91 ヘイムウッド討伐2
平然とアブレベントの頭上に跪いてメイヴェルが祈るフリを続けている。
(肝が据わってるのよねぇ。本当に偽物で生きてくって。そう覚悟が決まってるのね)
好悪の情とは別に大したものだとレアンは感心していた。
「じゃ、あたしも始めようかしら」
レアンは呟く。
射程の中にウィンバーの群れが到達したからだ。
「空気よ、凍てつけ」
レアンは口の中で詠唱し、魔力を放出する。髪は仄かに青く光ったのではないか。カドリからの魔力を上乗せするまでもない。
横広に走る冷気がウィンバーの翼を凍りつかせて墜落させる。
「おおおおおおっ」
歩兵たちが活気づく。まだ息のあるウィンバーにとどめを刺して回っていた。
「これぐらい、いつもやってんでしょ」
レアンは苦笑いだ。自分が何をしても、この面々は盛り上がるのではないかと思う。
(カドリ様)
本当に腕前の程を見せつけたいのは1人だけだ。
生き延びて魔力を行使し続けるうちに自分も地力を増した。他人からの魔力譲渡をきっかけに潜在能力が目覚めたとでもいうのか。
(どこかで見ているのなら、見せつけてあげる)
続いてレアンは髪の色を金色に輝かせる。
色を変えることが目的ではない。使用する魔力の属性を変えただけだ。雷魔術である。
「一掃しなさい。雷柱」
幾本もの雷が線となって『疾風兵団』を襲う。
「私のこの組み合わせ、どんな相手にも。どんな属性にも通じるのよ」
氷と雷である。レアンの魔術に死角は無い。
先発してきたウィンバーと『疾風兵団』を撃破した格好だった。
しかし、この間にヘイムウッドがかなり接近してきていた。本隊ともいうべき魔物たちも足下で蠢いている。
「行きます」
アレックスが呟いて、矢のように走る。
(ま、本人にしては、我慢したって感じ?)
レアンはアレックスの暴れっぷりを横目に思う。
多少、数で押されることがあっても、アレックスがいれば大崩れすることも無いだろう。
レアンはヘイムウッドに向き直った。
(結局は、あんたと私の勝負ってわけよ)
竜巻の中にいるであろう巨木にレアンは語りかける。
「まずは小手調べ。空気よ、凍てつけ」
最大出力でレアンは凍てつく風を生じさせた。
竜巻の表層で氷の粒が舞う。そして、あっさりと渦にかき消されていた。少しだけ進行を留めたに過ぎない。
風の勢いがあまりに違い過ぎる。
(そんなのは、わかりきってる)
レアンは冷静に敵を見据えていた。
自分の小さな体など、眼中に無いのではないか。
「私の魔力とあなたの力。どちらが上かしらね?」
レアンは微笑む。少しずつ使うであろう自分の力に高揚し始めていた。
「ふふふふふ」
力が流れ込んできた。やはり、どこからともなくカドリの魔力が送られてきているのだ。どこにいるのかは分からない。それでも確かな繋がりを感じる。
髪の毛と目が自身でも分かるほどの青白い光をほとばしらせていた。
「凍結して、砕けよ」
レアンは右腕を上げて唱える。
「氷槌ダラン」
氷の槌を上空ヘイムウッドの頭上に生じさせた。本来、離れたところに魔術を顕現させるだけでもかなりの魔力を使う。
かつて炎の巨人ズカイラーをも打ち砕いた攻撃だ。炎すらも凍りつかせた実績がある。
(今は、あの時よりも)
レアンも腕前を上げている。更に巨大で強力だ。
「す、すごい、さすがレアン様だ」
誰がかつぶやいている。どよめきのようなものも各所から聞こえていた。
「あたしの魔力にメイヴェル様の御力も上乗せした。耐えられると思うなっ!」
レアンは大嘘を叫びつつ、右腕を振り下ろした。
ビキビキと空気が固まる。竜巻の中にある水蒸気を全て凍りつかせたのだ。低温になれば空気すらも動けない。
(でもまだ、中の本体は無事)
凍結は一時的なものだ。やがて温度が戻れば溶けて無かったことになる。
(でも、あたしは氷だけじゃない)
レアンは自身の力を切り替えた。
氷の中、枝が見えている。漠然と認識していた敵がはっきり視認できたということだ。
レアンはもう一度、魔力をみなぎらせる。いつか溶ける氷と言っても、すぐには溶けない。
髪の毛が金色の光を放つ。
「我が敵を咎めよ」
レアンは左手を掲げる。バチバチと雷が音を立てていた。
「雷槍オグド」
雷の槍が真上からヘイムウッドを貫いた。
あまりの威力に幹の中からも雷光が溢れるほど。
「今よ、行きなさい」
レアンは呟く。ありえないぐらいに耳の良いアレックスのことだ。聞こえているだろう。
アブレベントの頭上でメイヴェルも立ち上がる。ヘイムウッドの幹に核が露出していた。
「行きなさいっ」
メイヴェルも鋭く叫ぶ。
白い光の矢となったアレックスがヘイムウッドの核を貫く。
ボロボロと木の皮が剥げて落ち始めた。
ヘイムウッドを倒したのだ。レアンはホッとして肩の力を抜く。
「聖女様!レアン様っ!」
何故か自分まで賞賛されているが、きっと気の所為だろう。
(ふふっ、アレックスの奴、また怒り出すわよ。なんで偽聖女が褒められるんですかって)
目に浮かぶようだ。レアンは思い、1人笑ってしまうのであった。




