表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美麗魔獣使いは聖女の去った国で奮闘する  作者: 黒笠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/254

54 巨人討伐2

 あわててレアンはズカイラーを見やる。赤い人型の大山。まだ原型を保っていた。

 そして黒ずんだ溶岩の表皮の外側で氷が溶け始めていた。

「いやはや、大きいというのはそれだけで厄介だ。また、手を考えねばならないね」

 カドリが額に汗を浮かべて告げる。焦っている表情ではない。ズカイラーのせいで周りも暑いのだ。そしてとうとう氷が完全に溶けて、また赤い巨人が姿をあらわす。 

 そのズカイラーが、顔を上の方へと向けた。

 プゥッと口から炎を吹き出す。しばらくしてから炎の雨が視界を覆い尽くした。

「きゃぁっ!」

 恐怖のあまり、レアンは思わず悲鳴を上げてしまった。抵抗のしようもない。焼き尽くされて死ぬだけだ。無様に尻もちをつく。

 だが、予期していた痛みの一切が自分を襲ってこない。気付けば自分は何かの陰にいるようだ。

 見上げるとアブレベント、ムカデの甲殻の内側が視界を制圧している。炎の雨からアブレベントが自分とカドリを守ってくれていたのだ。

 そして目が合う。

『しっかりして』と言われているような気がした。

「分かってるわよ、悪かったわね」

 レアンは立ち上がり、もう一度、杖を握り締めた。

 一人、自力で炎の雨を避けたアレックスが再び、フレイムウィングと乱闘を繰り広げている。

「あんなのに、負けるわけにはいかない」

 レアンは呟く。

 炎の雨を降らせるぐらいしか能の無い相手なのだ。

(連中は?少しは減ったかしら?)

 レアンは顔を動かさず、視界の隅で駆けずり回る傷だらけの騎馬隊を一瞥した。2人ほどが落馬して倒れている。

「別に、良くも悪くも何も変わらない」

 レアンは口に出して、自らに言い聞かせる。

 地方の魔術師に過ぎない自分が、山のように巨大な魔物を、溶かされたとはいえ、一度は氷漬けにしたのだ。自信を持って良いことだと思う。

「その通りだ」

 カドリも自分を認めてくれたように思う。

 まだ力を注ぎ込まれている。文字通り力づけられているのだ。

「相手が大きいから、溶かされました。カドリ様、少しずつ、小さくしてやればいいと思いませんか?」

 レアンは笑みを浮かべて尋ねる。ただ確認しているだけのつもりだった。

「私もそう思うよ」 

 酷薄な笑みを浮かべたまま、カドリが頷く。わざわざ舞と歌の合間を縫って、相槌を打ってくれるのだった。

 この上ない、厚情と思える。そして、正解に辿り着いた。確信を持って、レアンは新たに魔法陣を頭の中で思い描く。

 自分の身体を怖いぐらいに青白い光が迸って覆う。

 しかも、まだ余力があるのだ。

(今なら出来るかもしれない)

 書物で見ただけの魔術だ。ズカイラーを砕かねばならないとなって、その存在を思い出した。

「凍結して砕けよ」

 レアンは冷気を槌の形に固める。

「氷槌ダラン」

 書物でしか知らない魔術、レアン自身が自分の人生で撃つことはないと思っていた。

 巨大な冷気の槌がズカイラーの左脚を襲う。衝突する前には既に凍りついていて、冷気による衝撃がその左脚を容易く砕いてしまう。

「あははははっ、いいザマァッ!」

 左に傾いて無様に倒れたズカイラーを目の当たりにし、レアンは高笑いをあげた。未だに自分の髪は青白い光を帯びたままだ。

「まだ、終わらないわよ」

 レアンは再度、頭の中で魔法陣を思い描く。

「凍結して、砕けよ」

 力が身体に馴染んでいく。

「氷槌ダラン」

 苦し紛れにズカイラーが垂れ流し始めた溶岩流。あえて正面から氷の槌を向かわせる。

 溶岩流があえなく冷気で固められてしまう。そのまま今度はズカイラーの右脚を砕いた。

「なによっ!一方的じゃないのよっ!」 

 カドリの力をもってすれば、どんな魔物も容易く倒せるのだ。 

 絶対的な自信を胸に、レアンは叫ぶ。

(再生するのかしら?でも、もう、私の勝ち筋よ)

 体積や相手の熱源を確実に奪っているはずだ。再生しても片端から氷漬けにするつもりである。

 レアンはさらに続けて両腕を、そして、胸と頭部だけになった巨体を、容赦なく真上から氷槌ダランを打ち下ろすことでとどめを刺した。

「お見事。やつの核を打ち砕いてやったようだね」

 カドリが額に汗を浮かべて告げる。

 岩からふわりと飛び降りる姿にレアンは目を奪われた。いちいち所作が誘惑するかのように美しいのである。

「はい。カドリ様のおかげです」

 如才なくレアンはカドリに擦り寄って告げる。

 あとに残ったのは、氷の大山だけだ。

「すさまじいね。あれは、数年は消えることなく、氷の山として残るだろう」

 苦笑いを浮かべてカドリが告げた。

「忌々しいから、あれも消し飛ばしてやりますわ」

 レアンは微笑んで告げる。

 自分はアレックスのようには笑えていないだろう。ちらりとレアンは思った。どうしても、どこかに小賢しさのようなものが出てしまう。

(あいつが笑うと、本当に笑ったって感じだものね。純粋な感じっていうの?あれ、真似できない可愛さなのよね)

 レアンは次第次第に髪色を今度は黄色に変えていく。黄色を通り越して、カドリの力の残滓によって金色にまで至る。

「我が敵の罪を咎めよ」

 バチバチと音を立てる自分の魔力を、レアンは槍の形に変えた。

「雷槍オグド」

 氷の山を雷が貫いて、中のズカイラーの残骸ごと消し飛ばす。

 今度こそ、終わった。もう敵は跡形もない。

 レアンは思い、ようやく肩の力を抜いてカドリに笑顔を向けるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
レアンちゃん、アレックスへの対抗心から湧き出るパワーがとてつもないですね! アレックスの純粋さも対比で際立っていて面白かったです。 また、アブレベントが身を挺してレアンちゃんを守っている姿が健気で良か…
[良い点] ああ、最高です。私の大好きなレアンさま無双回ですね。しかも雷の魔法まで使ってフォームチェンジ?までしてくれるなんて。もうレアンさましか見えません。うそです。 [一言] なんというキャラを生…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ