71 ボーンドラグーン
スケルトンたちを一掃したことで、一時的に魔窟の力を大きく削いだ格好だった。
(つまり、これは好機ということ)
フォリアはレックスとレーア、バーガンにマクシムを引き連れ、陣地を出て魔窟へと向かう。それぞれが部下を率いる立場であるため、副官らへの引き継ぎに若干の時間を要したものの。
「聖女様、万歳っ!レックス皇太子殿下、万歳っ!」
まだ勝ってもいないのに、兵士たちが喝采をあげる。
(見送りは不要、と言っておいたのに)
手を挙げて応じるレックスを横目にフォリアは思う。不謹慎だとも、呑気なものだとも思いつつ。
「それだけ皆が、この国で唯一の、厄介な魔窟の殲滅に希望を持っているということです」
レックスの言うことにも一理あるのだった。
「分かってます。でも、なんかこう、落ち着かないんです、こういうの」
フォリアはため息をついて歩く。
魔窟までの距離は4ゲンベルク(約12キロメートル)ほどだ。
自分にはレックスが張り付いているのはいつもどおりだが。同じく女性ながら腕利きの剣士であるはずのレーアにも、バーガンがピタリとくっついている。
(レーアさんに、バーガン殿の守りは必要かしら?)
歩き方や姿勢を見ていても武芸に長じていると分かった。そんなレーアに肘鉄をされているバーガンを見て、フォリアは笑いそうになる。
(でも、得意の騎馬戦は見られないわね)
魔窟内には瘴気も立ち込めているだろう。また、おそらくは洞窟の中での戦闘となる。狭いところでは当然、馬上というわけにもいかないだろう。
レーアにとっても不安材料がないでもないのだった。
(それに、一人だけ突出する格好になっても危険だから、バーガン殿が気にかけている、というのも悪くないのかもね)
いちゃついているようにしか見えない2人をみて、フォリアは考えていた。
それに魔窟の中がどうなっているのかは、フォリアにすら分からない。未知の場所への進攻、という側面もあった。
(もし、いざ行ってみたら、本当は騎馬のほうが良かったってこともあるのかしら)
それならそれで引き返して馬を連れてくるだけのことである。
「フォリア殿、考えずにはいられない立場なのかもしれないが、先日のような敵も出てくるかもしれない。用心を。私からはあまり、離れないように」
眼光鋭く、レックスが警句を発する。
いつ、どこから敵に襲われても即応出来そうな、そんな気配を発していた。即座に斬撃を放って敵を両断するだろう。
「ええ、もちろんです」
柔らかく微笑んでフォリアはレックスに応じた。気負い過ぎなようにも思える。もし、本当に両思いなら、微笑みかけることは無駄ではない。
「まだ、先日のボーンドラグーンが健在ですから」
くすんだ空気の中に広がる荒野である。遮蔽物はなく見晴らしは良い。こちらも敵の接近にすぐ気付くことが出来る反面、敵からは丸見えであるということでもあった。
そして、フォリアの眼は魔窟付近から飛び立つ黒い点を見落としはしないのだ。
「ほら、来ます」
にっこりと笑ってフォリアは告げる。
黒い点がぐんぐんと近づいてきて、皆が自分の言葉に即応した。
レックスとレーアが剣を抜き放つ。バーガンも弓に矢を番える。
「あなたは矢を温存して。まだ、先は長いんだから」
レーアが剣を構えたままバーガンに告げる。いつものようにツンケンとした口調ではない。
「なぁに。知ってるだろ。俺にも奥の手ぐらいはある」
ニヤリと笑い、のんびりとした口調でバーガンが応じる。ただ矢の雨を降らせるだけが能ではないらしい。
「それでもよ」
レーアが珍しく気遣うようなことを、バーガンに言ったのだった。
視線は接近する敵影に向けたままだ。
フォリアもじいっと敵に目を向けたまま佇んでいる。
骨格だけの肉の無い体、両側に広がる骨の翼が見て取れた。
(当然、あれはボーンドラグーン。分かりきってはいたけれど)
フォリアは目を細めた。
飛ぶ速度はかなり速い。乗り手はジェネラルスケルトンであり、飛んでいるのは骨の竜である。炎を吐くということはしてこないが、とにかく硬く、物理攻撃には強い。
(術者として厄介なのは、死角から高速で接近してきて、いきなり鷲掴みにしてくるからよ。来ると分かっていれば、どうとでもやりようはある)
フォリアはちらりとレックスにレーアを一瞥する。
空を飛ぶ相手には剣が有効ではない。骨の体にはバーガンの弓矢も微妙だ。
(でも、私の神聖魔術には耐えられるのかしら?)
フォリアは思いつつ、杖を掲げ、口の中で素早く祈りの言葉を囁く。
「ホーリーライト、閃光よ、貫け」
杖の先に据えられた魔石から光がほとばしり、一本の線に集束されてボーンドラグーンへと撃ち出される。
射程に敵を捉えたのだ。
ボーンドラグーンが急降下した。ホーリーライトの閃光が虚しく空へと消える。
(避けた。つまり効くってことね)
戦いの口火を切るのにちょうど良い光だ。
フォリアは思いつつ、薄く笑みをこぼすのだった。




