97 光の蝶2
「索敵の面でも。もう少し広くなれば、マクシム様にもお手伝いいただこうかなと思ってはいます」
フォリアが柔らかく微笑む。
「それまでは、私が敵の殲滅を致します」
可憐なだけではない。芯の強さを垣間見せる笑顔だ。
話は終わったとばかりに、光の蝶がフォリアの細い指先から飛び立つ。そのままフォリアの周辺をひらひらと舞う。
光球も維持したままである。
フォリア本人が顔色一つ変えていないのだが。消耗は大丈夫なのか、レックスは気になってしまう。
「まだ、マクシムの手を借りるには至りませんか?」
レックスはフォリアの隣に立って尋ねる。なんとなく光の蝶が飛び交っている時には近寄りがたいのだった。
「えぇ、ただでさえ私、苦手なことをお願いしていますから」
フォリアが苦笑いである。確かにここまでマクシムが額に汗をかきながら、魔窟の図面を作成してくれていたのだった。
「確かに私にも、あの作業は難儀でしょうが」
レックスもあまり得意ではない。一度、覗き込んでみたのだが、細かく詳しく図面が描かれていた。自分では真っ直ぐに線を引くのも大変だ。
(マクシムの性格がよく出ている)
バーガンやレーアにも難しいだろう。あの2人も大雑把な性格をしている。
「しかし、フォリア殿。これまでに加えて、これほど便利な術を。短時間ならともかく、ずっと使い通しでは辛くなりませんか?」
レックスとしては継続時間のほうが気になるのだった。
「平気です。まだ余裕がありますから」
フォリアの表情には確かに余裕があった。強がっているようには見えない。
レックスは頷いた。自分もまた余力を残している。ここぞという時まで奥の手を残しておくのは共通しているのだった。
「大丈夫です。思ったよりも魔力の面では消耗せずに済んでいますから」
肩を竦めてフォリアが加える。
「バーガン様とレーア様が最前線で奮闘してくれているおかげなんでしょうけど」
フォリアが視線を前方の2人に向ける。
光球で照らされる範囲に上手く留まりながら、バーガンとレーアも戦い続けていた。
「くっ」
レーアが横合いから突き出された槍を躱す。
光球で照らせない窪みにハイスケルトンが潜んでいたようだ。
(今度は槍、か)
レックスは周囲に気を配る。ハイスケルトン一体であれば、レーアたちだけで十分対処出来るのだ。
(他にはどんな個体がいるのやら)
斧を使うものもいれば、剣を使うものもいた。ハイスケルトンという魔物は、個体によって武装がマチマチなのである。
「初撃を避けてくれれば十分です」
フォリアが微笑む。ゾッとするほど好戦的な笑顔だった。
「いけっ」
フォリアが可憐な指先をハイスケルトンに向ける。
光の蝶がハイスケルトンの方へと向かう。更に1羽だった光の蝶が分身して増えた。
光の蝶がハイスケルトンに取り付いていく。槍を振り回されてもなお、構わずに纏わりついて動きを制約していた。
「無駄です」
フォリアが静かに告げる頃には、ハイスケルトンが光の粒となって消えていた。
「申し訳ありません。助けて頂いてばかりで」
レーアが珍しくシュンとしていた。
落ち込むような状況ではないとレックスは思うのだが。
「いいえ、私の最低限の力で倒せることが分かっていましたから。時間をかけないために、この方法でしばらく倒していくのがいいと思います」
フォリアが涼しい顔で言う。
遠回しにレーアに任せると時間がかかると言っているのであった。
「時間をかければ、レーア様にとって、ハイスケルトン1体1体が物の数ではないことぐらい分かります」
レーアの面子を潰さないために言っているのだとレックスは思った。あまり、上手い話し方ではない。かえって人の傷に塗りつけるような言葉だ。
レックスは口を挟もうかと思ったのだが。
「後衛や他の人に戦わせたいと思いすぎです。レーア様は。トドメぐらいは刺させてやろうかとおおらかに構えているのが良いと思います」
しかし違った。たおやかな笑顔のままフォリアが鋭いことを言う。
(確かにレーアにはそういうところがある)
バーガンのこともなんだかんだと言いながらも助けているのであった。
「え、はい。分かりました」
レーアが胸を突かれたような表情を浮かべた。敵の注意をそらしてくれるだけで十分な時も多いのだ。特にフォリアと組めば僅かな時間でも魔物に致命傷を与えてくれる。
(ま、私は最初からそのつもりだがね)
フォリアとの戦い方を理解しているつもりのレックスは思うのだった。
「私も戦うことで調子が上がってきますから。少しは戦わせていただけると。敵を譲ってやるぐらいのつもりでいていただけると助かります」
可愛い顔でなんとも好戦的な物言いをフォリアがする。
「それ以上、調子を上げて、どれだけ大暴れをなさるおつもりなのですか」
レックスは苦笑いで口出しせずにはいられなくなるのであった。




