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美麗魔獣使いは聖女の去った国で奮闘する  作者: 黒笠


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72 ボーンドラグーン2

 ボーンドラグーンがまっすぐに自分へと向かってくるようになった。手には立派な槍を持っている。

(元は、名のある武将の亡骸だった?とか?)

 あれで貫かれれば自分などひとたまりもない。

 迫りくる巨体にはなかなかの迫力がある。

「フォリア殿」

 庇うようにレックスが自分の前で剣を構える。

(私って、あまり守りのことを考えないのよね)

 なんとなくフォリアは思う。迫力があるとは思っても、恐怖はまるで感じない。倒すだけのことなのだ。頭の中にはいくつもの選択肢がある。

(全部、相手を、魔物を消し飛ばす選択肢だけどね)

 自分は聖女の割に好戦的すぎるという自覚もあった。見かけによらないともよく言われる。

 だが、もう一人、冷静な仲間がこの場にいた。

 練り上げられた魔力を感じる。見ると、マクシムが既に詠唱を終えたところだった。

「泥を飛ばす。泥弾丸速射」

 茶色い塊が幾つもマクシムの足元から撃ち出されていく。

「骨に泥なんて、なんの効果もねぇでしょう」

 バーガンが呆れた口調出指摘する。

(いえ、悪くない)

 フォリアはニコリと微笑む。

 果てしなく続くかと思われるほど、マクシムの泥の射出は続く。

 さらにそのまま、レックスの剣を構えるその腕に自らの手を重ねた。

「貴方の剣に、聖なる力を」

 レックスの名剣に聖女の加護を与えた。銀色の剣身が淡く白い光を帯びる。

「あの敵は、地に落ちます」

 意図的に笑顔を作って、レックスへとフォリアは向ける。

「そこを、この剣で、めっためったに斬り裂いてあげてください」

 自分の好戦的な言葉に、レックスが息を呑む。

 いい加減、慣れてほしい。

「いや、しかし、なんで、そう言い切れるんだ?」

 レックスも鈍いのだった。

「マクシム殿の狙いがまさにそれだからですよ」

 フォリアは答える。

バーガンに無駄と言われた泥の弾丸。ボーンドラグーンの身体に付着して重みを増していく。

「本来は相手の速度を抑えるための術なのだが」

 マクシムが呟いていた。

 飛んでいる相手には速度を抑えるだけには留まらない。

 ボーンドラグーンの身体がグラリと傾いた。泥が付着したことによって、重みが増したせいだ。さらには飛べなくなったらしい。

「無様ね」

 フォリアは微笑んで呟く。

 ゴシャァッと音を立ててボーンドラグーンが地を滑る。

「なるほど、さすがマクシムだ」

 薄く笑って、レックスがボーンドラグーンに近付いていく。

 重みでまだ飛べない骨の竜からジェネラルスケルトンが立ち上がる。近付いたレックスに突きかかろうと槍を構えた。

 立ち上がろうとした分、ジェネラルスケルトンのほうが不利だ。一手、反応が遅れていた。

 距離を既に詰めていたレックスが斬りかかる。

「殿下とあの間合いで切り結べるとは」

 バーガンが感心している。

「殿下は勝ちますよ。私が加護を与えているんですから」

 フォリアは言い切ってやった。

 同時にレックスの刃がジェネラルスケルトンの頭部を両断する。さらには槍の柄を斬り裂き、フォリアの言葉通り、ジェネラルスケルトンの骨を細切れにしていく。

「すげえな」

 バーガンが前言を撤回した。

 レックスの目にも止まらぬ斬撃が、ジェネラルスケルトンをただの骨の残骸に変える。

 身体の構成を保てていないほどに。

「さすがです」

 フォリアも見惚れて、近付いてきたレックスに告げる。

 優れた技術というのは、いつ見ても素晴らしいものだ。ただの斬撃に見えてもレックスのものは、一撃一撃が、重みも速さも並みの剣士とはまるで違う。

「最高の、労いですよ」

 レックスが笑顔で応じる。

「さすがのお手並みです」

 マクシムも褒め称える。

「ありがとう」

 レックスが言う。

「もう邪気も何も感じない。ただの骨にしてやったよ。あとは魔窟までさほどの障害は無いだろう」

 更にレックスが加えた言葉にフォリアは頷く。

「聖女でもないのに、殿下も邪気が分かるのですか?」

 指摘せずにはいられないのだった。

「ええ。だから、あなたに惹かれたのかもしれませんよ」

 見事に混ぜっ返されてしまうのであった。

「俺等はなんの役にも立たなかったな」

 バーガンがレーアに告げている。

「まだこれからよ。見せ場はまだまだあるだろうから。全部、私がものにしてやるわ」

 気丈にもレーアが言い返している。

「そうだ。魔物を無限に吐き出すのが魔窟だ。まだまだこんなものは序の口だ」

 厳しい顔でマクシムが言い放つ。

「進みましょう。ここで中に戦いの場を移せば、外の人たちの手を煩わせずに済ますから」

 フォリアは告げる。

 3人の言葉はすべて耳に入れていただけであった。フォリアの視線は魔窟に向けたままだったのである。

「あぁ、無論、そのつもりだよ」

 レックスが言い、先頭に立った。

 5人で再び歩き始める。

 やがて地面にポッカリと口を開けた穴の前に至った。

 緩やかな傾斜が穴の前には伸びていて、まるで中へと誘う舌のようだ。ここが魔窟の入口である。

(ついに、来た。やるわよ)

 フォリアは杖を握りしめ、巨大な穴を見下ろすのであった。

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