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21話


 俺の脳に銃弾が貫通した瞬刻、絶命と共に思い出したのはオークションの日に出会った幼い人魚との約束だった。


『生きて。 生きて』


 死の間際、沈む精神世界で思い出したのは中学生時代に偶像を破壊した日の事。


 あの時は顔が酸性雨で溶けた偶像、それがどうしようもなく気に入らなかった。 最初は両親が英雄として扱われる現実が気に入らなかったからと思っていたけど。


 そうじゃなかったんだ。


 あの時、誰からも見向きもされない偶像が気に入らなかったんじゃない。


 足をもがれ、片腕を失い、目を失った檻の中の隣人アルエの最後と重なって見えたんだ。


 毎日四肢を無くすアルエ、そんな君を俺は助けたいと思って、ただその一心で管理人から鍵を奪って彼女を背負い逃走を図った。 


 潮風が鼻を刺す甲板。 走らずとも逃れられない水平線にという名の檻に囲まれた世界に虚勢を張って泣いた。


 そもそも子供が子供をおんぶしながらの逃走なんてものが無謀そのもので、船舶の中で大人から逃げ隠れようなんて考えが浅慮だったのかもしれない。


「大丈夫! 大丈夫だか、ら!!」


「ねぇ、省吾くん。 私、ここまで逃げれてよかった」


「何言ってんだよ!! 一緒に世界を見るんだろ!!」


 大人たちが俺たちがいなくなった異変に気がついた頃。 周囲が途端に騒がしくなり安易な行動ができなくなる中で体力が切れた俺は近くのコンテナにアルエと一緒に身を隠していた。


「きっと私じゃこんな行動できなかった。 だから最後に私のお願いを聞いて欲しいの……これは契約。 貴方が決して死なないおまじないだよ」


「諦めーーーー」


 弱音を吐くアルエを鼓舞しようと気丈に振る舞って彼女の方を振り返ると、突然頬を赤らめたアルエが俺の唇に自分の唇を重ねて嬉しそうに微笑んだ。


「ねぇ。 省吾。 私、貴方に会えて幸せだった」


「ーーっつ」


 本当に、初恋だった。


 ずっと一緒にいたい。 このままどこか遠くの国で一緒に暮らせれるならどれほど幸せなのだろうか。


 嫌だ。 もう大切な人を失いたくない。 お願いだ神様。 たった一度でいいから願いを叶えてくれよ。


「このガキが!!」


 逃亡の末。 体力も尽きた俺たちにコンテナの陰から現れた男は動揺をした様子で散弾銃を構える。


「ね、省吾。 もし。 もしカノンに出会ったら彼女を守ってあげて。 不器用で、天邪鬼で。 面倒臭い親友なんだけど私の大切で、大好きなーー」


「やめろ。 やめてくれ!! やめろ!!」


「ーーーーー」そう言い残したアルエは優しく微笑みながら目の前で顔を撃ち抜かれた。 暗く閉ざされた死後の世界で思い出す過去に懺悔する。


『ごめん。 アルエ。 俺、死んじゃった』


 今更になって君を思い出すなんて、最低だ。


 膝を抱えて蹲りながら死を受け入れようとしたその時、俺を包み込むように優しい光が形を成して耳元で囁く。


『死んでないよ。 だって人魚の契約は愛する者を護る為の禁忌なんだよ? 私は器を失ったけどいつでもあなたの中にいる。 だから諦めないで』


「アルエ……」


『省吾。 覚えておいて。 人魚の力は人の器には余りある力。 省吾の身体にいるから分かる。 きっと何度も使えば省吾は人間じゃなくなっちゃう。 だから使って良いのはあと三回。 それ以上は覚悟してね』


 意識の戻った世界、溢れ出る生命力。 人魚との契約が履行されて改めてその力が発揮される。


 俺と日露は人が落ちて良い高さではないにもかかわらず、全身ズタズタの肉体を起こした日露は嬉々として臨戦体制を取ると昂った顔で口から垂れる血を拭い拳を構える。


「いいぜ! いいぜお前!! さぁラウンドツーだ!!」


 合わせ鏡のように交差する拳、先程は一切見えなかった日露の動きが今では目で追うことが出来る。 約束したんだ、アルエと、だから。

 

 周囲から感じる人質の視線。 でも、今はそんな事どうでもよかった。


「絶対に負けられねぇ!!」


「お互いな!!」


「「うおおおおおおおおおおおおお」」


 お互いがお互いの信念で放つ本気の一発。


 放たれた拳はお互いの頬にクリーンヒット。 満身創痍だろうとかまわない。 俺と日露は自分の意思を貫き通すために全身全霊を尽くしてその場で殴り合う。


 一発。 一発。 結局同姓同名の同じ顔なら、体力まで同じだったようだ。


 もう無理だと諦めかけたその時、偶然にも人質になった少女が目を輝かせて俺を応援している姿が視界に入った。


「ーーがんばれ!」


 祈るなよ。 俺は神でも救世主でもなんでもないし、ましてや別にアンタらを助ける為にテロリストと殴り合いしているわけじゃねぇ。 けど……。


「は、存外悪くないもんだな」


 フラつく足取りで最後の拳を握り込む。


「どうした? 一回死んで気でも触れたか?」


「かもな。 どうやら、ここでやらなきゃ後悔しそうだ」


 少しだけ頬を引き攣らせた後、声を枯らしながらも日露と最後の拳を交わす。 お互いの全力、真っ白になる意識の中で俺は最後までやつの頬に拳をねじ込み怯み力を込めてぶん殴る。


「俺は日露省吾。 お前を超える男だ!!!!」


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