84 風の大木2
レアンはアブレベントの上で新たな仲間、歩兵団隊長カートンの所信表明演説が終わるのを待っていた。
「そのムカデ様の神々しさに救われた1人として、勤め上げる所存でありますっ!」
カートンが締めくくった。どうやら自分かアブレベントにどこかで助けられたことがあるらしい。
珍しくアブレベントが迷っている。『ムカデ』呼ばわりが腹立たしいものの、『神々しい』という言葉が嬉しくもあるらしい。尻尾ではね飛ばすべきか悩んでいて、結局やめた。
「このカートンがレアン様のため、各戦線の残兵1000を集めました!此度の戦でまた各地の士気を高揚させましょう!そしてカドリ様、レアン様のお役に立ちましょう!」
最後にヘイドンが締めの口上を叫ぶ。
一応、率いる兵力も多いことから、ヘイドンのほうがカートンよりも立場が上らしい。
この所信表明のために、ヘイドンやカートンが準備を整えていたことは想像に硬くないので、レアンは黙って聞くしかないのだった。
ヘイドンとカートンが並んで直立し、胸を左でドンッ!と叩く。同時に総計3000の兵士たちが一斉に拍手である。
そして、何も考えていない槍使いのアレックスもなぜだか見習って拍手していた。
「えーと、で、どうなの?大物はいる?そろそろ厄介なのが出てきそうな頃合いだと思うんだけど」
レアンはアブレベントに頭を下ろさせて尋ねる。
一応、カートン自己紹介式典は終了で良いようだ。
「なんだかぁ、あなたぁ、この北部の女領主みたいねぇ」
馬車からニタニタと笑いながらメイヴェルが出てきた。
当然、カドリに心酔しているこの面々は、メイヴェルになど無感動なのである。一様にただ、しらーっとした視線を送って終わりだ。
「むさっ苦しいのが騒いでいるだけです。とりあえず大物でしょう?大物。あたしたちは手柄を立てなきゃなんだから」
レアンは素っ気なく告げる。
ウィンバーの群れなどでは、いくら倒しても手柄とは言いづらかった。
(そう、あたしらも危険だけど、ズカイラーみたいな大物が分かりやすくていいのよねぇ)
アブレベントの甲殻を撫でながら、レアンは思案していた。アブレベントのさらに上、空をサグリヤンマが旋回している。
(場合によっちゃ、アレックスに頼んで、サグリヤンマに大物を探してもらうしかないかも)
メイヴェルのためとさすがに分かりきっているから、またいちいち抵抗されそうなのだが。
「はっ!魔窟南方、エイレン平原に放っていた物見から報告が来ております!」
ヘイドンの叫びでレアンは我に返る。
魔窟の南方には東西に連なるレンポウ山脈が走り、さらにその南にはエイレン平原が広がっていた。
ともに魔物との激闘になりやすい場所だ。
「へぇ、どんな報せ?」
レアンは微笑んで尋ねる。
「はっ」
カートンが直立する。本人もそうだが、なぜだか部下たちも最初から自分に忠実だ。訓練も行き届いているようで、こうして整列していても皆、微動だにしないのだった。
「エイレン平原周辺に魔物どもが集結しており、いずれも風属性。そしてレンポウ山脈の方から、巨大な竜巻がゆっくりと進行してくるとのことであります!」
ヘイドンが直立したまま報告する。
思えば皆、顔をこちらに向けて自分の方を向いているのだった。
(あまり、ジロジロ見られたいもんでもないのよね)
カドリからの魔力供給かなければ、自分など、どこにでもいる魔術師の小娘だ。こんな集団から一心に見つめられる立場ではない。
なお、完全に他人事のアレックスが兜の内側で大あくびをしている。
(この連中の対応、別に、あんたがやったっていいことなんだからね?)
レアンは内心では苛立っていた。まして、一応、カドリの傘下としてはアレックスの方が古参なのだ。本来、代役を張るべきはアレックスであるべきだった。
(それがむしろ真逆、なにさ、退屈だって?メイヴェル・モラントにはご不満で?まったく、何様よ?)
戦い以外では、ぐうたらしている。そして、面倒くさいことは自分に丸投げなのであった。
「巨大な竜巻?そんな山越しにでも見える大きさなら、ヘイムウッドぐらいしか、思いつかないわね」
レアンは頭の中、知識を紐解きながら告げる。
ヘイムウッド、風属性の樹木の魔物だ。葉っぱの代わりに渦巻く風を纏う。『風葉樹』などと呼ばれることもある。
(んで、とにかくデカイのよね、風の葉っぱだ、って言っても竜巻なんだから)
だが竜巻さえどうにか出来れば、後は巨木にすぎない。幹には核があり、そこを砕けば朽ち果てるのだという。
「正直、カドリ様が一緒なら、何も問題は無い相手なのよねぇ」
レアンはポツリと呟く。既に似たような大きさの難敵ズカイラーを倒したことがある。同程度の相手なら魔力供給さえあれば、倒せない相手ではない。
(ちょうどいいわね)
内心ではレアンは不謹慎なことを思うのであった。




