まれた……!」

「ああ、よかった!一度心臓が止まった時は、どうしようかと思った!」

「おめでとうございます」



――五月蠅いな。それに知らない魔力を微かに感じる。誰か魔法を使ったな?



思わず目を開くと、そこには見覚えのない天井。それは見慣れた石の天井ではない。木でできた天井だ。


「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあー!」


突然、意思に反して泣き出したこの体に、俺は戸惑う。



――え?俺泣いてる?



「え?尻尾……?」


戸惑う俺の耳に女性の声が入った。その女性は、耳がとがってなければ、角も獣耳も鱗も生えていない。

正真正銘の人間だ。俺の頭は警鐘を鳴らし、すぐさま尻尾を消した。そしてこの場にいる全員の記憶を消す。


俺は、どうやら種族はそのままに転生してしまったらしい……。

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