89 話し合いの段階4
「なに、たらたらしてるの?とっとと来てよっ!」
苛立つレアンの声が響く。
かなり長い時間、立ち話をさせられていることにアレックスは気付いた。
「あなたのせいで、怒られました」
アレックスは不機嫌に宣言して先を急ぐのだった。メイヴェルがついてきているかなど知らない。そんな気分だったが、会議室につくと、しっかりメイヴェルも後ろにいるのだった。
「まったく、しっかりしなさいよ。あんたなんかカドリ様いない以上、だいぶ主力なんだから」
レアンが部屋の最奥、議長しか思えないような席でふんぞり返っていた。
部屋の中央には長机が置かれていて、細長い地図も広げられている。
「すいません。聖女様がおしゃべりばかりだからなんです」
アレックスは偽聖女に罪を押し付けてやろうと目論んだ。
「ひとのせいにしないっ」
しかし、ピシャリとレアンに封殺されてしまうのだった。
「まったく、とりあえず、ヘイムウッドが重たいのよね」
ため息をついてからレアンがまず切り出した。
「騎馬も歩兵も近づけませんな」
ヘイドンが腕組みして告げる。
「レアン様のご命令とあらば、竜巻の中に突っ込むことを厭う者はおりませぬが。どうしても風には飛ばされまする」
さらに加えて忠実なことを言う。
(それは、そうですよね)
アレックスも頷く。竜巻に突っ込めば飛ばされるに決まっている。
(問題は、ヘイドン隊長さんたちは、本当にレアンさんが言うと、竜巻に突っ込んでいきそう)
束の間、アレックスは哀れに飛ばされるヘイドン達を想像してしまうのだった。
「逆を言うと、他の魔物どもは、あんたらでどうにかできそうかしら?」
レアンがヘイドンに向けて尋ねる。
「ウィンバーに、疾風兵団、風狼などが散見されますが、いずれも倒せない敵ではございません」
ヘイドンが胸を叩いて答えた。
「ヘイドン殿が弓と矢を多量に入手してくれました。急増ですが弓兵部隊も配置できそうです」
さらにカートンも説明していた。
空を飛ぶウィンバー達も苦にしないということだ。
「なら、あたしがヘイムウッドを叩けばいいわけね」
レアンが結論付けた。
「こっちには、聖女様もいる。どうにかなるでしょ」
思わぬことをさらに加えた。偽聖女のメイヴェルなど何の役にも立たない。
(あ、でも、ヘイドンさんたちの前では、偽じゃないことになってて、だから、いて有り難いって、レアンさんも言わなくちゃだから、言ってるだけで、えーと)
アレックスは考えているうちにこんがらがってしまうのだった。
「邪魔な竜巻は私が固めて役立たずにしてやるから、本体を聖女様にやってもらおうかしらね」
思わぬことをレアンが言う。偽聖女のメイヴェルにヘイムウッドの本体など倒せるわけもない。
「はぁい、了解よぉ?」
手を挙げて、メイヴェルがひらひらと振った。
快諾である。何か秘策でもあるのだろうか。
(だって、カドリ殿もいないのに、どうやって、そんなことするのか、私には想像もつかない)
アレックスはつい首を傾げてしまう。最近ではあまり、やらない仕草だ。カドリからもレアンからも『可愛くするな』と意味不明のお説教を受けるのである。
「多分、私と聖女様は竜巻にかかりきりになるから、細かい敵はヘイドンとカートンに一任するわよ」
さらにレアンが軍人2人に指示を出す。
文句を言うと思っていたメイヴェルが何も言わない。アレックスとしては、そちらのほうが気になるのだった。
「了解でありますっ!」
レアンからの指示にヘイドンとカートンが逆らうわけもない。席を立って直立である。
「特にヘイドンは騎兵で敵を減らして回ってちょうだい。あんたにかかってるからね。信用して任せるわよ」
レアンが不敵に笑う。
笑いかけられた上に「信用」という言葉に感極まって、ヘイドンが涙ぐんでいた。
「カートンはあたしと聖女様の護衛も兼ねてるからね。あたしらが生きるも死ぬも、あんたら次第。任せたわよ」
レアンが続けてカートンを見据えて告げる。
「お任せくださいっ!」
胸をドンッ、とたたいてカートンも了解した。
攻めをヘイドン、守りをカートン、と役割分担することで敵に対処するつもりらしい。
確かにアレックスでは、この2人の軍人を心酔させて、手足のように使うというわけにはいかない。レアンだからカドリ不在下でも戦線を維持出来るのだ。
その他細々とした打ち合わせに時間を割く。
いよいよ解散して、ヘイムウッド討伐に向かおうかというところ、アレックスは極めて重要なことに気付く。
「あれ?レアンさん、私は?私に何の役割もおしえてくれてません」
そういえば、自身は何も指示を出されていないのである。アレックスは自らの顔を指差して尋ねる。
「あぁ、あんたは、槍を白いのにして、鎧も全身、白づくめにしてて。で、メイヴェルさんが手で合図したら、ヘイムウッドの核を貫いてちょうだい」
なぜ、白くなければならないのだろうか。
だが、せっかくの任務だ。
「はいっ!分かりましたっ!」
そして、アレックスは不可解な指示を快諾するのであった。




